この夏も話題の映画が次々に公開されましたが、私のいち押し映画は「ナイトクローラー」でした。
金網やマンホールの蓋を盗んでは業者に売りつけるという生活をしている男が、偶然交通事故直後の現場を通りかかります。そこで、悲惨な現場を撮影してTV局にスクープ映像として買い取らせるという商売があることを知ります。
さっそく安いビデオカメラと警察無線を傍受する装置を、これまた高級な自転車をかっぱらった金で購入し、見よう見まねで事故や事件現場におんぼろの車で駆けつけ映像をものにしようとします。現場の映像が悲惨であればあるほど視聴率が上がると信じる女性プロデューサーにその手腕を買われ、彼は次々にスクープ映像を撮影していきます。しかし、その方法も次々と……
敬愛する浜村淳さんならこの先もすべてお話をされますが、私はこのあたりでやめておきます。ちなみにこれはまだまだまだ導入部分なのでネタバレだぁ!と言わないでくださいね。
7月に調布飛行場で軽飛行機の墜落事故がありました。現場で取材した報道部員に聞くと、とにかく周辺にはスマホで事故現場を撮ろうとする人が多くて多くてと話していました。これも時代なのだろうと思いますが、アメリカにはスクープ映像専門のプロがいるのですね。
1994年、スーダンの飢餓を取材したケビン・カーターと言うカメラマンが「ハゲワシと少女」という写真でピューリッツァ賞を獲りました。うずくまって動かない少女にハゲワシが近づこうとしているという、飢餓の悲惨さを伝える構図なのですが、「なぜ少女を救わないのだ」という批判も受けます。実際はこのあと少女は立ち上が食力配給センターのほうへ歩いていったそうですが、彼は賛否の議論の中自ら命を絶ってしまいます。
「ナイトクローラー」の主人公はこういったことに一切悩まない人間です。それどころか自分は本来非常に優秀な人間であると思い込み、目的の達成のためなら手段は選ばないというタイプです。だいたいビデオカメラを入手するために躊躇なくに盗みを働くのですから。
ではそんな主人公はいかにも悪人顔かというとまったくそのようなことはなく、気の弱そうな真面目な人にも見えます。
金属を盗んで持ち込んだ業者に、自分はいかに優れた人間であるかを説明し、自分を雇ってくれないかと言っても「盗人は雇わない」とまったく相手にされません。
このような時に、悔しいだとか残念だとか恨んでやるという顔をしそうなものですが、主人公は一切そのような表情をしません。無表情の中で大きく見開かれた眼だけで「あぁそう」と言うのです。
もう冒頭のこのシーンだけでこの男の異常性や他者への想像力がまったく欠如している人間であることがわかり、こいつはいったいこの後何をやらかしてしまうのかと思わせます。
そしてこの手の男を必要としている人間も存在する世界が確実に存在することも痛感させられる映画です。
主人公を演じたのはジェイク・ギレンホール。おそらく役によって別人のようになってしまう俳優なのでしょう。今回はギョロっとした目ン玉ですべてを表現してしまいました。目ン玉だけでも見る価値ありですよ。
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