安倍総理への不信感~難しい支持率回復
須田)一連の、マスコミ各社の世論調査の結果を見てみると、だいたい2桁前後のダウンですが、これを見てみると、自民党として、安倍内閣としては結果的に、今回はある種の負けだと思うのですがどうですか?
田﨑)でも、きちんとテロ準備罪法案とか、その他の重要法案はほとんど成立させているのですよね。僕は今回の支持率低下は、割合深刻に見ている方なのですが。というのは、過去に支持率が10%前後落ちたのは、特定秘密保護法案とか、安全保障法制のときに、強行採決を同じようにやって、落ちているわけです。今回の世論調査を、細かく分析すると、「支持しない理由」を訪ねているときに、「首相を信頼できない」と言う人のパーセンテージが増えているのですよ。それまでは2割前後で推移していたのですが、5割近くに達している。それが、支持率低下の大きな要因になっているのです。
だから、政策の問題ではなく、「安倍総理に対する不信感」というのが、この支持率低下の背景にあるのでは、と読みとれるのです。そして、これを回復させていくのは、容易なことではないな、と。従来のように一旦下がって、1、2ヶ月後に上がっていくパターン通りにいくのか、今のところ分からないですね。
須田)相当難しいですか?
田﨑)世論の根深さが、自分の感覚の中でいま分からないのです。強行採決と文部科学省の再調査の結果発表があったので、それの影響だけなのか、もっと深いところで何か進んでいるのか。というのは、森友学園や加計学園の問題で、政府の対応がマズかったことは確かにあったので、そこで安倍総理に対する不信感が芽生えているとしたら、容易な支持率回復は無いだろうし、そうではなくて、強行採決に対する反発なら、まだ回復する余地はあるし。
須田)その一方で、思ったほど民進党の支持率が上がったわけではないですよね。
田﨑)その通りで、民進党の支持率が上がっているわけではないのです。
安倍政権は菅官房長官、今井尚哉首相秘書官との三角形で成り立っている
須田)38年の政治記者経験を振り返ってですね、過去に似たような状況はありましたか?
田﨑)各社が同じ時期に調査して、大きく落ち込んだのは、麻生政権が発足して2ヶ月後くらいですね。2008年に麻生政権が発足して、それから1、2ヶ月後に例の「漢字が読めない話」が起きて。各社の世論調査で10%前後ガクッと落ちたのですよ。
そのときは結局回復しないままずるずる行って、翌年の衆院選挙で負けた、というケースがあります。「世論調査で一斉に落ちた」という点はそのときと似ているのですが、「政権の求心力」という部分では、安倍政権はまだ強いと思います。党内を見ていても、「まだ安倍政権は続く」と見ている人の方が多いのですよ。というか、圧倒的ですよ。
須田)小耳に挟んだのですが、「菅さんと麻生さんが対立している」という情報があるのですが、田﨑情報では、この辺りどうですか?
田﨑)対立はある、としていますが、でも8月に行われる内閣改造では2人とも留任ですよ。最後はやはり総理の意向に従う、ということに関しては、菅さんも麻生さんも同じなのです。ただ、いろいろな物事の進め方で「違う」というところがでてくるのは、やむを得ないことです。たとえば去年の参院選挙で、衆院選と同時選を行うかどうかについて、麻生さんは「行うべき」と言い、菅さんは「見送るべき」と言う。そこで激しく対立するのです。
それで、総理は「見送る」と決断し、それに麻生さんも従っていく……というパターンで、むしろ一緒になっている方が状況としては危ないですよ。違っていても「安倍さんを支えていく」という点では一致しているわけですし。やはりこの政権は、安倍総理を中心として、菅官房長官、総理秘書官の今井尚哉さん。この三角形が強靱なのです。ときどきは意見が食い違います。食い違っても、意見が収斂したところへ一致協力していく、という強さです。同じ考え方で行った場合、かえって間違えた方向に皆が走ることになるので、ときどきは食い違った方が良いと思います。
菅官房長官は前川事務次官に怒っていた!
須田)そういった中で、先だって毎日新聞が「鉄壁の菅さんが決壊した」と書かれていて。菅さんの置かれている状況というのは、どうなのですか?
田﨑)僕は見ていて、珍しく菅さんが感情的になったな、と。それはやはり、菅さんには前川さんに対して「許せない」という感情を今年1月。2月からずっと持っていたのです。それは天下りに関する、菅さんの理解ではなかなか彼が責任をとらなかった件。前川さんは「違う」と言っていますけれど。そういうのが積もり積もって、今回例の文書が出てきたわけです。最初は朝日新聞が報じたのですが、前川さんが他の2社のメディアに持ち込んだことを、官邸は掌握しているわけです。それで、朝日だけが書いた。他の新聞とテレビ局では書かなかったということがあって。「これをたれ込んでいるのは、前川さんじゃないか?」という疑いが最初からあったのですよ。だから、怪文書と言ってしまうのです。
須田)そこが感情的に珍しくなっていたところ。
田﨑)そうです。その後は出来るだけ「怪文書」という言葉は使わないようにしていたのですが、一方で記者は「怪文書という認識に変わりはありませんか」と聞くわけです。そうすると「変わった」と言えないので、ずっと「怪文書」という言葉を使うようになってしまった。途中から官房長官と話していて、「これはマズかったな」という気持ちは持たれていたと思います。
須田)閉会中審査、というのはありますか? どうですか?
田﨑)僕は基本的にない方向ではないか、と思うのですが、ただこの後どんな問題が出てくるかによって、総理もこの国会の終わり方はマズかった、やはり再調査が遅れたという反省。記者会見では今後真摯に説明していく、と話はされているので、こぞってメディアが「ここはおかしい」と言ったときには受けていくのでは、と思います。
前川前事務次官の行動は吏道を外れたあるまじき行為
須田)では、前川前次官の証人喚問はどうですか?
田﨑)証人喚問はないでしょう。前川さんはいろいろなメディアで話されている。もうそれで十分でしょう、という感じだと思います。
須田)本音ベースで言ってね?元お役人がこういった形で、政権批判に繋がるような話をすると言うのは、どんな風に思われますか?本音ベースで。
田﨑)僕は、これは官僚にあるまじき行為だと思っています。官僚は時の権力、政権に仕えるのが仕事ですよ。具体的には、総理や官房長官の指示に従うのが官僚なのです。まずそこを踏み外しているのが1点。それと、現役時代に何故言わなかったのか。言わない理由は分かります。事務次官なので、省に迷惑をかけてしまいますから。そこは分かるのですが、だからといって、辞めたら言うのかと。現役時代に言わないことなら、その後もずっと言ってはいけないと思うのです。「現職のときは言いません。辞めたら言います」というのは、やはり官吏の道を「吏道」と言うのですが、吏道に反すると思います。僕らだって、会社に勤めながら不満がありますよ。あっても、それを我慢するときが多々あるわけです。辞めてその会社の悪口を言ったら、その人が問われますよ。
須田)「人としてどうなのか?」ということですね。
田﨑)そうです。
須田)くわえて、役人というのは選挙で選ばれているわけではないから、責任が終えないわけですよね。
田﨑)そう。だから、この間の政治の流れは、政治主導を強めてきている流れですよ。それは、政治家というのは選挙で落とされるわけですから。次の衆院選挙だって、自民党が負ける可能性もあるわけですよね。そういう責任の取り方が、政治家にはある。官僚の人たちは、試験に受かってきただけですので、悪いけれど。その人たちは失敗しても残るのですよ。そこは、政治主導の流れをここで変えたりするのは良くないし、官僚の方々は忠実にならなければいけないと思います。僕は財務省の、亡くなられた香川事務次官。消費再増税を官邸が見送る、という判断をする前、香川さんは菅さんのところへ行き「これは承伏できない。私たちは反対の根回しを一生懸命やるから、見ていて欲しい。でも、いざ官邸が決めたなら、それには従う」と。それが官僚の道だとも思うのです。
禁煙法案はなぜ見送られたのか
須田)そうですね。田﨑さん、いきなり話は変わりますが、タバコを吸うのですよね?
田﨑)ええ、吸います。
須田)今国会は塩崎さんが拘りに拘った、禁煙法案が、見送りになった。これに一言、感想を聞きたいのですが。
田﨑)これは、法案が提出もできずに終わった、というのは、ひとえに、もう塩崎さんですよ。彼に対する党内の反発が強くて出来なかった。塩崎さんは完璧主義者ですので、100のものを作ろうとしたそれに対して党内は、「70~80なら良いよ」というのが実際ですよ。それを、70~80では満足しない塩崎さんの政治家としての問題じゃないかな、と見ています。ああいう戦い方をする政治家は、僕はあまり好きではないのです。いま100を達成するためには、永久というか、かなり、数年の時間がかかってしまう。いま実現するためには「70~80で納めておこう。あとの2、30はまあとで」というように、リアルに対応していくべきだと思うのです。
須田)今日1番怒ったところだね、ここが(笑)
東島)言葉に熱がこもっていますが、ご自身の取材は尽きることがありませんので、来週もお話が伺えたらと思います。今週のゲストは田﨑史郎さんでした!
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