2013年10月12日

日本のプレゼンス

 APECからASEAN、TPP、東アジアサミットと、安倍総理の東南アジア外交が終わりました。インドネシア・バリからブルネイ・バンダルスリブガワンと回ったこの一連の首脳外交を日本のメディアがどう伝えたかというと、アメリカ・オバマ大統領の不在と、相変わらず中・韓との間が冷え込んでいるというものでした。
『中韓首脳と同席なのに... 関係改善に首相動かず』(東京新聞 10月11日)http://bit.ly/1aeiHSs
『日中韓3カ国の微妙な関係があらためて浮き彫りに』(FNN 10月11日)http://bit.ly/1878Uk3

 

 まるで、我が国は米・中・韓としか外交していないかのような書きぶりです。たしかに地政学的に見れば、膨張する中国に対して我が国は対話を旨とし、韓国やアメリカとの連携していくことが必要という理想論もわからないではありません。その視点に立てば、日本外交の関心事はやはり米・中・韓であると。

 

 しかしながら、中国の外交のように軍事力、すなわちハードパワーでゴリ押しするという外交手法がある一方で、いま世界で注目されている外交手法がソフトパワー外交です。この視点から外交を見ていくと、米・中・韓の3か国を見ているだけでは成り立たなくなります。そもそもソフトパワー外交とは、アメリカの保守系シンクタンク、戦略国際問題研究所のジョセフ・ナイ元国防次官補が提唱した概念で、軍事力などの対外的な強制力を使わず、文化や政治的価値観、政策の魅力などへの支持や理解ともとに他国を動かそうとする外交のこと。一見すると、抑止力を中心とする外交とは対立項となりそうですが、さにあらず。
 先日来日し会見した、イギリス王立防衛安全保障研究所のマイケル・クラーク所長は、ソフトパワーとハードパワーは車の両輪であると語りました。その上で、
「ハードパワーとソフトパワーは双方ともに重要になってきている。世界、あるいはその地域を主導するルール作りの実効性を上げるには、軍事力(ハード)のみならず、ソフトを使った外交が有効。ハードをすぐ使える環境にあれば、ソフトはより力を増す」
と語っています。
 そして、ソフトパワー重視のこの世界外交の流れは日本にとっては有利ではないか?とも提言しました。というのも、日本は戦後50年、ある意味でハードパワーを否定し続けてきたわけです。それは、日本自身も否定し、周辺国も日本の軍事大国化を警戒し続け、圧力をかけ続けてきたのです。それゆえ自ずと、日本はソフト重視の経済協力外交を繰り広げてきました。
 今、世界がソフトパワー外交にシフトする中で、ASEAN諸国を中心に次々と花開いてきています。JICA(国際協力機構)の田中明彦理事長は、
「日本の活動は現地のメディアに取り上げられることが非常に多い。それは、日本の存在感向上、イメージアップに非常に寄与している。」
と語ります。
 もちろん、JICAが活動するアジア諸国やアフリカ諸国では、札束で頬をひっぱたくような中国の援助外交が注目されていて、日本のメディアも『中国のソフトパワー外交、世界を席巻』なんて書くことが多いわけですが、
「役に立つか立たないかはともかく、目立つところにでっかいビルを建てて、そこに中国の国旗やマークを派手に掲げる。そんな目立ち方を日本人はしたいですか?相手を思い、相手の有益なことをやって、自ずと目立つのが日本人のメンタリティではないですか?日本のこの、顔の見える援助は確実に日本のプレゼンスを向上させていると思う」(田中理事長)

 

 メディアではあまり報じられませんが、伝統のソフトパワー外交で日本にシンパシーを感じてくれる国は多い。すなわち、ソフトパワー外交の分野では日本の潜在力は相当なものがある。それを知らないのは、日本人と日本メディアだけなのではないか?と思うのです。そして、安倍総理が掲げる価値観外交、積極的平和主義というのものは、先人たちが、あるいは今現在多くの日本人が現場で生み出してくれたソフトパワーを外交の場に積極的に使っていこうという概念だと言うことができます。ここまで考えると、従来通り米・中・韓のみを報じる日本のメディアは、物事の一面のみしか報じない物足りないものであると思います。
 では、今回の首脳外交での中・韓以外の諸国との関係はどうなっていたのか?同行した世耕官房副長官は、
「安倍総理が主張していた南シナ海における法の支配の徹底と行動規範の策定について、(ASEANの)7カ国の首脳が安倍総理と同様の主張を、中国の李克強首相を目の前にして展開した。」と明かしています。
※カッコ内は筆者
『APEC、ASEAN:安倍総理の活躍を正確に伝えたウォールストリートジャーナル』(10月11日 ブロゴス)http://bit.ly/1ah0XpF
 この7か国がどこであるかは外交ルールで特定できませんが、日本が一歩前に出たとき、ともに進んでくれる国々がこれだけあるということだけでも、私は胸が熱くなってきます。こういうことこそ、メディアが報じるべきものなのではないでしょうか?アメリカ・オバマ大統領の不在で中国の独壇場と思われた一連の会合は、中国のハードパワー外交の時代遅れが際立ち、かえって日本のソフトパワーの底力を見せたものになったのと私は思いました。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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