2014年04月22日

2013年度の貿易赤字、新聞の論調は『アベコベノミクス』だ!

 2013年度の貿易収支が発表され、各紙経済欄はハチの巣をつついたような大騒ぎをしています。これに関しては、保守・リベラルの別なく「えらいこっちゃ!」という見出しなのが興味深いですね。

 

『貿易赤字最大13・7兆円 燃料輸入増、産業空洞化 13年度』(4月21日 東京新聞)http://bit.ly/1iF5ZV1
<財務省が二十一日発表した二〇一三年度の貿易統計(速報、通関ベース)は、輸出から輸入を差し引いた貿易収支が十三兆七千四百八十八億円の赤字だった。統計で比較できる一九七九年以降でみると、赤字額は三年連続で過去最大を更新した。貿易収支の三年連続の赤字は初めて。輸出は三年ぶりに増えたが、火力発電の燃料になる原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入の増加幅が上回った。>

 

『輸出拡大シナリオ限界 貿易赤字10兆円大台』(4月21日 産経新聞)http://on-msn.com/1juBFcm
<平成25年度の貿易統計では、貿易赤字が年度ベースで初めて10兆円の大台を突破した。急速な円安の進展で輸入が膨らむ一方、輸出量は伸び悩み、貿易赤字に歯止めがかからない。国内製造業を中心とした構造変化が進む中、円安誘導による輸出拡大シナリオは限界に来ている。>

 

 他の新聞も含めて、おおむね「大変な数字になってしまった...」「景気は悪くなる!深刻だ!」という論調にあふれていますが、果たして本当にそうなのか?私はそんなに悲観する必要があるのか?と思うんですね。日本は、貿易赤字国ではありますが、一方で経常黒字国でもあるんです。単純に輸出と輸入を差し引きするとマイナスになりますが、過去の対外投資が積みあがっていますので、そこからの利子や利益などの上がりを足すと、黒字に転換するんですね。
 この、貿易赤字で経常黒字の国を、経済学者のクローサーは『成熟した債権国』と呼んでいます。クローサーが唱えた発展段階説によると、6段階の発展段階の5番目。ただ、6番目は債権取り崩し国なので、今の『成熟した債権国』というのが経済発展段階としてはピークと言えるものなのです。これが、深刻な構造問題となるのでしょうか?経常赤字にならないようにコントロールしていけば、これ以上ないポジションなような気がします。

 

 この、貿易赤字というのは、外国から物やサービスを大量に輸入しているから生まれます。今は石油や天然ガスを大量に輸入しているからという面が大きいので、そもそも構造要因の赤字ではない。その上、輸入が多いというのは『国内の需要がそれだけ旺盛だから』で、輸出が伸びていないというのも、『国内の需要が旺盛な分だけ輸出に回すほど余裕がない』という見方もできます。むしろ、貿易黒字というのは『国内で売れないから、海外へ持って行かざるを得ない』という国内不況を原因としている場合も多いのです。たしかに、ここ1年の貿易赤字はアベノミクスの景気拡大期に当たりますし、その前の貿易黒字を続けていた時期は民主党政権下のデフレ期とピッタリ一致します。

 

さらに、いかに貿易赤字が悪いと言ってもすぐに経済に悪影響が出るほど、日本経済は貿易に頼っていません。世界銀行の統計に、各国のGDP全体に占める貿易の割合が出ています。
『Exports of goods and services』(THE WORLD BANK)http://bit.ly/1iFa0Zr
これを見ますと、日本の名前はなかなか出てきません。2012年のデータでは、日本のGDP全体に占める貿易の割合、貿易依存度はたったの15%。全体の137位に過ぎません。

 「日本は貿易立国だ」「加工貿易が日本の生命線なんだ」と学校でも教わってきて、貿易立国というイメージが染みついていますが、データでみると圧倒的な内需国なんですね。もちろん、品目別ではエネルギーなど圧倒的に輸入に頼っているものもありますから、今更鎖国するわけにはいきませんが、「日本は貿易が赤字になるとダメになる」というほど依存しているわけではありません。

 

 というわけで、少なくとも経常黒字が続く限り、貿易赤字など気にする必要がありません。むしろ現状では、「貿易赤字=好景気、貿易黒字=不景気」と認識を改める必要があるかもしれません。そう考えるとちょっと心配なのが、2014年に入ってからの月ごとの貿易収支。

『平成26年3月分貿易統計(速報)』(財務省)http://bit.ly/1juGMJy
 2月の速報値を見ると、赤字幅が急激に縮小しているんですね。さすがに3月の速報値は消費増税前の駆け込み需要もあって赤字額が伸びていますが...。果たして4月の数字がどうなるのか?黒字となれば新聞・テレビなどは「良かった良かった」という見出しを掲げそうですが、用心してかからなくてはなりません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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