2013年12月23日

大学も稼ぐべき?

 年末の3連休となれば動いているニュースも少なく、新聞各社は独自の調査報道記事が一面を飾ることが多くなります。手っ取り早いのは、統計系の調査報道です。たとえば、今日の読売新聞のこんな記事。
『製薬企業の寄付、ライバル多い生活習慣病に集中』(12月23日 読売新聞)http://bit.ly/19lKqa6

 

 個別に公表しているデータを独自に集計し記事にするのがこうした記事の特徴ですが、取り上げ方によっては首をかしげざるを得ないものもあります。先日私が首をかしげたのは、日経新聞の一面。
『国立大の利益、東大首位 昨年度、私立は近畿大 付属病院や授業料寄与』(12月22日 日本経済新聞)http://s.nikkei.com/19lKu9H
 見出しからしてそもそもおかしい。大学の目的は利益を上げることなのか?それをランキングにして発表することに何の意味があるのか?その上、一面トップに持ってきて大々的に公表することの意図は?

 こうした記事を一面トップに持ってくる以上は、この新聞社の意見として、大学も稼がなくてはならないとしているのでしょう。それはそれで一理あります。これだけ財政的に厳しいと言われている(私はそこまで深刻に思っていませんが)昨今、少しでも財政に貢献することは重要なのかもしれません。

 それでは、その指標として当期純利益を使うのは果たして正しいのか?大学に期待される社会貢献とは、民間ができない研究をして、民間が利益を生み出すヒントとなるような成果を生み出すことなのではないでしょうか?それは、1年2年と言った短期で成果が出るものではなく、10年、20年、場合によっては50年100年と言った長期、何代にもわたる研究なのではないでしょうか?その際、当期純利益という1年単位で出てくる収支はどれだけの重みがあるのでしょうか?単年度では赤字でも、長期で見れば利益が出る。そうした研究こそが、大学の行うべき研究なのだと私は思います。

 

 そもそも、国立大学を含めた公共団体でどこまで利益を追求すべきなんでしょうか。ここでポイントとなるのが、国の借金といわれる国債発行残高。
「借金を返さなければならないから、利益を追求しなくてはならないのだ!」と言われれば何となく正論のように聞こえるんですが、実は国の借金の返済義務は国民にはありません。累積で1000兆ともいわれるこの国債発行残高を表すのに、国民一人当たりで割って、「一人当たり800万円の借金!今にも破たんする!」と言われますが、ではその国債を誰が買っているのかを調べると、9割方国内で消化されており、さらに金融機関がその大部分を所有しています。金融機関が国債を購入する原資というのは我々個人の貯蓄であり保険購入代金であるわけですから、元をたどれば国債を買っているのは我々大部分の日本国民ということになるわけですね。金貸しているのはこちらなのに、「一人当たり800万円!」なんて言い募って、まるで我々が借金を背負っているような書きぶりというのははなはだおかしいというのがお分かりいただけると思います。

 

 さらに、こうした人々が勘違いしているのは、家計の借金と同じに思っているところ。前にも書いたかもしれませんが、我々人間の命には限りがあります。それゆえ、家計の借金は生きている間に返さなくてはなりません。だから、20年や35年という年限が決まっているわけですね。一方、国家というものは永続することを前提に全ての組織、権限が組み立てられています。「国債には年限が付けられているじゃないか」と反論されるかも知れませんが、借り換え借り換えで60年を一つの目安に返済しているわけですから、家計と比べてみるとその長さは比べようもありません。
 返済期限が長いということは、それだけ長期的な視点に立ってお金を使えるということ。もちろん、借り換えの時に金利が高騰していては苦しくなりますから、返せるメドは示さなくてはなりません。それは何かといえば、少なくとも税収が利払い以外の支出を上回ること。長い長い目で見て借金が減るという道筋が見えることが、国債の信認というものなのではないでしょうか?放漫財政が過ぎるのも問題ですが、今のように出来るだけ早く借金を返さないといけない!と縮みあがるのも同じく問題だと思います。

 

 必要なところには資金を配分する。大学の、特に基礎研究などはそれにあたると思うのです。そして、なぜここまで紙幅を割いてこの記事を批判してきたかといえば、この記事の執筆者は本当はそれが分かっているからです。有料部分にこんな1文が載っています。
<大学は稼ぐことが目的ではない。だが経営力が高いほど教育・研究施設の充実に向けた投資もしやすくなり、大学の魅力度向上につながる。>
分かっていて、ではなぜこの記事を書く?ランキングにする?確信犯で書いている記事が一面トップに来るのですから、よほど悪質だと思います。あえて読者に間違った判断をさせようとしているのか?それとも単なる説明不足なだけなのか?疑問の大いに残る紙面です。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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