2013年04月24日

各社の良心が現れた、日銀リポート報道

 アベノミクス第1の矢、金融緩和。黒田日銀総裁の「異次元の緩和」、いわゆる黒田バズーカが発表され、この効果とリスクについて賛否両論の議論が繰り広げられています。この金融緩和政策。非常にざっくりと言えば、市場で流通している国債を買い上げることで、市場にお金を沢山たくさん流し込んで、世の中のお金の量を増やします。世の中にお金があふれれば、将来モノの値段が上がるかもしれないと思ってみんながお金を使いだす。そのプロセスの中で景気を上げていこうという考え方です。

 

 一方、この考えに反対する人たちは、「国債の価格が暴落する!」と言います。というのも、日銀は自分たちの裁量で紙幣=日本銀行券を刷ることができます。そのお金で国債を買うわけですが、日本政府は毎年大量に国債を発行して予算を賄っています。で、日銀の国債買い上げに頼れば、政府はどんな予算でも組めます。日銀を打ち出の小づちのように使うわけで、最初はそれでいいんですが、そうやってムリな予算を続けていくと、国債の信用が下がり、価格が下がる。今回の金融緩和はこういったプロセスを想定させるから、そういう懸念だけでも価格が下がるのではないか?というのが反対派の言い分です。

 

 では、実際に国債の価格が下がった場合どうなるのか?それを日銀が試算し、先週末に発表しました。翌日の各紙は経済面で報じたわけなんですが、これが見事に二つに分かれたわけですね。
・金融緩和に賛成寄りなのか?反対寄りなのか?
・安倍政権に賛成寄りなのか?反対寄りなのか?
見出しは似たようなものなんですが、中身が違うのです。なお、朝日と読売はWeb版に見当たらなかったので、本紙から引きました。

 

朝日新聞『金利3%上昇 16.6兆円目減り/銀行保有の債券 日銀試算』
<日本銀行は17日、日本国債が売られるなどして金利が3%上昇すれば、銀行が持つ国債など債券の価値が16.6兆円目減りするとの試算をまとめた。銀行は値下がりのリスクが小さい「安全資産」として国債を多く保有。国の財政悪化などを機に金利が上がれば、銀行は多くの損失を抱え、自己資本が減少しかねない。
 日銀が4月と10月の年2回まとめている金融システムリポートで公表した。大手銀行や地方銀行は、2012年9月末時点で213兆円の国債や社債といった債券を持っており、8割近い162兆円が国債だ。1%の金利上昇で、債券全体の価値は6.6兆円目減りし、2%の上昇では12.5兆円減少する。>
読売新聞『金利1%上昇→銀行6.6兆円損/日銀が分析』
<日本銀行は17日、国内金融市場の動向を分析した金融システムリポートを公表し、すべての国内債券の金利が上昇した場合の銀行への影響を分析した。
 国債などの金利が1%上昇した場合、債券価格は下落するため、国内の銀行は合計で6.6兆円の評価損を計上する可能性があると指摘した。メガバンクなど国際業務を行う銀行で3.2兆円、地銀などの国内業務中心の銀行で3.4兆円の損失を見込む。金利上昇が2%の場合、損失額は計12.5兆円、3%の場合は計14.6兆円に達する可能性があるとした。>
NHK『国債金利 2%上昇でGDP1.7%減』(http://bit.ly/XIiPaC
共同『金利1%上昇で損失6・6兆円 日銀が影響試算』(http://bit.ly/17rrqj8

 

ロイター『金利1%上昇で国内行の債券損失6.6兆円=日銀』(http://bit.ly/17rrkrR
日本経済新聞『金利1%上昇で銀行の損失6.6兆円 日銀が試算』(http://s.nikkei.com/17rru2r

 

 お分かりでしょうか?これ、最初に挙げた4社は、途中までしか書いていないんです。すなわち、国債金利上昇(価格は下落)でこれだけ損しますよというところ。金利1%上昇でも6.6兆という巨額な損失ですから、ここまで読めば、
「国債持ってる銀行はどうなるんだろうなぁ...、経営心配だなぁ...」
となりますよね。
 朝日、読売、NHK、共同はそこまでで止めているんですが、後ろに挙げたロイター、日経はその続きがあって、
「いずれの場合も「自己資本基盤が大きく損なわれることはない」との見解も示した。」
と書いてあるわけですね。

 

 ま、新聞には紙面の都合があるし、放送には時間の都合がある。そこで、肝となる部分を切り出して形を整えるのは編集権というもので、
文句を言う筋合いのものでもありません。が、説明を途中で止めて「懸念が残る」という風に締めるのは、印象操作と言われても仕方がありません。私の指摘には「編集権」をタテに反論できるとは思いますが、そこに良心はありませんよね。だって、原本にはその先まで書いてあるわけですから。
 国語の授業の「要旨を抜き出しなさい」という設問だったら、朝日・読売・NHK・共同は、△ですね。厳しい先生なら×つけることもあるかもしれません。

参考までに、一次ソースも載せておきます。
日本銀行『金融システムレポート(2013年4月号)』(http://bit.ly/XIj9Gv
そういえば、経済学者の高橋洋一さんがゲストでいらっしゃったとき、放送の合間に言われていた言葉を思い出しました。
「統計モノは原本を参照しなくてはいけない。官僚はごまかすから」

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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