2014年08月19日

政府の女性政策の落とし穴

 最近、因果を取り違えて大問題になることが続出しています。先日発覚した、しゃぶしゃぶ木曽路の"肉偽装"もそうでした。

『木曽路"肉偽装"は料理長の給与↑のため?』(8月15日 日本テレビ)http://goo.gl/qOCZ8P
<木曽路では牛肉の仕入れ先や価格は本社が決めるが、仕入れ量については各店舗の料理長に任せていた。原価を低く抑えれば売り上げが上がり料理長の給与が良くなった可能性があるという>

 理想論を言うようですが、飲食業の目的は顧客満足のはず。「美味しいものを食べて満足」とお客さんが思えば、売り上げは自然とついてくるもののはずなんですが、売り上げそのものが目標になったのでテクニックを駆使して数字だけを合わせるような"偽装"が横行したわけです。ただ、「結果」と「目標」を取り違えるこうした事例は、そこここで見られます。働いていれば誰しも、「ウチの会社も...」、「ウチの上司も...」と思うのではないでしょうか?

 そうした因果の取り違えは、国の重要政策でも見られます。その一つが、成長戦略の中に入っている「男女共同参画」。女性の社会進出と言われる分野です。この分野を報じるメディアはだいたい、「日本は遅れている!まだまだ進出が足らない!女性の数が少なすぎる!進出を加速させるために、働き方の改革を!」という論調です。その改革を促進するために、東京オリンピックが開かれる2020年までに指導的地位に占める女性の割合を全体の3割にするという目標を掲げ、さらに管理職の一定割合を必ず女性に割り当てるクウォーター制度の導入なども議論になっています。
 しかし、目標に数字が出てきたときには注意しなくてはなりません。数字が出ることで目標が明確化される一方で、数字だけが独り歩きして、中身がおろそかになってしまうこともあるからです。この20年までに3割という目標も、あるいはそのために管理職の一定割合を女性とするクウォーター制も、中身あってのものだと思うのです。案の定、中身である「働き方の改革」よりも、外見の「数字合わせ」に終始する企業の姿が浮かび上がってきました。この問題に関する典型的な報じ方をしている記事を見てみましょう。

『女性管理職を増やせ』(NHK 8月6日)http://goo.gl/iZz4Nr

中身を要約しますと、

・企業側は女性管理職を増やしたい
・一方、女性側はキャリア登用へ及び腰
・そこで社長が直接呼びかけたり、
・周りが配慮するようワークショップを開催したり。
・在宅勤務の拡大や
・短時間勤務制度を活用
・人材育成のあり方も見直すべき

といったところです。"女性"管理職を増やすのが目的ですから、女性側へのアプローチばかりがならんでいるのです。
 しかし、これらの報道に欠けているものがあります。それは、改革改革と言っていながら、すべて既存の働き方を維持することが前提なのです。
 男性は今まで通り仕事をする。
 女性は家事も育児もやり、その上でどうにかこうにか仕事もする。そのために、制度を整える。
 そうした、女性に無理を強いるモデルなんですから、そりゃ女性は及び腰になりますよね。記事の中に出てくるワークショップでも、「女性への接し方を考える」という発想がそもそも間違いで、「子供を持つすべての従業員への接し方」を考えなくては何も変わらないと思うのです。
 なぜ、女性が社会に進出するのと同時に、男性が家事や育児に進出することを後押ししないのでしょうか?人間には向き不向きというものがあります。仕事をバリバリやりたい女性がいる一方で、仕事はそこそこで良くて家事や育児の方が向いていると思う男性だっているはずなのです。それこそが、流行り言葉で言うところのダイバーシティ(多様性)というものではないでしょうか?
 男性にとっても女性にとっても子育てをしやすい環境を作ることで、能力のある女性は自然と業績を挙げ、結果として女性管理職の数が増える。上から無理やり引っ張り上げるというよりも、下から自然と増えていく。これがあるべき女性登用の方法だと思うんですが...。『2030年に3割を女性管理職に』という数字だけが独り歩きすることで、女性に無理ばかり強いることになりはしないか心配です。なにしろ、現状は非常に厳しいわけですから。

『民間企業の女性管理職6・6% 登用促す取り組み4割未満』(8月19日 共同通信)http://goo.gl/vhNKxN
<安倍政権が「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」との目標を成長戦略に掲げ、女性の活躍推進のための新たな法案作りを進める中、企業の取り組みは依然として追いついていない実情が浮かび上がった>

さらに、いわゆる「ガイアツ」を使った改革を迫るような報道も。

『日本女性の社会進出 米議会調査局が懸念示す』(NHK 8月13日)http://goo.gl/m7NEa0
<アメリカ議会調査局は、日本における女性の社会進出に関する報告書をまとめ、安倍内閣の政策に期待を示す一方、東京都議会で質問をした女性議員にやじが飛んだ問題などを取り上げ日本の政治文化や職場環境に懸念を示しました>

 率直に言って、余計なお世話なわけです。アメリカの議会に言われるまでもなく、我が国の国益に沿えば女性の社会進出を粛々と進めればいいだけの話で、こんなニュースを日本の各メディアが鬼の首を取ったように大きく報道する姿勢には首をかしげざるを得ません。政府・与党は女性の社会進出や人口減少を食い止めるために、秋にも議連を立ち上げ幅広く議論する予定だそうです。その設立準備会が7月の中旬にあったんですが、早くも心配な一コマがありました。

『「男女平等」日本は後発 出遅れる永田町に新議連』(7月27日 日本経済新聞)
<「子どものお迎えがあるので意見を申し上げたら退出したいのですが、いいでしょうか」。22日夕、東京・永田町の自民党本部。意見交換が始まってすぐ丸川珠代参院議員が立ち上がってこう言うと参加者らから歓声が上がった。「それは大事なことだ」>

 これが、名もなき男性一年生議員の発言で周りも快く送り出したのだとしたら希望が持てるわけですが、そんなことを言ったら男性議員は干されてしまうでしょうね。もちろん、丸川議員が仕事も育児もきちっとやる姿勢は素晴らしいと思います。そこをとやかく言うものではありません。ただ、「男性の育児参加」という視点、そのための労働環境改革がなくては、結果としての「女性の社会進出」も望めないと思うのです。今こそ、「急がば回れ」の施策が求められます。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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