2013年02月15日

調査の虜?

 福島第一原発の事故に対する国会事故調の調査を妨害したとして、東京電力が批判を浴びています。もともと朝日新聞のスクープから始まったこの事件、東京電力が去年の2月、福島第1原発の事故をめぐって現地調査を決めていた国会事故調に対し、1号機の原子炉建屋内部は実際に明かりがあるにもかかわらず「建屋カバーが設置されており、暗い」と虚偽の説明をしていたことが分かったというもの。ご存知の方も多いと思いますが、1号機の建屋内の非常用復水器というものが、地震で壊れたのか、それともその後の津波で壊れたのかを調べるために決定的に重要な調査でありました。国会事故調は当時の現場作業員の証言として、「地震直後、(非常用復水器のある)建屋4階から出水していた」と記しています。もし地震ですでに壊れていたということになると、原発の耐震基準そのものに疑念が生まれます。すると今後の再稼働も「耐震基準の抜本的な見直し→必要あれば、それを受けての改修工事」というプロセスを経なければならず、東電が再建策の柱と位置付けている柏崎刈羽原発の再稼働も夢となります。高度な経営判断にも影響する調査だけに、組織ぐるみで調査を妨害したのではないか?というのがこの問題の根幹にあります。

 

 さて、火曜日には衆院予算委員会に東電の広瀬社長が参考人招致され、この件についての質疑が行われました。(http://bit.ly/W0xU3m
 各社、見出しには「東電社長、陳謝」という文字が踊っていましたが、傍聴していた私の印象としては、こんなものは陳謝でも何でもありません。ただの『トカゲのしっぽ切り』でした。

 

 民主党の辻本清美議員の参考人招致要請にこたえての今回の答弁。(http://bit.ly/W0A6Ig
当時の東電企画部部長の虚偽説明に関して、
「本人が間違った認識のもと、誤った説明をしてしまった」
「本人が調査せずに思い込みのまま説明をした」
「暗さは当人の思い込みがありましが、(中略)上司には全く相談せずに、本人が調査したものを説明したものであります」
と、当時の企画部部長にすべての責任を押し付けました。
 委員会室からは与野党問わず失笑が漏れる有様。そりゃそうです。サラリーマンが会社の経営に関わるようなマターで、上司の判断を仰がずに独断専行できるはずがありません。私なら怖くてそんなことしません。本一つ買うのだって、上司の許可を求めますもの。ましてやこんな一大事。絶対に、上司に言質を取って、何かあったら守ってもらえるように根回しをするはずです。というわけで、疑念は晴れず、もう一人参考人で承知されていた原子力規制委員会の田中俊一委員長が、「規制委として調査したい」という発言でゲタを預かったような格好になりました。


 全体的に、東電=悪、事故調=善という論調で記事は終わっているわけですが、私はその単純な二項対立にも疑問を覚えるんです。というのも、国会事故調の先生方は、「暗い」ということで恐れをなし、調査をあきらめたのか?線量が高くて、防護服を着てもどうにもならないというのなら分かりますが、それ以前に東電がカバーも照明も設置したことを考えると、必要な防護策を取れば調査はできたんでしょう。となると、「暗い」ということが本当の理由?もちろん、第一義的には東電の対応が問題ですが、もう一つ、事故調側の事情も調べなくては問題は解決しないような気がします。さらに、規制委が調査に入るとの報道もありますが、今回の問題が東電と原子力村の癒着の体質が生んだものだとしたら、規制委が入ったところで何を調べるというのでしょう。国会事故調は、東電と規制当局の関係を「規制の虜」と表現しましたが、その国会事故調が、いわば「調査の虜」になってしまっていたとしたら、恐ろしいことです。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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