2013年01月15日

悪魔は細部に宿る

 政府の緊急経済対策が発表されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2013/0111_01taisaku.pdf
各紙、各テレビ局も「これで暮らしはどうなる?」という特集を組んでいます。 

 

 今回の安倍政権の経済についての考え方は、この緊急経済対策を発表する総理会見の冒頭で端的に述べています。
「安倍政権では、まず政策の基本哲学を変えていきます。『縮小均衡の再分配』から、『成長による富の創出』へと大胆に転換を図っていきます。」
(以上、首相官邸HP http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0111kaiken.html から)
 つまり、民主党政権時代の分配重視の政策、「まずカネを配ります」から、成長重視、「まずは働こう!そして、その果実をみんなで分かち合おう」というところへの転換を図ることが柱なわけです。景気浮揚のきっかけはこの緊急経済対策やその後の平成24年度補正予算、25年度本予算ですが、真に景気を上向かせるのは民間の力であるという理念があります。この経済対策は着火剤。その後のロケットスタートは民間の活力。この意気やよしと私も思うんですが、問題はその運用方法。それ如何によっては、毒にも薬にもなります。その毒も、ある程度の副作用は仕方ないかもしれませんが、これが毒の方の作用が多くなっては本末転倒です。

 

 たとえば、甘利経済再生担当大臣も会見で強調していた、道路インフラ。緊急経済対策の中には、
「全国ミッシングリンクの整備(国土交通省)」
と明記されています。(6ページ)
 ミッシングリンクは、全国の高速道路などでまだ未開通の部分のこと。全国高速道路図を見ると、ブツ切れで開通している高速もけっこうあるんですね。
これを一つに通せば、災害が起きたときに救援物資が届きやすくなるし、平時も物流コストを減らせて景気浮揚にも役立つとの主張がされています。もちろん、そういう面もあるでしょう。しかし、運用次第では、クマしか通らないと揶揄されたような道路を作る言い訳にも使えます。

 

 あるいは、話題にだいぶ上っている教育資金贈与。こちらも、
「高齢者の資産を若年層に移転させるとともに、教育・人材育成をサポートするため、祖父母からの教育資金の一括贈与について、贈与税を非課税とする措置を創設<税制>(文部科学省、金融庁、経済産業省)」
と明記されています。(15ページ)
 日本の個人金融資産は1400兆円を超えているとされ、その大半を高齢者が保有しているとされています。その眠った資産を生かすために、孫の教育資金としての贈与は一定金額まで非課税とする方針で、上限金額は1500万円で調整しているということが新聞紙上を賑わせています。子育て世代の方があれやこれやと資金需要があるわけですから、世の中へお金を回して景気を良くしようという方針にも合致する施策ですが、これも使い方次第の面があります。というのも、よく言う「カネに色はついていない」ということです。仮に、1500万円ももらったら、全額を教育資金に使いますか?家族3人4人で暮らしていくためには、食費だって光熱費だって必要です。サラリーマンの家庭で、いちいち細かな買い物に領収証をもらうわけではありません。乱暴な言い方をすれば、教育費に使おうが生活費に使おうが、はたまたローン返済に使おうが、証拠は残らないわけです。そこで、確定申告の時に過少申告となるかどうかは摘発を担当する現場の裁量ということになるのでしょうか?そうなれば、国税にまた絶大が権限が発生するということになります。

 

 線引きがあいまいだと、そこに利権が発生する。復興資金の使い道の問題などでさんざん取り上げられた条文のあいまいさですが、気を抜いているとまた繰り返される可能性があります。総論では大多数が賛成のこの経済対策が実のあるものになるように、「悪魔は細部に宿る」と思って見続けなければなりません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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