毎週おススメの最新映画をご紹介している“サンデー早起キネマ”
今回は番外編。オンエアとは別に、是非ご覧頂きたい作品を取り上げます。
日本の“金継ぎ”に着想を得て、ジョージアの激動の時代を生きた91歳の女性監督ラナ・ゴゴベリゼが描く過去との和解の物語
『金の糸』
舞台は、ジョージアの首都トビリシの旧市街の片隅。
作家のエレネは生まれた時からの古い家で娘夫婦と暮らしています。
今日は彼女の79歳の誕生日。でも家族は誰も覚えてはいませんでした。そのうえ娘は、アルツハイマーの症状が現れ始めた姑のミランダをこの家に引き取ることにしたといいます。ミランダはソヴィエト時代は政府の高官で、エレネは彼女の事を快く思っていませんでした。
そこへ、かつての恋人アルチルから数十年ぶりに誕生日を祝う電話がかかってきます。
杖をつき思うように歩けないエレネ。車いすに乗ったアルチル。アルツハイマーのミランダ。3人を結ぶ過去が語られ、ソヴィエト連邦下の記憶が重なっていきます。
ある日、些細なことから言い合いになってしまったエレネとミランダ。その口喧嘩から、エレネの作家人生に大きな影を落とした出来事とミランダの関係が明らかになり、ミランダは姿を消してしまうのです……。
ジョージアを代表するラナ・ゴゴベリゼ監督の91歳にして27年ぶりの新作。
彼女の政治家だった父親はスターリンの大粛清で処刑され、それに伴いジョージア初の女性監督だった母親ヌツァは、厳寒の地に10年間も流刑されていました。さらに、監督自身もソヴィエト連邦下の検閲と闘ってきました。彼女の経験は、主人公のエレネの人生に重なります。
そして、なんと娘のサロメも映画監督として活躍。ゴゴベリゼ家は、3代に渡って女性監督を輩出してきたのです。
そんなラナ監督は「この映画の主たるテーマは“人の過去との関係”である」といいます。「日本人が数世紀も前に壊れた器を繋ぎ合わせる“金継ぎ”の技のように、金の糸で過去を継ぎ合わせるならば、過去は、その最も痛ましいものでさえ、重荷になるだけでなく、財産にもなることでしょう」とも。
過去と向き合い、過去を清算し、過去を許すことは次に進むことでもあります。ゴゴべリゼ監督が生き抜いてきたソヴィエト連邦時代は、私たちの想像を絶する状況だったことは想像に固くありません。それでも「財産になる」と言えることがどれだけすごいことなのか、この作品に託された思いを感じます。齢を重ねたからできたことなのかもしれません。身体はだんだん不自由になっていきますが、反比例するように心は過去も未来も、離れた場所でさえも自由に行き来できる可能性があるのです。誰にでも。そう信じられる希望がもらえました。
「人生は旅よ、短い旅。たとえどんなに長生きでも…」
「年齢は関係ない。いつもどの瞬間にも、楽しいことは全部この先に待っている」
「喜ぶ力、そしてそれと深く関係している創造力…」
この作品には、最初から最後まで素敵なセリフが散りばめられています。
歳月をかけて成長する真珠のように、ジョージアという国と運命を共にしている監督のうちから湧いてくる深い輝きを感じる作品。もっと歳を重ねたら理解できることもきっと増えると思わずにはいられない作品。人生の節目に何度も見かえしてみなくなる、そんな作品が一つ増えました。
岩波ホールで上映されることがしっくりくる作品。7月の閉館は本当に残念ですが、良作を上映してきた岩波ホールの想いは『金の糸』のように次へ繋がっていくはずです。
『金の糸』
2月26日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
公式サイト:http://moviola.jp/kinnoito/
原題:OKROS DZAPI|英語題: GOLDEN THREAD|2019年|ジョージア=フランス|91分
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ|撮影:ゴガ・デヴダリアニ|音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ
日本語字幕:児島康宏 配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019
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