2014年02月05日

隙間風

 公明党の山口代表がある党会合で発した言葉が、今週末マスコミを賑わしました。
「安倍晋三首相と私の間にはちょっと隙間があるけれど、風は吹いていない」

 

『公明代表「首相との間にちょっと隙間」』(日本経済新聞 2月2日)http://s.nikkei.com/1eph7EW

 

 その後、山口代表も自民党幹部も釈明に追われる一幕がありました。山口代表がある会合でで、
「まったく、口は災いのもとですね。今国会はあまりニュースがないので、まるでピラニアに食い荒らされるようにメディアに報道されてしまいました。」
と、苦笑しつつ挨拶していました。

 たしかに、去年の参院選でねじれが解消してからというもの、盛り上がりに欠ける国会。臨時国会は特定秘密保護法案一色に染められ、紛糾しましたが、今国会は今のところ補正予算案の審議が滞りなく進み、いきおいメディアにとってはさしたるニュースがないということになっています。それゆえ取り上げられたニュース、取るに足らない発言なんですよというのが与党サイドの言い分ですが、実はこの隙間風が今国会の大きなテーマにもなりそうなのです。

 

 自民党と公明党で割れているといえば、繰り返し報道されるのが『集団的自衛権』。これに関する憲法解釈を変更し、安倍総理の外交方針『積極的平和主義』を体現していこうというのが官邸サイドの意向です。一方の公明党は、平和の党を標榜しているだけに非常に慎重です。


『公明代表、集団的自衛権の「国会論戦は時期尚早」』(産経新聞 1月30日)http://on-msn.com/1e2TMCI

 官邸サイドとしては、これを足掛かりに憲法改正も視野に入れているだけに、対立点が分かりやすい。それだけに、これこそが自公の間に吹く隙間風だと思われていますが、実は隙間はこれ一つではありません。

 

 今日、政府税調の総会が行われ、本格的議論が始まった法人税減税。

『法人税減税を本格論議へ 政府税調、課税範囲拡大も』(北海道新聞 2月5日)http://bit.ly/1epmwMb

 総理が意欲をしめすこの法人税減税について公明党の山口代表は昨日の定例会見で答えています。党としてまだ正式に決定していないと前置きしたうえで、
「中長期的な視野でこの課題は検討していくべき。法人実効税率の引き下げということは、あって然るべき一つの目標であるという考えは持っていますが、その効果やタイミングについては慎重な検討が必要だと思います。財政健全化の中での意味を考えなければいけませんし、また、経済成長を促進するという点でも重要な意味を持っていると思います。総理のダボス会議での言及というのは、今年度の税制改正で盛り込んだ措置をしっかりアピールされているという点が主だった。一般論として議論の課題であろうと思います。」
 ニュアンスとしては、法人減税にはかなり慎重。むしろ反対というような口ぶりです。この法人税減税は、安倍政権の成長戦略の目玉の一つです。それに対して、公明党は慎重。しかも、その理由として「財政健全化」を挙げているのは、財務省の慎重姿勢とそっくりです。ある政界関係者は、
「消費税を10%に増税するときに軽減税率導入を公明党は主張している。それを呑むから、法人税増税は反対してくれと財務省がかなり公明党サイドを口説いているらしい」
と解説してくれました。法人税減税をめぐる対立はアベノミクスの成否を左右しかねない対立だけに、こちらの隙間風の方がむしろ深刻かもしれません。

 

 さらに、昨日与党ワーキングチームが発足した教育委員会改革も隙間風となりそうです。

『教委改革:「首長に教育行政の責任案」公明に根強い慎重論』(毎日新聞 2月5日)http://bit.ly/1eprWH3

 この教育委員会改革に関しては、去年、中教審(=中央教育審議会)が下村文部科学大臣に改革案を答申しています。改革案には、これまで教育委員会にあった教育行政の決定権限を自治体の長に移す案(A案)と、決定権限を教育委員会に残す現行制度に近い案(B案)が併記されていて、記事にもある通り、公明党の山口代表はこのうちのA案に対して慎重な姿勢を見せています。一方、政権側は「与党はA案を中心に議論してほしい」(下村文科相)と明言しています。

 この発言は、月曜の衆院予算委員会の中で飛び出しました。記事にはありませんが、この発言を引き出したのは日本維新の会の中田宏衆議院議員。維新の会はこの自公の隙間風、すれ違いを広げるべく、虎視眈々と狙っています。というのも、大阪・橋下市長の辞任の原因を見るまでもなく、維新にとって公明党は宿敵。「浪速の仇を江戸で討つ」というわけです。さらに、旧太陽系と大阪系の確執も噂される維新にあって、公明党に対するスタンスは双方一致できる数少ないポイントなだけに、党内の結集の意味もあるんですね。

 

 これまで挙げてきたとおり、今国会で取り上げられる政策テーマの中にはいくつもの隙間風があるわけですから、維新の会にとってはまさに攻め手に欠かない展開。自公の隙間風と、それをあおる維新の会。今国会の隠れた注目ポイントです。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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