2014年02月27日

検証 京浜東北線川崎駅横転事故

 東急東横線元住吉駅での追突事故の記憶がまだ鮮明な中、また週末に鉄道事故が起こりました。

『京浜東北線の回送電車が脱線、横転...JR川崎駅』(2月23日 読売新聞)http://bit.ly/1kbFiJm

 第一報のレベルで、なぜ閉塞が効いていなかったのか?と疑問がわきました。先週も書きましたが、鉄道は基本的に線路を細切れに分けて、各ゾーンには1編成しか入れないように管理します。工事車両が入っているのなら後続電車はそのゾーンに入れないように、直前の信号が「赤」になっているハズなんですが...。それに、京浜東北線は東横線と同じATC(自動列車制御装置)を採用しているので、ゾーン手前で強制的に停止するようにできているハズなんですが...。これらの疑問についてJR東日本は即座に会見を開き、説明しました。

 

『京浜東北線横転:JR東日本が会見 手順無視し「間違って進入」』(2月23日 神奈川新聞)http://bit.ly/1kbHctw

 

 この会見によると、作業用車両のような小さな車両の場合、システム上位置が検知されないのでATCによる自動停止は不可能であったそうです。そのため、運輸指令にその都度連絡して、ゾーンを「閉鎖手続き」をしなければならないが、それを怠ったことが事故原因と結論付けています。オペレーターは事故直前に退避したと書かれていますが、それ以外にも作業に携わっている人間はたくさんいたはずです。その中の一人でも、なぜ後続列車に作業車の存在を知らせる行動ができなかったのか?発煙筒でもいい、駅構内なのでホームにある列車自動停止装置でもいい。なぜ出来なかったのかがまず、残念でなりません。

 

 そして、この会見では一つ不思議なことが言われていました。JR東日本の聞き取り調査に対して、ゾーンの閉鎖を行う担当者は<北行(東京方面)の閉鎖手続きのために運行状況を確認しているさなかに事故が起きた>と言い、工事管理者も<作業開始の指示は出していない>と話しているということです。ということは、もちろん調査中なので断言はしていませんが、作業用車両のオペレーターの独断で北行の線路に進入し、結果事故が起きたと言っているも同然です。鉄道というシステムは膨大な人の手がかかって電車が走っています。それゆえ、何をするにもチェック・ダブルチェックが必ず手続きの中に入っています。指示があり、それを復唱したうえで声に出して指さし確認をし、一つ一つの作業を進めていく。したがって、オペレーターが独断で動かすなんてことは俄かには信じられないわけですね。

 

 実際に保線に関わる人に取材しても、やはり同じような意見でした。JR東日本の工事の場合、通常工事の3日前に当日の全ダイヤがプリントされたFAXダイヤが手元に来て、作業時間の検討が行われます。当日は、JR東日本の研修を受けて合格した「列車見張り員」がそのFAXダイヤと、列車の接近を知らせる無線機を携帯し、回送電車をやり過ごした後に閉塞作業(信号を赤にする)に着手し、架線の電気も切り、現場監督と列車見張り員のダブルチェックで確認した後、ようやく作業を開始するそうです。事故直後の会見であったようなオペレーターの独断なんて、「信じられない...」と口を揃えました。

 

 しかしながら、新聞、テレビといった大手メディアは「オペレーター単独ミス」でそろって報道。警察リーク情報で追い打ちをかけます。

 

『工事車両運転手「時間を間違えた」 京浜東北線脱線事故』(2月24日 朝日新聞)http://bit.ly/1fWae9p

 

 警察リークをそのまま報道することの危険性については様々なところで言われていますが、清水潔さんの『遺言―桶川ストーカー殺人事件の真相』、『殺人犯はそこにいる』という一連の著作に詳しく取り上げられています。この朝日の記事も、捜査関係者が明らかにしたというオペレーターの話を載せている一方、工事管理者らの話はよく見るとJR東日本の調べをもとに書いています。まだ調査中の事故であるのに、まるでオペレーターの責任のような印象に誘導する記事。報道の常道として、両論を併記するべきではないのでしょうか?

 さすがに、オペレーターを派遣した会社、恵比寿機工が自社のホームページ上で反論しました。アクセスが殺到したため、現在はホームページ上からは削除されていますが、書いてあった内容は、私が取材した保線関係者の見方とほとんど一緒でした。以下、一部を引き写します。

 

<(前略)鉄道工事関係者の中では明白な事ですが、軌道工事において下請け作業員が単独で重機を入線させることは不可能です。

川崎駅改築工事の重機入線ルールでは、
 (1) 線路閉鎖責任者  -  元請け企業
 (2) 現場管理者および工事管理者  -  元請け企業
 (3) 重機安全指揮者  -  警備会社
 (4) 重機オペレーター  -  弊社

という順に入線許可の連絡が下りて来る手順となっておりました。

しかし、報道では(3)重機安全指揮者の指示の有無に関して一切触れられておらず弊社(4)重機オペレーターの行動が原因とされています。
そもそも(4)重機オペレーターが(3)重機安全指揮者の指示なく入線することは、(4)重機オペレーターの命に係わる行為となるためどのような状況であっても起こりえません。
事故当日に、弊社(4)重機オペレーターが(3)重機安全指揮者からの指示を受け軌道へ入線した事は複数人の証言より明らかです。(後略)>

 

 現場の見方をなぜメディアは報じないのか?取材していないのか?取材しても何人もの手が入って落とされるのか?事故原因については、国の運輸安全委員会や神奈川県警の事故調査を待ちたいと思いますが、大手メディアには冷静な報道を期待したいものです。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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