2014年09月08日

増税賛成派の軌道修正のワケ

 来年10月の消費税10%増税に関して、総理は今年の終わりに最終的に決断をするとしています。これは先日の内閣改造後の会見でも明言しています。

『安倍内閣総理大臣記者会見』(9月3日)http://goo.gl/Fw6NWD
<この消費税10%への引上げについては、これまでも申し上げてきたとおり、7月、8月、9月の経済の回復を含めて、経済状況等を総合的に勘案した上で年内に判断をいたします。>

 要するに、まだ白紙、まだ決めていないということです。ところが、周りの閣僚やエコノミストと言われる人たちは、先月の半ばぐらいまで「当然10%に上げるべきだ」としきりに言い立てていました。たとえば、甘利経済再生担当大臣は...、

『消費税10%「予定通りがベスト」 甘利経済財政相』(8月20日 朝日新聞)http://goo.gl/EGZjey
<甘利明経済財政相は20日、安倍晋三首相が年内に判断する来年10月の消費税率の10%への再引き上げについて、「ベストシナリオは予定通りに上げることだ」と述べた。>

ところが、最近一部潮目が変わりつつあるようです。同じ甘利大臣は同じ朝日新聞に対して2週後に...、

『消費増税なら追加的な経済対策も 甘利経済再生相』(9月5日 朝日新聞)http://goo.gl/f8xQ3N
<甘利氏は「(経済が縮小する)デフレに戻っては何のためのアベノミクスかとなる」と述べ、税率引き上げにはデフレ脱却が着実に進む見通しが条件になるとの考えを示した。首相は引き上げについて現時点では「全くニュートラル」との印象だという。>

 8月20日の時点では「ベストシナリオ」のはずの消費増税が、9月5日になると「デフレ脱却が着実に進む見通し」という条件付きに後退しています。なぜ突然こうなったのか?その答えが今日出ました。内閣府から発表された今年4-6月期のGDP改定値です。

『2014(平成26)年4~6月期四半期別GDP速報 (2次速報値)』http://goo.gl/QPkQX5

 1次速報値では全体で年率換算6.8%減だった実質GDPが、今回はさらに悪く7.1%減。全体だけでなく、個々の内容も厳しいものでした。私が注目しているのが、「民間企業設備」という項目。前回の1次速報値では前期比-2.5%だったものが、-5.1%に激減しています。今まで、「景気の落ち込みは想定内」「7-9月期は必ず持ち直す」と言い募ってきた経済マスコミはその根拠として、「個人消費は多少冷え込むかもしれないが、好調な企業の設備投資が下支える」と言い続けてきました。そして、先の4-6月期1次速報値が発表されると、民間の落ち込みに比べて企業の設備投資は落ち込みが少なかったので、「これを見ろ!やっぱり企業が引っ張るのだ!7-9は必ず盛り返す!予定通り増税だ」という論調が加速しました。ところが、その頼みの綱の設備投資が今回消費支出と同じだけの落ち込みであったことが発表され、消費税8%増税の影響が個人だけでなく企業セクターにも及んでいることが明らかになりました。増税派にとっては不都合な真実が明るみに出たことになるわけです。「これはハシゴが外れる!」と思ったのでしょうか?今まで増税一辺倒だった甘利大臣の発言も微妙に軌道修正していますが、新聞各紙も急にかじを切りました。象徴的なのは、日曜の日本経済新聞一面。今までの「財政再建のための消費増税大賛成!景気は底堅いから迷わず増税決断を!」という論調を考えると、コペルニクス的転換という見出しでした。

『景気回復もたつく 増税・天候、消費に影』(9月7日 日本経済新聞)http://goo.gl/ePYg2g
<景気回復の足どりがもたついている。個人消費は4月の消費税率引き上げ後の落ち込みを抜けつつあるものの、勢いは弱い。夏の天候不順に加え、増税による物価上昇ほど賃金は増えていないためだ。当面は設備投資が下支え役となる。消費税の再増税を乗り越えるには、投資から消費増につながる好循環を確実にできるかがカギとなる。>

 あくまで「夏の天候不順」が主で、消費増税は従というような書きぶりに無念さがにじみます。それでも、「消費税の再増税を乗り越えるには、投資から消費増につながる好循環を~」としています。増税へ期待をつないでいるわけですが、その「(設備)投資」も冷え込んでいるわけですから、これは消費再増税の前提条件がすでに崩れていると言えないのでしょうか?

 我々一般の肌感覚としては、「4月の増税ですでに一杯一杯。さらに10%への増税なんてもっての他!」と思うし、各種指数もそれを裏付けているとは言えないでしょうか?私は引き続き、総理の英断を期待したいと思います。
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プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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