数年前、タイトルに魅かれて手に取った本があります。タイトルは「帰ってきたヒトラー」。あまりにも危ういこのタイトルのインパクトは相当なものでした。
1945年にピストル自殺しガソリンで焼かれたはずのヒトラーが2011年のベルリンの空き地で目を覚ますという出だし。まず思うことは、ナチスに関することをすべて禁じる基本法があるドイツでよく出版できたものだということ。
ヒトラーが現代に再び登場するなんてどのような展開でも無理だろうと思うのも当然。出版された2011年には当然様々な物議を醸したそうですが、結局200万部の大ベストセラーになり全世界の41か国で翻訳され日本でも上下巻で出版されました。
さて現代にタイムスリップしたヒトラーははたして受け入れられるのか?これがあさっさりと受け入れられてしまうのです。ヒトラーそっくりのコメディアンとして!そして彼がまじめに手振り身振りで訴えることは(つまりヒトラーの演説ですよ)、現代のドイツを風刺する強烈なギャグとしてウケにウケまくり一躍テレビの人気者になってしまうのです。
彼の極端な意見は、徐々に笑いから共感に代わりやがて……というストーリーが、比べるのもなんですが今回のアメリカ大統領選のはるか前にすでに書かれていたのです。
しかもこの小説はその後ドイツで映画化され、日本でも試写が始まりまり、私も怖いもの見たさで試写会にさっそく行きましたが、これは大丈夫なのかと色々な意味で胸がざわつきドキドキした映画に仕上がっていました。そして映画化にはこの手法しかないと選ばれたのはドキュメンタリータッチというものでした。
ヒトラーに扮した俳優がテレビクルーとともに実際にドイツの各都市を歩き回り、市民に話しかけ「今のドイツをどう思う」と質問を投げかけるのです。しつこいようですが今のドイツでヒトラーの格好をした人が……
もちろん中指を立てて不快感を示す人もいれば、一緒に写メを取る人もいます。そしてドイツの右から左の各政党の実際の党首にも会いに行ってしまうのです。これは小説の中にも出てくるのですが、まさかこれを本当にやってしまうとは!
そして物語は途中から本とは異なる展開になって行きます。過激な笑いを提供していると思っていた男が、いつしか不満を解消してくれる指導者になっていきます。敵をつくって攻撃すれば人々はますます熱狂し、いとも簡単に人々の共感を得てしまいます。
原作にもありましたが「総統は民主的と呼ぶしかない方法で選ばれたのだ」「ドイツ人が彼を総統に選んだのだ」ということを痛感せざるをえません。
と書くとなんだか固い映画と思うでしょうが、ヒトラーが現代に蘇り、テレビを観て驚き、パソコンやマウスを扱うシーンなど今の世の中では当たり前のことに彼が関心を持つシーンなど試写室でも笑いが起こりました。
ドキュメンタリーなのかフェイクドキュメンタリーなのかを行きつ戻りつし、最後までハラハラさせられる映画でありました。
6月17日(金)TOHOシネマズシャンテ他で全国順次公開です!

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