2013年04月03日

本当は怖い?ネット選挙

 ネット選挙を解禁する公職選挙法の改正案が衆議院の倫理選挙特別委員会に提出され、審議が始まりました。委員会に法案が提出される前に、与野党超党派で議論を続けていましたので、すでに内容が相当報道されています。選挙活動にインターネットを解禁しようということで、基本的な理念は一致していて、自公+維新の案とみんなの党・民主党の案の違いは電子メールをどう使うかだけ。みん・民案は有権者のメールも含めてすべて解禁しようというのに対し、自公案はメールの使用を政党と候補者のみに限定しています。これについては、早くも民主党が与党案に歩み寄っていて、今週中に衆院通過は確実です。

 

 今回のネット選挙解禁の議論では、ネット選挙が実現すれば誹謗中傷を受けた時でも反論ができるとか、誰でもアクセスできるネットならお金をかけずに選挙ができるとか、発信ツールが増えるということばかりが強調されています。もちろん、そうしたメリットはあるでしょう。ツールが増えることで、情報に触れることのできる人が増えることになり、ひょっとすると特に若年層の投票率に好影響を与えるかもしれません。しかし、メリットがあればデメリットもある。今回は、あまり報道されないデメリットを考えていこうと思います。

 

 新しいことをやろうとするときには、『海を渡り、川を上れ』と言われます。海を渡るとは、海外の類似事例を調べるということ。川を上るとは、歴史上に参考事例がないかということ。このネット選挙の場合には、国内に過去の例はありませんので、海を渡ってみましょう。

 お隣韓国はインターネット民主主義の先進国と言われています。ここでどんなことが起こっているかというと、まずはなりすまし。これは、日本でも鳩山由紀夫氏が総理のときにツイッターになりすましアカウントができて話題になりました。さらに、意図的に誤情報が流されたというものもあります。2002年の第16代大統領選挙において、ハンナラ党の李会昌(イ・フェチャン)候補に対し、ネット上で「息子の兵役逃れ」が指摘されました。後に検察が捜査し、嫌疑なしとなりましたが、これが落選の致命傷になったとの指摘もあります。いかにネットで反論ができるといっても、一度ついたイメージは容易に拭えるものではないということです。
 また、ネットには過去の言動や記事がずっと保存されています。韓国では大学の修士論文はすべてインターネット上で公開されているんですが、これらをコンピュータプログラムを使って解析し、盗用や代筆によって修士論文を書いた議員がネット上で公開されました。去年の総選挙直前の時期です。大きなスキャンダルとなり、有権者の投票行動に大きな影響を与えました。人によっては相当過去のことまでも、ネットによって暴かれるわけです。韓国ではすでに、選挙に出ればすべての情報が公になり、プライバシーがなくなるため、政治家になるには相当な覚悟が必要になっているそうです。
 もう一つ、これは特殊な例ですが、敵対陣営がサーバに攻撃を仕掛けるなんてものもあります。2011年のソウル市長選挙。この時、直前に投票所の配置換えが行われ、選管のホームページで自分に割り当てられた投票所を調べるページが作られました。多くの人が朝、出勤前に期日前投票をするためにこのホームページを開くんですが、毎朝選管のホームページがダウンしていたのです。調べたところ、与党である国会議長の秘書とソウル市長選対策責任者である国会議員の秘書が共謀し、外部の業者を使ってサーバに大きな負荷をかけダウンさせるというDDos攻撃を仕掛けていたことが分かったのです。その結果、秘書2人は逮捕、国会議長と国会議員の2人も責任を取って辞任せざるを得ませんでした。

 

 以上、お隣韓国のネット選挙のデメリットを紹介してきましたが、さて、いま審議している国会議員の皆さんは、ここまでのリスクを承知しているんでしょうか?総理官邸の巧みなネット活用術を見て、バラ色の未来を想像しているのではないでしょうか?奇しくも、自民党の小泉進次郎議員が全く違うニュースでネットの怖さを指摘しています。
『進次郎氏、婚活も楽じゃない?』(産経新聞 http://on-msn.com/10yalQI
<「皆さんの監視がもう少し緩ければ楽だが、今は大変だ。ツイッターやフェイスブックもあり一人一人がマスコミのような感じだ」と指摘。>

 有権者一人ひとりがマスコミで、過去も含めて24時間365日注目され続ける。これからの立候補者は、その重圧に屈しない、自立し自律した個人でなくてはなりません。国会議員の皆さん、そこまでの覚悟が果たしてお有りですか?

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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