2013年08月17日

飛行機好きが見る「風立ちぬ」

 このところずっと経済に関する話を書いてきたので、たまには映画の話でも。仕事の絡みもあって、先日話題の映画『風立ちぬ』を見て来ました。言わずと知れた、旧日本海軍が誇る戦闘機「零戦」の天才的な設計者、堀越二郎をモデルにした大ヒット映画。中国、韓国からは、「戦争の道具としての飛行機を設計したのにそこに苦悩がない」「右翼映画だ!」などと批判が相次いでいます。
『宮崎監督の「風立ちぬ」、韓国ユーザーが"右翼映画"と反発、上映禁止求める声も―中国メディア』(新華社) http://www.xinhua.jp/rss/356782/

 

 どうしてそういった見方になるのか...?

 飛行機好きとしては、宮崎さんの飛行機愛が詰まった一作だなぁと思いました。そして、その愛ゆえの哀しみも。それが象徴的に表れているのが、
「航空技術は呪われた技術だ」
という劇中のセリフ。このセリフは、イタリアの航空設計士、カプローニ伯爵が発したものです。これこそ、科学技術の発展の皮肉、戦争が技術を発展させるという皮肉をむき出しにしているのではないでしょうか。

 思えば、航空機、特に旅客機の世界ではこうした軍用技術の転用というものがそこここに見られます。たとえば、ボーイング747・ジャンボジェット。全世界でこれまで1500機以上が飛んだ、旅客機の代名詞的な飛行機です。この巨大旅客機は、実はアメリカ空軍の戦略輸送機計画でロッキードに負けたボーイングが、その技術・スタッフを旅客用に転用することで生まれた旅客機なのです。

 

 そして、その呪われた技術を希望に変えていきたいという決意がエンディングにあると思います。この作品は堀越二郎の半生を描いた映画で、半ば唐突に話が終わります。それゆえ、堀越二郎の零戦設計がクローズアップされ、批判の一つの要因となるわけですが、飛行機好きから言わせてもらえれば、それは堀越二郎の半分しか語っていません。実は堀越二郎は戦後、国産の名旅客機、YS-11の設計も担当しています。零戦で培った、戦争で培ったその技術を、戦後、旅客機という形で平和利用しているんですね。この映画の唐突な終わり方は、かえって戦後の堀越の航空機設計への決意を余韻で残していると思いました。

 

 さらに、零戦からYS-11までの系譜、堀越二郎という人物を考えると、この映画は宮崎さんから三菱重工への、日本の航空技術への強烈なエールであるとも見えます。
 首都高速羽田線が一番羽田空港に近づく、モノレール整備場駅の前に、三菱重工羽田補給所という古びたビルがあります。その屋上に三菱の看板がかかっていたんですが、そこにはスリーダイヤのエンブレムの下に誇らしげに、「YS-11」という文字がかかっていたんです。いつまで経っても、三菱にとってYSは誇りなのだと感慨深く見ていたんですが、これが2009年の正月を境に掛け変わったんですね。今掛かっている新しい看板には、「MRJ」という3文字が大きく描かれています。ミツビシ・リージョナル・ジェット、MRJ。YS以来久々の国産旅客機の開発が進んでいるのです。飛行機好きの宮崎さんとしては当然そうした経緯も良くご存じであるはずですし、日本の航空機技術への期待が込められているというのは深読みのしすぎでしょうか...?

 

 零戦からYS、そしてMRJ。
主題歌は「ひこうき雲」。
私には、「新たな坂の上の雲を目指せ!」「自分たちの技術力に自信を持て!」
そうした日本の製造業へのエールであるような気がしてなりません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
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