2013年11月23日

一票の格差是正論議の根っこにあるもの

 一票の格差が最大で2.43倍だった去年12月の衆議院選挙は違憲だとして各地で起こされた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は、区割りを『違憲状態』とする統一判断を示しました。
『昨年衆院選「1票の格差」は違憲状態...最高裁』(11月20日 読売新聞)http://bit.ly/1cjLLe6

 これを受けて、与野党で選挙制度改革を議論しています。
『自公民「定数削減」優先を確認...選挙制度改革』(11月23日 読売新聞)http://bit.ly/1cjMgou

 そもそも、一人一票を実現することが目的のこの訴訟。それゆえ、改革の議論も格差の是正にばかり集中していて、定数を削減するのが善というのが前提のように議論が進んでいます。しかし、一人一票を徹底すると有権者数の少ない地方の意見が反映されづらくなるということが指摘されることはあまりありません。

 一人一票は民主主義の基本だ!と原告が主張し、当然のように受け入れられているのは、多数決で物事を決める際の前提が一人一票だからです。しかし、民主主義の基本はそれだけではありません。忘れられがちなのが、「少数意見の尊重」。戦後のこの国の体制の中で、この概念は軽んじられ続けてきました。日本国憲法を解説した当時の文部省の副読本、「あたらしい憲法のはなし」にもそれがすでに表れています。
『あたらしい憲法のはなし』(青空文庫)http://bit.ly/13UQTEl
 この第2章「民主主義とは」の中にこんな記述があります。ちょっと長いんですが、引用しますね。
<みなさんがおゝぜいあつまって、いっしょに何かするときのことを考えてごらんなさい。だれの意見で物事をきめますか。もしもみんなの意見が同じなら、もんだいはありません。もし意見が分かれたときは、どうしますか。ひとりの意見できめますか。二人の意見できめますか。それともおゝぜいの意見できめますか。どれがよいでしょう。ひとりの意見が、正しくすぐれていて、おゝぜいの意見がまちがっておとっていることもあります。しかし、そのはんたいのことがもっと多いでしょう。そこで、まずみんなが十分にじぶんの考えをはなしあったあとで、おゝぜいの意見で物事をきめてゆくのが、いちばんまちがいがないということになります。そうして、あとの人は、このおゝぜいの人の意見に、すなおにしたがってゆくのがよいのです。このなるべくおゝぜいの人の意見で、物事をきめてゆくことが、民主主義のやりかたです。>
 この中には、自分の考えを披露することは書いてあっても、多数決に漏れた少数意見の取扱いについては書いてありません。この本が出版されたのは昭和22年。まさしく、戦後民主主義教育はここから始まったのです。そしてその教育では、多数決の原理は教えても少数意見の尊重は教えてこなかった。それゆえ、多数決の原理のみを追求した、定数削減を軸とする改革になってしまっているのではないでしょうか?

 今の路線で一票の格差の是正が達成されても、都市部と地方の発言権の格差、ひいては経済格差や教育格差が広がるということにはなりはしないか?今の議論の行方に少し心配になります。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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