このところ、格安航空会社(LCC・ローコストキャリア)が揺れています。ピーチアビエーションは先月末の異常降下に続き、人手不足から2000便以上の欠航が発表されました。
<今年5月~10月に運航を予定していた国際線と国内線で、最大2128便が欠航になると発表した。>
また、バニラエアも欠航が発表しています。
<6月1日から6月30日まで、計画していた154便を欠航することを発表した。>
ピーチは日本のLCCのトップを走っていた会社でした。就航開始からおよそ1年半後の去年9月に累計登場者数300万人を達成。平均搭乗率は85%に上り、去年4月から9月の就航率は99.8%と、日本一。遅れたり欠航しがちというイメージのLCCにあって、信頼のおける会社という評判で、新聞・雑誌などで特集記事がいくつも組まれていました。
各社、パイロットの不足が原因で欠航が決まっています。なぜ、パイロット不足が欠航と直結するのかといえば、まずパイロットは機種ごとにライセンスが分かれているということがあります。ピーチやバニラが使うのはエアバスのA320。大手日系航空会社の主力、ボーイング767や777のライセンスを持っていても、操縦することはできません。操縦するためには、機種変更のための研修と試験をパスすることが必要です。
さらに、通常操縦は2人で行います。基本は機長と副操縦士の2人ですが、機長の資格のある人2人でも飛ばすことはできます。しかし、副操縦士2人で飛ばすことはできません。したがって、機長の不足が欠航に直結するわけです。過去には、機長が遅刻したり、前日呑み過ぎてアルコール検査をパスできずに遅延、欠航になったケースもありました。
さて、人手不足そのものはここ最近様々な業界で話題になっています。特にサービス業ではそれが顕著で、大手居酒屋チェーンや牛丼チェーンで、人手不足が原因でお店を閉めなければならない事例が出てきています。それゆえ、賃金を上げたり労働環境を改善したりすることで人を集めようと苦心していて、労働者から見れば環境が良くなっていっています。
しかしながら、LCCの場合はちょっと事情が違っていて、ローコストが売りの業界だけに、おいそれと賃金を上げられない。賃金を上げてもそれを運賃に転嫁できないわけですから、それだけコストがかかって経営者のクビを締める。しかし、日本では人が集まらない。ではどうするか?もはや、LCCは日本の会社じゃなくなる可能性すらあります。実際に世界にはそういった例もあって、ノルウェーのLCC、ノルウェー・エアシャトルは長距離線専門の子会社を雇用規制の緩いアイルランドに置いています。
その上で乗務員はシンガポールの航空人材派遣会社からの紹介で、タイベースのアジア人を採用しています。会社側は否定していますが、国際航空労組は人件費削減が目的なのは明らかだと批判しています。
アメリカの安売りチェーン、ウォルマートをもじって、「ウォルマーティング」に反対するという見出しにある通り、労働力を安売りするなと主張しています。このままでは、人件費の削減が行き過ぎ、生活するのも困難になってしまうと警告しているのです。というのも、パイロットの資格というのは世界共通。A320のライセンスを持っていれば、日本人だろうが中国人だろうがタイ人だろうがピーチやバニラの航空機を飛ばせるわけですね。これはいわば、究極のグローバル労働市場なわけで、賃金の安いところへ「底辺への競争」がパイロットの業界ではすでに始まっているわけですね。華やかに見える航空業界は国境を飛び越えるその特性ゆえ、一足早くグローバル経済の負の側面が迫ってきているわけです。今はまだ人件費の削減の議論にとどまっていますが、コスト削減の矛先がいつ安全面に向けられるかもわかりません。
翻って、最近の総理官邸のいわゆる成長戦略の議論を考えてみると、「グローバルスタンダード」に教育も労働環境も関税も法規制も合わせて行こうという方向性が見て取れます。「グローバル!グローバル!」とバラ色の未来のように言われますが、世界はそれほど甘いものではありません。日本語、日本の労働法というのが外国人労働者にとっては参入障壁であり改革対象とされていますが、むしろそれらに日本人労働者はグローバル競争、底辺への競争から守られていると考えることもできるのではないでしょうか?国際航空労組の危機感は、決して対岸の火事ではないと私は思います。