2013年11月16日

特定秘密情報保護法案議論について

 国会では国家安全保障会議設置法案(日本版NSC法案)が衆議院を通過し、これと車の両輪と言われる特定秘密保護法案の審議が続いています。この法案の審議を担当する森雅子少子化担当大臣は10月22日の記者会見で、具体的な処罰対象について言及しました。
『「西山事件」に類する取材活動は処罰対象 秘密保護法案で森担当相』(10月22日 産経新聞)
http://on-msn.com/1dCfzU9

 「西山事件」とは、毎日新聞の西山太吉記者が1971年の沖縄返還協定に関し、日本が返還費用を肩代わりするとの密約を入手。西山氏と外務省職員が国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕された事件です。この担当大臣発言があってからというもの、「第2第3の西山が出てきて取材が出来なくなる!」「民主主義の破壊だ!」といった論調でこの法案の廃案を主張する記事があふれています。

『秘密法と沖縄密約 民主主義を破壊するのか』(10月23日 琉球新報社説)http://bit.ly/1acz8jW

 

 廃案を主張するなら、スパイ天国と言われる日本の今の状況をどう改善するのかという対案を見せてほしいものですが、そうした報道はほとんどありません。
 さて、当の西山氏は事件が引き合いに出されることに対してどう考えているのか?先日、日本記者クラブで会見が行われました。昨今の議論については、
「取材論だけ分断して論じても意味がない。秘密の中身によって違う」
と持論を展開しました。まず、事件の最高裁判決を引き、秘密の構成要件は『①秘密が非公知である②秘密として保護するに値するもの』であるとし、
「その秘密の中身が憲法違反、法律違反なら、違法な行政行為となり、取材論で処罰対象とするのは違う」
としました。
(参考)『外務省秘密漏洩事件(西山事件)最高裁判決』http://bit.ly/1dCn7WT

 

 つまり、取材行為そのものではなく、漏えいした秘密(とされるもの)の内容によって切り分けなくては大雑把な議論に終始してしまうということ。西山氏は西日本新聞のインタビューの中でこう語っています。
『秘密国家 目の前 沖縄密約報道で逮捕の西山さん 民主主義の空洞化懸念 [福岡県]』(10月27日)http://bit.ly/1d4xfeK
<(前略)
 -法案提出で西山さんの事件が再び注目を集めている。
 現政権は法案提出に当たって、私の過去の取材手法を「違法行為に当たる」とプロパガンダ(宣伝)に使い、メディアもそのまま報道する。問題点を沖縄密約から取材方法にすり替えた72年と全く同じ手法だ。
(後略)>
 廃案のみを主張し、その根拠として西山事件を持ち出すのは、かえって政府の意向に乗っかって議論のすり替えをしまうことになるのではないでしょうか?私もこの特定秘密保全法案のすべてに賛成というわけではありません。運用の仕方一つで主権在民を破壊する怪物になってしまう可能性も否定はしません。しかし、一方で秘密漏えいを防ぐというメリットを考えると、民主主義の仕組みを破壊しないような安全装置を付けた上で成立を図るのが前向きな議論なのではないでしょうか?そういう意味では民主党の主張する情報公開法の一部改正も手の一つでしょうし、日本維新の会が主張するような第三者機関という手もあるでしょう。今回西山事件が引き合いに出され、会見にも行って思ったのは、
「秘密の中身が憲法違反、法律違反のものであるならば、公益通報者保護制度が使えるのでは?」
というものでした。
 根拠となる公益通報者保護法の逐条解説には、公務員も保護の対象となる旨記載があります。
 また、守秘義務との関係については、
『4.公務員の公益通報と守秘義務との関係
(1)国家公務員法第100 条の守秘義務の対象となる「秘密」とは、単に形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと解すべきとされているところである(昭和52 年12 月19 日最高裁判決)。
(2)本法における公益通報の対象は「犯罪行為」や「法令違反行為」という反社会性が明白な行為であり、秘密として保護するに値しないと考えられることから、通常、これらの事実について法案に定める要件に該当する公益通報をしても、守秘義務違反を問われることはないと考えられる。
(3)なお、公益通報に当たって、第三者の個人情報や営業秘密、国の安全にかかわる情報など、他人の正当な利益や公共の利益に当たる「保護に値する秘密」を併せて漏らした場合には、守秘義務違反に問われる場合が考えられる。』
http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/files/tikujo-a6-a11.pdf

 

 この(2)の部分を使えば、公務員への取材活動でも処罰の対象にはならないのではないでしょうか?
 西山氏は会見の中で、
「知る権利知る権利と言うが、アメリカにおいてもどこでも、知る権利はリークによって成り立っている部分がある。ウォーターゲートのような大きなスクープも、内部告発なくして成り立たなかった。」
 リークした人を逮捕させないような法制度を作ることが出来れば、知る権利は担保出来る。ただ廃案にすべしではなく、そういった前向きな議論が出来ないものでしょうか?

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ