2012年12月20日

大勝自民党が抱える火種

 今回の衆院選は自民党の大勝利というよりは、民主党が壊滅的に敗北した選挙と言われています。というのも、まずは比例代表の当選数は前回の衆院選とほぼ変わらず。小選挙区の得票もさほど伸びませんでした。しかしながら、これだけの議席数の差が出たのは、僅差でも最も多く票を取った人が当選するという小選挙区マジックに加え、こけた民主党と、その受け皿になることができなかった第3極が互いに潰し合い、自民党が漁夫の利を得たわけです。

 

 民主党は、2009年の衆院選で掲げたマニフェストに書いていなかった消費増税を強行したということで、「ウソつき」の謗りを受けて敗北した面があります。この不人気を受けて、自民党は今回の衆院選政権公約で、「できることしか書かない」と高らかに宣言しました。しかしながら、議論が分かれるものについては玉虫色の文言に終始しました。これが、今後の火種になる可能性があります。

 

 たとえば、原発。今回の衆院選の政権公約によると、
「原発の再稼働に関しては、『安全第一』の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、すべての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。」
「中長期的エネルギー政策については(中略)、遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な『電源構成のベストミックス』を確立します。」
「脱原発」を掲げた各政党に比べると、やや再稼働容認寄りの書き方ですが、原子力規制委員会が再稼働に慎重姿勢であることを考えると、これも脱原発の一つとも読めます。
 まさに、玉虫色なのです。
 今回の選挙で脱原発を鮮明に打ち出した政党といえば、日本未来の党がありましたが、小沢色に難色を示した方や、あまりに急造すぎるその成り立ち、あるいは脱原発の道筋があまりに理想論すぎることなどで支持が集まりませんでした。民主党には入れたくないが、さりとて脱原発を掲げる各政党もイマイチしっくりこないという方が、この政権公約にすがって投票したという話もあります。今回の選挙で自民党を支持した人々をよく見てみると、原発推進も脱原発も内包しているわけですね。そうなると、将来原発を再稼働するにせよ、脱原発を目指すにせよ、支持層の半分は必ず反発するわけです。まさしく、これは火種。

 

 あるいは、TPPも同じです。これに関しては、
「聖域なき関税撤廃がある限り、TPP参加には反対」
文言を読めば、あぁ自民党はTPP反対なのだなと読めるんですが、一方で外交交渉は各国の国益同士がぶつかるものですから、必ず例外条項を設けます。つまり、「聖域なき関税撤廃」なんてものはあり得ないのです。これも、実は何も言っていないに等しい、どちらとも取れる玉虫色の文言なんですね。ということは、これも原発と同じ。参加するにせよ、参加しないにせよ、支持層の半分は必ず反発します。

 

 政権公約、マニフェストに書いてない消費増税をやろうとした民主党は大敗しました。一方、玉虫色の公約をした、言い換えれば何も言っていないに等しい自民党を有権者はどう判断するんでしょうか?あるいは、これらについては先送りを重ねて参院選を乗り切るんでしょうか?火種はまだ小さな火ですが、燎原の炎にもなりかねない危うさを秘めています。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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