今日、日本のブルートレインの全廃が決定しました。色はブルーではなくグリーンなんですが、JR西日本が運行していた『トワイライトエクスプレス』の廃止が発表されたのです。
<大阪―札幌を結び、日本一長い走行距離で知られる豪華寝台特急「トワイライトエクスプレス」が車両の老朽化を理由に、来春限りで姿を消す。JR西日本が28日、発表した。>
これに先立って、JR東日本はすでに自社の寝台特急の全廃を発表していました。
<現在運行する「あけぼの」(上野-青森)は来春のダイヤ改正で姿を消し、「北斗星」(上野-札幌)は北海道新幹線の27年度末の開業に合わせて同年度中に廃止される見通し。>
今回JR西日本の会見では車両の老朽化が理由で、北海道新幹線の開業については触れられていないようですが、本当はそれがきっかけというのが鉄道ファンの共通認識です。特にボトルネックになったのが、青函トンネル。新幹線のレール幅は1435mm。一方、在来線のレール幅は1067mm。トンネル内は、新幹線レールの間にもう一本のレールを通す「三線軌条方式」で、両方の車両が通れるようにする計画です。
<青函トンネルを含む約82kmの共用走行区間については、軌間が異なる新幹線列車と貨物列車が共用走行を行えるよう、3本のレールを敷設する3線軌条方式を採用しており、(後略)>
両方の車両が通れるわけですから、JR東日本もJR西日本も運行の継続という選択肢もあったはずです。旅を楽しむ豪華寝台列車は、JR九州の『ななつ星』のように人気を博する可能性が高いからです。実際、北斗星もトワイライトも稼働率は上々だったはず。では、なぜ...?その答えは、青函トンネルの通過時間にありました。
下り(上野~札幌)は、深夜、日付が変わった直後に青函トンネルを通過。一方上り(札幌~上野)は、夜10時過ぎに通過します。
大阪発札幌行きは早朝4時過ぎの通過。一方、札幌発大阪行きは夜8時ごろに通過します。これの何が問題なのか?
まず、新幹線は沿線住民への騒音防止のために朝6時から夜24時までしか運行できません。
<2 本環境基準は、午前6時から午後12時までの間の新幹線鉄道騒音に適用されるものであるが、運行の遅延等により当該時間以外の時間に発生する新幹線鉄道騒音に対しても準用するものとすること。>
ですから、トワイライトの札幌行きは新幹線ダイヤには影響しませんが、それ以外の3本は多かれ少なかれ新幹線の運行時間中に青函トンネルを通過することになるんですね。そうなると、運行速度がまるで違う寝台特急が新幹線の行く手を阻むことになるのです。共用走行区間は82キロ。機関車が客車を引っ張る寝台特急では、走破するのに軽く1時間を超えてしまいます。一方、新幹線は1時間あれば100キロ以上走れますので、すぐに追いついてしまう計算。これがネックとなって、やはり北海道新幹線開業と同時に廃止という結論に達してしまったわけです。
しかし、何とも惜しい。何が惜しいかというと、ノウハウがここで途絶してしまうからです。これら豪華寝台特急は、寝台車、食堂車、ロビーカーなど国内ではここにしかないものが沢山あり、それに関わるサービスのノウハウも他で受け継ぐことが難しい。機関車が客車を引っ張る列車というのも非常に数が少なく、乗り心地の良い運転方法など有形無形のノウハウもこれまでとなってしまいます。今後、再びこうした豪華寝台列車を始めようとしても、一からノウハウを構築する必要に迫られるのではないでしょうか?世界を見渡せば、こうした豪華寝台列車が観光の目玉になり、沿線観光地も活性化している事例がいくつもあります。いわゆるトレインクルージングというもので、JR九州が『ななつ星』で実践しているビジネスモデル。JR東日本や西日本は、目先の車両の更新・新造の費用を惜しむことで、大事なノウハウが消滅してしまわなければいいんですが。