私が中学生から高校生の頃、何度かめの作家の「遠藤周作ブーム」があったと記憶しています。
軽妙洒脱な「狐狸庵先生」シリーズとは対照的な「海と毒薬」そして「沈黙」という小説も書いてしまうという、なんとふり幅の大きな人なのだろうと思っていました。
「タクシードライバー」などの名作を監督したマーティン・スコセッシュが遠藤周作氏の「沈黙」を映像化しました。
162分という時間を感じさせない超大作でしたが、見終わってすぐに「あさぼらけ」のツイッターに書き込んでしまったほど様々考えさせられました。
原作を読んだのは40数年前で、キリスト教が禁止された江戸時代の日本に来た宣教師たちの苦悩と過酷な人生を描いたものという記憶しかありませんでしたが、原作に非常に忠実に描かれていたのではないでしょうか。
しかし「野火」の監督で俳優の塚本晋也さんが隠れキリシタンであるが故に、村人への見せしめで大きな波が打ち寄せる岩場に磔になり、そこに大波が打ち寄せる合間にセリフを言うシーンなど、命の危険すらあったことでしょう。
塚本さんは監督からOKが出た後も、もう一度やりましょうと願い出たという記事を目にしました。
ポルトガルから宣教のため長崎などにたどり着いた司教も、江戸幕府の命で激しい拷問の後に命を落としていきますが、一人の高名な司祭が棄教して日本人妻とともに暮らしているという噂を聞いた教え子の二人の司祭がそれを確かめるために、長崎の島に密航してくるところから物語が始まります。
後に彼らも捕えられてしまいますが、司祭たちを拷問にかけて殺すことによって、隠れキリシタンたちの信仰心が逆に深まってしまうことを知った役人たちは、ある種さらに残酷な方法を使って弾圧を始めます。
キリスト今日を捨てることを巧妙に迫る奉行所の役人にイッセー尾形さん、通訳に浅野忠信さん。また五島列島のキリシタンでありながら司祭を裏切り、そのたびに告解を繰り返す漁民を窪塚洋介さんが演じています。
命をかけてキリストの教えを日本に広めようとする司祭たち。どのような弾圧を受けても進行を捨てない村人たち。そのことで奪われる多くの命。裏切りを続けながら幾度もそれを悔いる男。日本がヨーロッパの植民地になってしまうきっかけがこの新しい宗教であると分析し、硬軟を駆使して食い止めようとする役人。
物語が進むにつれて、いったい誰に理があり義があるのかわからなくなってゆく客席の私。
人権に関する感覚が現代とは全く異なることを考慮すればするほどに、正しい道とは何かと考えさせられてしまう映画でした。
そして厳しい試練に直面するたびに、はたして司祭たちに神の声は届くのか。
映画の始まりと終わりは、暗闇の中、音楽が流れることもなく虫の音と遠雷の音のみ。まさにそこには「沈黙」があるのみでした。
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