2013年03月07日

1票の格差判決の先にあるもの

 今週から、各地で一票の格差に関する訴訟の高裁判決が出されています。
『1票の格差、東京高裁「違憲」...無効請求は棄却』(読売新聞)http://bit.ly/12ygWSg
『1票の格差:昨年衆院選、札幌も違憲 国会対応厳しく批判』(毎日新聞)http://bit.ly/12yhasB

 

 前々回の衆議院総選挙に対して最高裁が『違憲状態』であるとの判決を出したにも関わらず、その後1年8カ月間に格差是正もせずに再度総選挙に突入したということで、選挙そのものの無効も含めて争われています。東京・札幌両高裁の判決では、選挙そのものは「違憲」であるが、選挙を無効とした場合の不都合を考慮して「事情判決の法理」に基づき選挙は有効とする判断を示しました。ただ、東京高裁の判決では、47都道府県にまずは1議席ずつを配分してからそれ以外は人口に応じて配分するという、いわゆる「1人別枠方式」の廃止を提言し、また、今後期限を設けて、この期日までに格差是正が行われなければ選挙も無効という、「猶予期間」を設けた無効判決の具体的な出し方についても言及するなど、立法府に対してかなりのプレッシャーをかけています。

『「是正せず選挙」国会の怠慢批判 1票の格差「違憲」 東京高裁、無効判決に具体案』(日本経済新聞)http://s.nikkei.com/12yhO9o

 

 私も出演している「ザ・ボイス」でも、連日このニュースをお伝えしていて、リスナーの皆さんからも様々な反応がメール・ツイッターで寄せられます。この番組、ポッドキャストを通じて全国で聞いてくださっている方がいて、東京では感じられない各地の問題意識を提起してくださるので私は非常に助かっているんですが、この問題に関しても、特に「1人別枠方式」の廃止については危機感をお持ちです。
「機械的に票数だけで判断すると、僻地の意見が取り入れられずに選挙の意味がない」
「地方の過疎地域から代表が出せなくなると、都会の意見だけで政治が進んでしまう」

 

 確かにその通り。一票の格差を是正していけば、結局のところ多数決の論理に従って、地方の少数意見を圧殺することにもなりかねません。ところが、国会ではなんとか定数是正でギリギリ合憲のレベルに持っていけばいいだろうというような議論がまかり通っています。この問題、0増5減とか、連用制だとか、原則今の選挙制度の維持を中心とした議論しかしていないんですが、これ以外に解決策はないんでしょうか?と、調べてみると、知恵のある人ってのはそこらじゅうにいるもんですね。


 1票の価値を平準化させようとするから無理があるのであって、ならば議決権を選挙区の人口ごとに増減させて解決すればどうか?という方法論もあります。つまり、議員数は減らさず、その議員一人ひとりの票の価値を、選挙区の人口に応じて増減させるわけですね。今であれば、もっとも1票の価値が高い高知3区選出の議員を1票だとすると、もっとも1票の価値が低い千葉4区の議員は2.43票持つことになるわけです。そうすると、審議の過程では地方の意見も吸い上げることができ、採決に当たっては全国民の意見が平等に反映されたことになる。

 

 ん~、理論上はこれでキレイに行くっちゃ行くんですがね。ただ、採決の際に票をたくさん持っている議員のところには、多数派工作で様々な圧力がかかるんでしょうねぇ。先日の参院での補正予算採決のように、1票差の争いなんてことになると、キャスティングボートを一人の議員が握ってしまうわけですからね。そう考えると、どの方法も一長一短あるわけですね。

 

 そして、この一連の訴訟を考えるとき、もう一つのポイントは再選挙があるかどうかです。小選挙区から当選してきた300人の国会議員が皆憲法違反だと言われているわけですから、常識で考えれば何の正統性も持たない人たちが集まっているわけです。この人たちが、憲法改正まで視野に入れて活動していていいんでしょうか?改憲を主張する方々は、現行の憲法は占領時代に押し付けられた憲法なので正統性に疑問が残ると主張しますが、このまま違憲状態のまま96条改憲に踏み切れば、それこそ正統性に疑問が残ると批判を浴びかねません。そう考えると、改憲を主張する自民党や維新の会の議員こそ、再選挙を主張しなければいけないのです。政界は、先日選挙を終えたばかりで厭戦ムードが漂っていますが、しかし考えようによっては、これにより安倍総理は、伝家の宝刀『解散カード』を持つことになるわけです。昨今の高支持率の状態で、もし永田町に解散風が吹いてくれば...。政局は安倍総理の思うがままになるかもしれません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
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