2014年08月06日

報道しない自由?

 『経済』という言葉の語源は、『経世済民』という四字熟語だそうです。『経世済民』とは、三省堂新明解四字熟語辞典によれば、
<世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと。また、そうした政治をいう。▽「経」は治める、統治する。「済民」は人民の難儀を救済すること。「済」は救う、援助する意。「経世済民」を略して「経済」という語となった。>
とあります。
 すなわち、経済というのは金儲けのことではなく、人々を苦しみから救うように、世の中をよく収めることがその本質というわけです。
 我々は、そのことを骨身にしみて理解しているはずです。アベノミクス以前のデフレ不況では経済政策、金融政策の無策により我々国民は塗炭の苦しみを味わいました。日本がデフレに突入した1997年から、年間の自殺者数が毎年3万人を超え、去年ようやく3万人を切ったというのはその何よりの証左だと思います。

 このように、本来経済を左右する政策というものはそのまま国民の生命を左右するわけで、万々が一にも間違いがあってはなりません。それゆえ、毎週のように様々な経済指標が発表されていて、経済状況を逐一チェックできるようになっています。そして、我が国は民主主義国家であり、政府を代表する内閣総理大臣も我々国民の代理人にすぎないわけですから、本来はこの様々な経済指標についても我々国民が逐一チェックできなくてはいけません。各省庁はホームページにこれらの数字をアップしているんですが、そんなに細かくチェックできません。やはり、新聞などのメディア頼りになります。

 前置きが長くなりましたが、まずは原理原則に立ち返って、報道がいかに大事かを確認したかったのです。何が言いたかったかというと、その新聞報道が大問題だということ。
 これから先の経済を考えるときに、消費増税がやはり大きくクローズアップされます。今年12月に、消費税を10%に上げるかどうか、総理が判断をすると言われています。10%に上げられるかどうかは、足元の経済状況による。率直に言えば、好景気であるかどうかが問題になるんですね。

 新聞各社経済面は総じて消費税を上げるべきだということで歩調を合わせていますから、景気がいい数字は都合が良く、景気の先行きが不安という数字は都合が悪い。各メディアは公平に報じているというかもしれませんが、明らかに都合のいい悪いであからさまに扱いが違うのです。特に、経済専門紙、日本経済新聞の紙面にこの傾向が顕著に現れています。

 8月1日朝刊4面左手に2つの経済指標が並べて出ています。

 まず、大きな見出しに表も含めた記事3段で、
『夏のボーナス7.19%増 経団連まとめ、24年ぶり伸び率』http://goo.gl/2EuUAx
<経団連が31日発表した今夏の大手企業のボーナス集計によると、妥結額平均は昨年夏に比べて7.19%増え、86万7731円となった。2年連続の増加で、バブル期の1990年(8.36%増)以来、24年ぶりの伸び率となった。>
バブル以来の好景気到来!いい話です。

 そして、わざわざその真下にたった1段のベタ記事で、
『実質賃金、6月3.8%減 12カ月連続マイナス』http://goo.gl/XHAJ0v
<物価上昇が、賃上げを上回るペースで進んでいる。厚生労働省がまとめた6月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、現金給与総額が0.4%増える一方、物価上昇分を除いた実質では前年同月に比べて3.8%減った。>
 額面はちょっと増えているかもしれませんが、周りの物価はもっともっと上がっているので生活は苦しくなっている。12か月連続でマイナスなわけですから、アベノミクスはまだまだサラリーマンにはさほど波及していないことがわかります。これは非常に重要で、生活している肌感覚と近いのはどちらかと言えば、やはり後者。なのに、紙面構成としてはアベコベになっているわけです。世論をミスリードしようとしているのか?経世済民とは真逆ですよね。

 しかし、まだ記事にするだけマシなのかもしれません。消費増税の影響で景気が冷え込んでいるのではないか?という決定的な数字が、先日発表された6月の鉱工業生産指数です。
『鉱工業生産、6月3.3%低下 東日本大震災以来の下げ幅』http://goo.gl/wqcLm0
<経済産業省が30日発表した6月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は96.7だった。前月比で3.3%低下した。マイナスは2カ月ぶり。(中略)経産省は生産の基調判断を「横ばい傾向にある」から「弱含みで推移している」に下方修正した。>
 生産も出荷も前月比マイナスに関わらず、在庫だけは前月比プラス。生産の判断は弱含み。消費増税の影響が軽微で、4~6月期は落ち込んでも7~9月期はプラスになるのであれば、なぜ6月の終わりに「弱含み」になるんでしょう?都合の悪い数字です。

 そして、この記事、ウェブには上がっているんですがどこをどう探しても紙面にないのです!どうしてこれを報じないのか?ニュースバリューがないというのか?全く、理解に苦しみます。

 消費増税に賛成だろうと反対だろうと、正確な数字を知らなくては判断のしようがないでしょう。いやしくも『経済』を看板に掲げる新聞社が果たしてこれでいいのか?『経世済民』の根本に立ち返って報道してほしいものです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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