「鯨が食べられなくなって寂しい!」と捕鯨問題について豪快にコメントする須田慎一郎氏。この捕鯨問題について今回は映画監督でありハンプトン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞された佐々木芽生さんと共に分析していった。
須田:佐々木監督は昨年『「おクジラさま」2つの正義の物語』というドキュメンタリー映画を公開し非常に多くの注目を集めたのですが、まずはこの映画はいったいどういう映画なのか、お話いただけますでしょうか?
佐々木:「ザ・コーヴ」という映画が2010年にアカデミー賞を取りまして、これをきっかけに舞台になった和歌山県の太地町という人口3000人あまりの小さな漁師町に、世界中から反イルカ漁・半捕鯨の活動家たちが殺到するようになりました。そこで地元の漁師さんたちと外国人が言葉も全く通じないまま、憎しみというか感情のぶつかり合いがあって。この映画一つによってこの町が大きな影響を受けるのですが、その様子を2010年の漁期が始まる9月1日のちょっと前からずっと6年間、カメラを添えて追いました。
須田:そもそもこの映画を撮ってみよう、という動機というかきっかけは何だったのでしょうか?
佐々木: やはり「ザ・コーヴ」だったですね。ただその前からアメリカに30年近く住んでいて。アメリカというのはいろんな議論をするのですが、やはり賛否両論ありました。みなさん賛成・反対とワーワー話し合うのですが、何故かこの捕鯨問題に関しては100%反対意見しかない、と。マスコミでもそういう意見しか出てこないし、一般の人と話しても捕鯨は絶対だめだと。それ一辺倒だったので「これはいったい何なんだろう?」とずっと府に落ちない部分がありました。その中でニューヨークで「ザ・コーヴ」を見て衝撃を受けました。
いろんな意味で衝撃を受けたのですが、まずは非常によくできた映画であるので心がうばわれる。血で真っ赤に染まる海が、ビジュアルで視覚的に迫る効果というのがものすごくあるなと感じました。あとは物語としてはよくできているのですけれども、ものすごい偏見に満ちている。日本のことに関して全く無知だし、彼らの先入観でもって日本というのはこんな国なんだ、漁師さんたちについてこんな野蛮人だ、という決めつけをしている。その中で立ち位置として、映画監督など制作者側が正義であり、カメラを向けた先であるのが日本の小さな漁師町の漁師、これはもう力関係として考えるとイジメでしかないんですよね。カメラを使って、ドキュメンタリー映画というツールを使って悪を暴く、というのはあるのですけれど、ただそれは「権力」である大企業や政府に向かってカメラを向ける。けど漁師さんたちっていうのは力がないんですよね、そこに向かってカメラを向ける。それはおかしいんじゃないかと思ったんです。
あともう一つ最後に、こんな映画を作られているのに、アメリカにいても反論の声が全く聞こえてこないんですよね、日本から。これはちょっとまずいんじゃないかなと思いまして。すごく微妙なテーマだとはわかっていたのですがずっと気になっていまして、今やらなければ死ぬときに後悔するかな、と思いまして制作しました。
その他にも、わんぱくフリッパーについての分析、生活の中に鯨が根付いている長崎で育った東島さんが「ザ・コーヴ」と『「おクジラさま」 2つの正義の物語』を見て感じたこと、捕鯨の種類について、日本におけるドキュメンタリー動画の価値について感じるところ、次回作や映画監督の日常についてなど、捕鯨から始まり映画監督としての佐々木さんについてまで幅広く話が広がった。
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