2013年03月20日

黒田日銀の仁義なき戦い

 きょう正式に、日銀の新体制が発足しました。総裁にアジア開発銀行総裁だった黒田東彦氏、副総裁に学習院大学教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏。いわゆる「リフレ派」と言われている黒田氏、岩田氏のタッグで、大胆で大規模な金融緩和が行われると言われていて、その予測のもと、すでに株は上がり、円は安く推移しています。安倍自民党総裁が選挙前に金融緩和に言及し、それからずっとこの流れが続いています。いわば、政治の"口先介入"が功を奏している格好ですが、制度上、行政や政治が介入できるのはここまで。98年に改正された日銀法で、「政府と緊密に連携し」とは書かれていますが、仮に目標を達成できなくても日銀執行部は責任を取らなくても何ら問題ありません。というより、政府は日銀執行部を責任とって辞めさせることはできません。これを「独立性の担保」ととるか、「過度の独立」かは議論が分かれるところですが、現に制度上はもう手出しできなくなるのです。その時、過去20年デフレから脱却できなかったこの大きな組織が、わずか3人のトップ交代でガラッと体質が変わるのでしょうか?これに、先の選挙まで政権与党にいた馬淵澄夫衆議院議員が、自身のメールマガジンで警告しています。

 

 馬淵氏は、民主党もデフレ脱却議連などを通じて日銀に緩和を求めたり、政権末期には前原国家戦略担当大臣(当時)が日銀の政策決定会合に乗り込んで金融緩和を求めたが、日銀サイドはのらりくらりと交わしていたことを指摘したうえで、

 

「民主党政権は、与しやすいと思い、ゆっくり動き、不穏な空気を感じ取ると、政策を小出しにする。一方で、自公政権が誕生し、日本銀行法の改正を主張する安倍議員が総理になると、態度を一変させて、従順の意を示す。民主党の新成長戦略は無視し、自公政権の成長戦略は評価し、民主党政権下で散々否定したインフレ目標を導入する。つまり、日本銀行は、極めて政治的に動く集団なのである。」

 

と、日銀の体質を批判しています。極めて政治的に動く日銀(の現場サイド)に対して、新執行部および官邸はどこまで締め上げることができるのか?それは、いみじくもこのメルマガにヒントがあります。それは、「日銀法改正を主張する安倍議員が総理になると」という一文。日銀にとって、日銀法改正こそが抜かれてはいけない伝家の宝刀。最大の弱点なのです。

 

 これだけ金融緩和に頑強に反対する日銀ですが、実は過去に量的緩和を行った時期がありました。それが、小泉政権時代の2001年~2006年。その当時官邸にいた高橋洋一氏に話を聞くと、当時自民党幹事長だった中川秀直氏がだいぶ圧力をかけていたようで、
「日銀法改正をちらつかせながら行けば向こう(日銀)は逆らえないから。民主党もそうやれって言ったのに、やらないんだもん。お願いしただけじゃ、向こうは動かないよ。それが政治」
ん~、なるほど。政治的に動く日銀に対して、民主党の政治家が政治的に動けなかったに過ぎないというわけです。

 

 さて、この日銀法改正に関しては、日本維新の会やみんなの党も乗り気で、衆議院は間違いなく通りますが、問題は参議院。岩田副総裁の人事同意案を、「日銀法改正を所信聴取で明言した」という理由で反対したように、民主党は日銀法改正には断固反対です。もちろん、参院が改正案を否決しても、衆院で3分の2以上の賛成をもって再議決すれば成立するんですが、衆参にねじれがある以上、25年度本予算をはじめとする様々な案件の進み具合や、今年は7月末に参院選がある以上、通常国会を延長するのが難しいというスケジュールの問題を考えると、安倍官邸は今国会で日銀法改正を何が何でも進めるという雰囲気でもありません。


 とすると、日銀サイドが金融緩和に抵抗できるとすれば7月まで。ここまではあらゆる手段を使って抵抗することでしょう。一方で市場からすれば、新執行部が今までの見込み通りの追加緩和策を打ち出せなければ、当然失望から売りに転じます。まぁ、これだけの世論の後押しがあるんだから、日銀も抵抗しないだろうとお思いでしょうが、甘い。日銀の政策決定会合は、執行部と審議委員による多数決で政策が決定されます。前回の会合で、緩和の前倒しを白井委員が提案しましたが、8対1の大差で否決しているんです。今回は執行部総入れ替えでしたから、3票が賛成に転じるとしても4対5。このまま行くと、何と緩和前倒しが否決され、市場がネガティブに動くリスクが生じます。ん~、事態は思ったよりも緊迫しているんですねぇ。4月3日、4日に行われる政策決定会合が、天下分け目の関ヶ原。あと2週間、官邸&日銀執行部対日銀現場の仁義なき戦いが続きそうです。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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