2013年10月18日

JR北海道の不祥事と道州制

 JR北海道の不祥事が続いています。ざっとキーワード検索しただけで3万件を超える結果が出てきました。その中から代表的なものを抜き出すだけでも、
『JR北海道のレール幅異常放置 責任者「理由全く分からぬ」 合理化で疲弊の声も』(9月22日 北海道新聞)http://bit.ly/17QloIn
『ATSブレーキ利かず走行 JR北海道、警報は鳴る 7月検査で異常見つからず』(10月8日 産経新聞)http://on-msn.com/1gQwx3V
『原因はパイプに隙間 JR北海道・根室線、普通列車の燃料漏れ』(10月18日 北海道新聞)http://bit.ly/1gQwTaP

 

 現場職員の士気が著しく下がっているモラルハザードの問題や、組合問題など、原因については様々なことが言われているわけですが、9月の会見でも言及されている通り、根本には慢性的な赤字が存在することは明らかです。
 なぜ、赤字が止まらないのか?
 それには、鉄道には公共事業的な側面、いわばユニバーサルサービスであることを見なければなりません。今もお年寄りや学生が生活の足に利用する鉄道。なければ生活が成り立たないとなれば、赤字だからおいそれと止めるわけにはいかないのです。続けなければならないが、続ければ続けるほど赤字が出る。となれば、当然質が落ちます。安全にかかわるものでも、無い袖は振れないわけですから際限なく質が落ちるわけです。
 たとえば、レールを支える枕木も...。
『JR北:腐った枕木 本線にも 社員「新品現場に来ず」』(10月7日 毎日新聞)http://bit.ly/17QnJDb
 耐用年数もへったくれもありません。20年前、国鉄末期に「当分予算が厳しくなるから」といわれて設置された枕木がそのまま腐っていっても放置せざるを得ないのです。

 

 しかし、こうなることは国鉄が分割民営化される当時から指摘されていた問題点でした。大都市に人口が集中し、地方部は過疎化が進むであろう。そうなれば、当然鉄道を利用する人数は減るであろう。今後高速道路網の整備が進めば、乗客減少は加速するであろう。分割民営化の際にこのような予想がなされ、大都市圏を抱える本州3会社は自立できるだろうが、島しょ部の3会社、JR北海道、JR四国、JR九州は経営が厳しいとされました。そして、これら経営の厳しい3社には『経営安定化基金』と呼ばれる資金が国から与えられ、これを運用することで赤字部分を補うように制度設計されたのです。しかし、民営化後のバブル崩壊、そこから続くデフレ不況で運用状況も悪化。持ちこたえる大都市圏と落ち続ける地方圏の格差がますます拡大し、それが経営を直撃。蓄積したひずみがこのような一連の不祥事となって噴出しているともいえるのではないでしょうか。

 

 さて、最近話題の政策の中には同じようなリスクをはらむものがあります。その一つが、道州制をめぐる議論にもあるような気がしてなりません。税源も権限も委譲して、独立採算制をとることで各道州が切磋琢磨して非効率を排除し、成長していこうというのが道州制の理念。となれば、大都市圏を抱える道州は潤沢な財源を持って余裕のある経営が可能ですが、JRと同じように島しょ部、北海道、四国、九州は経営が厳しくなるのではないかと思います。今までは、様々な問題点が指摘されながらも、地方交付税交付金という形で地域間格差を是正してきましたが、それもなくなるとなると、道州ごとの格差は開く一方となります。当然、経営の苦しい道州では行政サービスの質が落ちる。そこに安い外資が導入される。行政の担い手として、労働力として、外国人が入ってくる。企業の経営ならそれでもいいのでしょう。しかし、行政機関でそれをやるリスクも押さえておかなくてはなりません。

 経営が苦しくなるであろう道州は、いずれも国境に近い道州なのです。格差が広がることで、外資が導入されることで、外国からの移民が増えることで笑うのは、いったいどこの国なんでしょう?

 

 結局、鉄道にせよ道州にせよ、公共サービスには自由競争がそぐわない場合があるということでしょう。JR北海道を見ていると、民営化がすべて善というわけではなく、ケースバイケースで考えていく必要があると思います。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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