2013年12月02日

新防衛大綱、海空重視は本当に正しいか?

 12月に閣議決定が予定されている防衛計画の大綱。安倍総理が「積極的平和主義」という概念を説いている中だけにいつにも増して注目を集めており、その内容のリークが各メディアを賑わしています。様々な記事が出ていますが、大きな流れとしては「海空重視」というのが大方の見方のようです。

 

『中国軍対応に重点 護衛艦増強、離島へ機動力 新防衛大綱骨子』(産経新聞 11月28日)http://on-msn.com/1bcTd86
<政府は戦車や大砲の定数を現大綱の400から300に減らす一方、護衛艦を増やすなど、南西諸島への機動展開力に軸足を移した態勢に改める方針だ。>

 

 中国軍対応を考えれば、海から攻められるであろう。陸が戦場になるようならもうお終いであるから、それを未然に防ぐ海空をまず整備すべし。という論調が当たり前のように語られていますが、果たして本当にそうか?陸上でも様々なことが起こるような気がするんです。先の防空識別圏の問題が報じられている時に、片隅で小さくこんな記事が載っていました。

『「重大事件」に備え登録を=関係悪化で臆測も-在日中国大使館』(時事通信 11月25日)http://bit.ly/1dKOFO6
<在日本中国大使館(東京)は在留中国人に対し、「重大な突発緊急事件」の発生に備え、すぐに連絡を取り援助を提供できるよう、同館に名前や住所、連絡先などの情報の登録を求める通知を出した。>

 なぜ、こうした動きがあるのか?専門家の中には、中国には国防動員法という法律があるからだという見方があります。
『中国国防動員法の制定(宮尾恵美)』(『外国の立法』第246号、2010年12月)http://bit.ly/1bcV1O9
 この法律には、「国防義務の対象者は18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性で、中国国外に住む中国人も対象となる」と読める条文があります。そしてこの国防義務とは「軍隊の作戦を支援し及び保障し、戦争災害を予防し及び救助し並びに社会秩序の維持に協力する任務をいう。」(第48条)これを額面通りに受け取れば、有事の際には日本国内でも騒擾事件やテロ行為など何らかのことが起きる可能性があるということです。そういった時には第一義的には警察が対応することになりますが、対応しきれなければ当然陸上自衛隊が出動することになります。そんな時にいたずらに戦力を減らしていいのか?また、中国を主要正面として想定していますが、実は北方領土にロシア軍は一個師団が駐留していて、戦車、装甲車、各種火砲、対空ミサイル等が配備されています。ロシア軍と対峙するのは北海道に駐屯している陸上自衛隊ということになります。自戒の意味も含め、メディアがあまり中国中国と騒ぎ陸自の戦力を削るのは、ロシアを利するということも忘れてはなりません。

 ある陸自幹部に話を聞くと、
「陸は海や空と比べて予算削減のターゲットになりやすいんですよ。兵員の数も一番多いですしね...」
と、さびしげに語りました。
「海で護衛艦を一隻建造するときには、砲術員もレーダー要員も衛星も烹炊もみんなパッケージになりますよね。一方陸の場合は、そうした要員がそれぞれの兵科に分かれている。分かれているから一見すると削りやすいとなるんですが、削ったことによって全体が機能しなくなることだってあるんです。」
 さらに、増強が予想される海側には別の理由で危惧する声も...
「護衛艦を増やすにしても、人員はどうするのか?募集の現場では景気が良くなるにつれて若い人が来なくなっているし、来ても陸を希望する人が多いんです」
 海は長期間船内にカンヅメになりますし、スマホも使えないと敬遠されることが多いんだそうです。人員を確保するために女性自衛官も積極的に採用していますが、そのために新造艦の中には女性専用区画を作るために設計変更を余儀なくされる場合もあるそうで、現場は現状でも人員カツカツでやっています。新防衛大綱はそうした現場の声をどこまで反映しているのか?
 勇ましい防衛大綱を作るのであれば、それに見合った適切な予算をつけるべき。さもなくば、「笛吹けど踊らず」ということにもなりかねません。そうなったときに脅威にさらされるのは、我々国民に他ならないわけですから。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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