2014年04月30日

集団的自衛権議論に欠けているもの

 集団的自衛権を巡る議論が続いています。総理の諮問機関、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)は集団的自衛権の行使容認に向けた報告書が連休明けにも提出され、議論はいよいよ政治の場へと移ります。

『【集団的自衛権】 行使容認へ「文民統制」強調  法制懇5月中旬に報告書 憲法解釈変更へ作業加速』(共同通信 4月27日) http://p.tl/EnKr
<大型連休明けの5月中旬ごろ報告書提出を受け、憲法解釈変更の原案となる「政府方針」を策定。与党協議を経て夏以降に閣議決定する方針。>

 この安保法制懇報告書の中身がポロポロとメディアに出てきていますが、ここでの議論があまりにアメリカとの関係に寄り過ぎていて、結果議論の焦点がぼやける原因になっている気がします。上に挙げた共同通信の記事の中には、
<具体例には、公海上で自衛隊と並走する米艦船の防護や、中東までのシーレーン(海上交通路)の機雷掃海、米国を攻撃した国へ向かう船舶の臨時検査を明示する。>
と書かれていて、どうやら議論の中心は「日本はどうアメリカに協力するか」におかれているようです。しかし、本当にそれでいいんでしょうか?集団的自衛権の本来の意味を考えてみると、メディア上での集団的自衛権議論に欠けている部分が見えてきます。

 そもそも自衛権とは、国を守る権利であって、これはあらゆる国に固有の権利として認められるもので、国連憲章51条には、
<この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。>
とされています。他国から攻撃を受けた際には、個別的、集団的の別なく、国連安保理が動くまでは行使が認められている権利なわけですね。

 そして、今ほどこの集団的自衛権がクローズアップされたことはありません。というのも、クリミア半島から始まった今のウクライナ問題が持ち上がったからです。議論は様々ありますが、この一件が浮き彫りにしたのは、五大国が拒否権を発動すると、国連安保理は機能しないということ。今燃え盛っているのは東ヨーロッパのウクライナですが、この問題に対する世界の動きをじっと見ているのが中国。尖閣や南シナ海で同じように力による現状変更を試みた場合、同じように国連安保理はマヒ状態に陥って、どんなに待っても国連軍はやって来ません。中国は拒否権を保有している五大国ですから、誰が何と言おうと中国が実力行使した場合は間違いなくそうなります。

 しかし、今まで中国は実力行使に踏み切ることはありませんでした。それは、日本が話し合いで平和外交をして努力をしたからではありません。中国自身の実力がそこまで高くなかった、アメリカの抑止力が効いていたからに他ならないわけです。ちょっと遡りますが、アメリカと中国の双方の抑止力のバランスした点、勢力均衡点は、冷戦時代は朝鮮半島の38度線。そこで、西側陣営と東側陣営が対峙していました。そして、冷戦終結後しばらくも、中国の国力が小さかったために、この38度線の勢力均衡点が維持されました。

 ところが、今はその勢力均衡点が東へ東へとズレて行っているようなのです。その証拠に、韓国は中国に近づいて行っています。また、もう一つのかつての東西対峙点、台湾でも、馬英九政権は中国寄りの姿勢を見せ、それゆえ学生による議会占拠まで起こりました。

 さて、そんな、急激に東アジア情勢が変わる中、日本の集団的自衛権の議論は旧態依然としていないでしょうか?アメリカとの関係ももちろん大事ですが、勢力均衡点が東にズレ、好む好まざるとにかかわらず日本が米中対峙の最前線にならざるを得なくなる中、果たして日米2国間同盟だけで守れるのか?むしろ、アジア版NATOのような地域集団安全保障機構で、みんなで抑えるという考えも必要なのではないでしょうか?自民党の石破幹事長がこの議論の最初に少し言及していましたが、それだけです。

『目指せ「アジア版NATO」 首相、石破氏に調整指示 実現へ3つの関門』(産経新聞 3月7日) http://p.tl/YjhY
<石破氏は同日(3月6日)、軍事的な台頭を続ける中国への抑止力として「アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設構想」も披露。>

 アメリカも含め、アジア版NATOで地域の安全を担保していく。そのためには、集団的自衛権の行使を認めなくては地域集団安全保障機構もできない。だから、今、集団的自衛権が必要なのだ。賛成派は、なぜこう言って議論を進めることをしないんでしょうか?
 一方反対派は、集団的自衛権の容認をせずに、ではどうやって日本を守るのか?どうやって、このアジアの平和を担保していくのか?といった疑問に答えていません。小手先の法律解釈論で、個別的自衛権の延長で対応できるというような話ではありません。
 賛成派も反対派も、あまりに対アメリカに議論が寄り過ぎていて、まるで神学論争のようになっている気がします。連休明けの政治レベルでの議論では、ぜひこの国をどう守るのか?という視点で議論をし、そこを掘り下げる報道を期待します。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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