2014年05月07日

【集団的自衛権】いい加減、神学論争をやめよ

 集団的自衛権については、相変わらずの神学論争が続いています。どういった限定をつけるのか?いつ閣議決定するのか?どこまで譲歩すれば公明党が呑むのか?ニュースの焦点はそこに当たっています。

『菅氏「今国会こだわらず」 集団的自衛権の閣議決定』(5月7日 共同通信) http://p.tl/2xZY
<菅義偉官房長官は7日の記者会見で、集団的自衛権の(中略)閣議決定を今国会中に実施するかどうかについて「特別にこだわらない。時期ありきではなく、与党の理解が必要だ」と述べ、時間をかけて調整する考えを示した。
 自民党の石破茂、公明党の井上義久両幹事長は7日午前、東京都内で会談し、行使容認問題をめぐる与党協議を丁寧に進める方針を確認した。>

 私は、先週のこのブログでも書いた通り、論点が違うのではないか?と思っています。なぜ、「自衛」権の話なのに、「どうやって国を守るか?」というところが議論の土台となっていないのでしょうか?賛成派は「アメリカとの関係性」に終始していますし、反対派は国を守るという話をはるかに通り越して「地球の裏側で戦争をしに行く」話を出発点にしています。どちらにしても、本来「国を守る」手段の一つであるはずの集団的自衛権について、これを認めるor潰すことが目的になってしまっていて、「国を守る」という本質について触れられない不毛な議論となっていると思うのです。

 私なりに、本来あるべき議論がどういったものか考えてみました。
 まず、日本の周りをぐるりと取り囲む現状分析。大雑把に言えば、中国とアメリカの勢力均衡点が東へ東へと移っている現状。陸上国家で海へはさほど出てこなかった中国が、近年海軍力を増強してきている。一方のアメリカは財政問題や国内世論に押されて、アジアシフトといいながらも腰が引けてきている。その結果、冷戦から長い間、北緯38度線にあった勢力均衡点が東へ移りつつあるのが現状だと思うのです。たとえば、在沖アメリカ海兵隊のグアム移転について、アメリカ議会で予算が満額認められたのもその証左。そして、米中の勢力均衡点が東へ移れば移るほど、日本列島はいわば仮想の前線へと近づいていきます。そういった現状で、押されているアメリカとの2国間同盟だけで果たしてこの国を守れるのか?我が国が取れる選択肢は多くはないと思います。

①今まで通りの日米同盟
→アメリカがこれ以上引いたときにどうなる?
②日米同盟を基軸としつつ、アジア太平洋地域全体で安定する機構を構築
→平和憲法、特に憲法9条に抵触
③勢力均衡点の中国側にいるのだから、日中同盟にシフトする
→今の価値観(自由民主主義、基本的人権の尊重、法の支配)の維持は不可能
④どちらにも頼らず、莫大な予算を使って自主防衛
→核を持たずにできるのか?しかし、核を持てば国際的な軋轢は必至
⑤どちらにも頼らず、さりとて軍事力にも頼らず、外交力で遊泳していく
→理想だが、果たして本当にそんなことが可能なのか?

 ①が厳しくなってきたというのが現状。しかし、③は受け入れがたい。というのが出発点ではないでしょうか?勇ましい人の中には④を選ぶ人もいるかもしれませんが、すぐに日本全土を守れるような準備ができるとは思えません。むしろ、その隙に③になってしまうリスクもあります。
 そう考えると、残るは②か⑤となりますが、⑤は本当に可能なのか?アメリカ大統領のセオドア・ルーズベルトが言ったように、「大きな棍棒(こんぼう)を携え、穏やかに話せば、成功するだろう」というのが外交の本質。ならば、棍棒なしでは話し合う⑤は成功しないのではないか?と考えられます。
 では、②を選ぶとなると引っかかるのが集団的自衛権。地域全体の安定を図ることで、自国の平和を担保する。そのためには、ヨーロッパのNATOがそうであるように、各国が集団的自衛権を行使することを前提に抑止力を高めるのです。私は、これがあるから今、集団的自衛権の議論が持ち出されているのではないかとにらんでいます。

 しかし、これが政治家の誰からも声が上がらない。なぜかと思っていたら、ある政界関係者が教えてくれました。
「朝鮮半島への間違ったメッセージになりかねない。だから、特に政府官邸は絶対に言えないんだ」
 間違ったメッセージとは?
 これは遡ること64年、朝鮮戦争にさかのぼります。1950年1月、当時のアメリカの国務長官、ディーン・アチソンが、「アメリカが責任を持つ防衛ラインは、フィリピン - 沖縄 - 日本 - アリューシャン列島までである。それ以外の地域は責任を持たない」と発言。ここで朝鮮半島に言及がなかったことで、北朝鮮は「アメリカによる西側陣営の南半部(韓国)放棄」と受け取り、朝鮮戦争の引き金の一つになりました。

 それを考えると、
「日本政府が、集団的自衛権はアジア太平洋地域の集団安全保障のためと明言すれば、米中勢力均衡点が東にズレたことを裏付けることになり、ひいては、より前線に近い韓国に対するアメリカの関与が弱まっているのでは?というメッセージを送ることになる。政権が揺らいでいる北がどう反応するかわかったもんじゃない。官邸が言えるわけないだろう?」
 なるほど、政府側はそうかもしれません。しかし、国会議員はどうでしょう?外交的なメッセージを気にせず、国民の生命、財産を守るためにどうすべきかの議論ができるのが国会議員なのではないでしょうか?国民の生命、財産を守る「自衛」権の議論。立場の違いを生かして、本質的な議論ができないものか?この国の国会議員には、その責任感が残っていると信じてはいますが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ