2013年03月11日

被災地の鉄道復旧の現状

 先週、そして今週の月曜日は私の特別レポートとして、東日本大震災被災地の鉄道復旧の現状をお伝えしてきました。津波で大きな被害を受けたJRと第3セクターの2つの路線を取材し、なぜ復旧のペースにバラつきがあるのかを考えたんですが、むしろ、震災前からの課題が浮き彫りになった形でした。

 

 まず、先週月曜にレポートしたのが、BRTという新しい輸送の形で運行を再開したJR大船渡線。3月2日の土曜日に仮復旧という形ですが再開記念セレモニーが行われ、JR東日本の冨田社長も出席しました。このBRTとは何か?バス・ラピッド・トランジットの略なんですが、今回の場合には線路を撤去してそこにアスファルトを敷き、専用線をバスが通ることで、高速で安全に、そして時間通りに運行できるというシステムです。このメリットは、線路を敷き直すよりもコストが相当安く済むということ。
バスを使うので、人件費も燃料費も安く済みますが、それ以上に、地上設備があまり要りません。鉄道システムだと、信号などの設備、列車無線など、我々乗客の見えないところで様々なインフラが必要なのです。

 

 コスト面で言うと、BRTにはメリットが多いわけですが、地元の人にお話を伺うと、やはり鉄道の方がいいと言います。鉄道は、時間通りに走る。雨でも雪でもギリギリまで走る。2、3時間に一本の列車が時間通りに運んでくれて、そこから新幹線に乗れば東京までもストレスなく運んでくれる。「遅れない」という尊さを、特に年配の方は感じています。また、地元自治体は、この「仮復旧」という名のBRTが定着してしまい、さらに、このまま利用者が伸び悩めば、鉄道の運行再開どころか路線そのものが廃止になりかねないという危機感があります。BRTは安く始められますが、安く止められるのです。

 

 記念式典に出席したJR東日本の冨田社長は、「条件と課題を解決していく議論が必要で時間がかかる」と述べて、鉄道の再建には慎重な姿勢を崩しません。上場会社の社長としては、赤字路線になるのが目に見えているのに多額のコストを入れられない。さらに、国の補助金も、黒字のJR東日本には入れずらいということもあります。

 

 一方、国の補助を得て鉄道を再開しようという三陸鉄道にも、茨の道が待っています。来月3日に南リアス線の盛~吉浜間が部分的に再開しますが、これを黒字にしようとすると非常に大変です。不通が続く三陸鉄道南リアス線のもう一方の起点、釜石駅で「さんてつカフェ」を営む阿部さんは、「国費を入れて再開して、赤字路線じゃシャレにならない」と話します。三陸鉄道全体で、全線復旧にかかる費用は、およそ100億円。赤字路線であったがゆえにこれが全額国費で賄われるわけですが、経営に明るい見通しはありません。震災直前で、輸送人員は90万人を割り込み、全盛期の3分の1。年間1億3000万円以上の事業損失を出していたのです。先ほどの阿部さんも、
「もともと三鉄は、観光客もさることながら、地元の人たちが毎日利用していて、それで持ってきた路線。だから、地元の人が何度も乗るようにインセンティブをつけたりするのもありだと思う。ただ、製鉄所が縮小してからは働く人も減って、乗る人が少なくなったからね...。特に若い人がどんどん減っている。新たな産業を興すなり何なりしないことには、根本は解決しないですよ。」
 結局のところ、鉄道会社の収支は沿線の景気に左右されるわけで、再開後しばらくはお祭りでも、被災地に産業が戻ってこないことには赤字路線に逆戻りしてしまいます。新日鉄釜石が縮小して以降、地元ではずっと議論され続けてきた、次なる産業。
それを見つけきれない内に、東日本大震災がやってきました。2年経ち、落ち着いてきたからこそ、震災前からずっと問題視されてきた過疎化が被災地復興の足かせになっているのです。「赤字は出せない」という企業の論理と、「鉄道で復旧してほしい」という地元の声。第3セクターの三陸鉄道は、より地元に歩み寄って鉄道全面復旧という形で折り合いをつけました。

 

 ただ、従前の姿に戻せばいいのではない。震災復興と過疎化からの脱却。走り始める2つの路線も、この連立方程式を解かなければ、復興の仇花に終わってしまいます。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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