スポーツ伝説

2024.10.11

2024年10月7日~11日の放送内容

【クライミング安楽宙斗選手】
 東京オリンピックから採用されたスポーツクライミング競技で、いま世界中から注目を集めている高校生クライマー安楽選手です。安楽選手がクライミングを始めたのは、父親がダイエット目的で訪れたクライミングジム。父親よりものめり込んでしまい、夏休みは毎日のようにジムに通います。しかし小学2年生だったので、腕力はそこまでありません。そこで安楽少年は、ホールドと呼ばれる突起物にかける手や足の位置、体の使い方を工夫することで腕力に頼らない登り方を身につけました。これが、安楽選手の代名詞となった“脱力クライミング”です。一見すると力感のないこの登り方を武器に、安楽選手は国内大会やユースの国際大会で実績を重ね、急成長を続けます。すると去年初めて参戦したワールドカップで、制限時間内に完登した課題数を争う「ボルダー」と、到達地点の高さを競う「リード」の2種目で年間総合優勝を達成しました。同じ年に両方で年間総合優勝を果たしたのは、史上初の快挙。安楽選手は一気に、パリオリンピックの金メダル候補として注目を浴びることになったのです。
 身長およそ170㎝、体重55kgほどの細身の体ながら、身長よりも10㎝以上長い、腕のリーチを生かした軽やかな登りで世界の猛者と渡り合う安楽選手。ボルダーとリードの合計点で順位が決まるパリオリンピックでも、その長いリーチを駆使して難しい課題に挑戦していきました。準決勝を1位で通過し、8人の選手で競う決勝に進出した安楽選手は、前半のボルダーの4つの課題のうち2つで、最後まで登り切る「完登」を達成。この時点でトップに立ちます。残るは、6分以内で15mの壁をどこまで登れるかを競う、一発勝負のリード。最終8番目に登場した安楽選手は、長いリーチを生かし、次々とホールドを越えて70点台をクリア。さらにその上にある88点のホールドに到達すれば金メダルが確定でしたが、その直前で転落。あと一歩及ばず、安楽選手は銀メダルを獲得しました。世界最強を目指してきた安楽選手にとっては悔しい結果でしたが、この種目で日本の男子選手がメダルを獲得したのは、オリンピック史上初の快挙でした。

 
【卓球 女子団体】
 卓球女子団体で、世界ランキング2位の日本女子チーム。パリオリンピックでもメダル獲得の期待がかかっていました。中でもエースとして注目されたのが、早田ひな選手です。前回の東京大会では補欠という立場でしたが、その悔しさをバネに急成長を遂げました。ところがシングルス準々決勝で左腕を故障。ケガの影響もあってか準決勝はストレート負けを喫し、銅メダルのチャンスは残しつつも満身創痍の状態でした。そんな早田選手を支えたのは、パリ大会で補欠として帯同していた木原美悠選手です。自分自身も補欠の経験があるからこそ、木原選手の献身的なサポートと励ましがありがたかったという早田選手。くしくも3位決定戦が行われた8月3日は、
木原選手の20歳の誕生日ということで、銅メダルが見たいとハッパをかけられます。その期待に応えるためにも、早田選手は痛み止めの注射を打って試合に臨み、韓国のエースを4対2で撃破。オリンピック初出場で、シングルスの銅メダルを獲得したのです。
 チームメイトの支えを受けてシングルスでのメダル獲得を果たした早田選手。24歳で同い年の平野美宇選手と、16歳の新星・張本美和選手の3人で臨んだ女子団体戦でも、互いに支え合う姿がありました。4大会連続の団体メダルをかけて臨んだ準決勝のドイツ戦。第1試合のダブルスは早田・平野ペアが勝利。続く第2試合、エースポジションと呼ばれるシングルスには、16歳の張本選手が出場しましたが、健闘も実らず敗れてしまいます。続く第3試合は平野選手が勝利し、勝てばメダルが決まる第4試合。再び張本選手に出番が回ってきます。ところが、第2試合で破れたことを引きずっていた張本選手は精彩を欠き、第1ゲームの序盤はリードを許す展開に。ここで張本選手を救ったのは、先輩二人からの「楽しんで、頑張って!」という声かけでした。これで気持ちが楽になった張本選手は、ここから逆転で第1ゲームを制すると、勢いに乗って第2ゲームも連取。勝負の第3ゲームは相手に1ポイントも与えない圧巻のプレーで決勝進出を決め、4大会連続メダルを確定させたのです。

 

【セーリング 岡田奎樹・吉岡美帆選手組】
 全長470㎝の2人乗りヨットで順位を競う、セーリング470級。オリンピックでは東京大会まで男女別で行われましたが、今年のパリ大会では男女混合種目として実施されました。日本代表として出場したのは、岡田選手と、吉岡選手のペアです。岡田選手も吉岡選手も、東京オリンピックでは7位入賞。さらなる飛躍を目指し、お互いが組むならこの人と考えて声を掛け合い、ペア結成に至りました。役割分担は、風や波など自然環境の変化を読むのが得意な岡田選手が、舵取りの「スキッパー」を担当。体全体を使ってヨットのバランスを取る「クルー」は、身体能力の高い吉岡選手が務めました。男女の国内トップ選手同士が手を組んだ最強ペアはすぐに国際大会で実績を重ね、昨年の世界選手権で金メダルを獲得。今年の世界選手権でも3位と安定した成績を収め、パリオリンピックに挑みました。
 岡田・吉岡ペアが世界と戦う上で重視したのは、無言のコミュニケーションです。会話によるコミュニケーションの量を減らした中で、お互いの考えをいかに伝えるかという難しいトレーニングに挑みました。10数m先の風の状況を読み、お互いが息を合わせてヨットの操縦をしなければならないセーリング。風の予測ひとつひとつを説明する余裕などなく、時間のロスを防ぐためにも言わなくてもわかる、阿吽の呼吸レベルのコミュニケーションを目指します。迎えたパリオリンピック、上位10艇による最終レースに残った2人は持ち味を発揮。風の傾向を読むことには世界一の自信があるというスキッパー・岡田選手の判断で、上位陣とはあえて違う進路を選択します。これが功を奏して、日本ペアはレース序盤から好位置につけると3位でフィニッシュ。これまでのレースと合わせた合計得点は2位となり、銀メダルに輝きました。日本勢がセーリング競技でメダルを獲得するのは、2004年のアテネ大会以来、実に20年ぶりの快挙でした。

 

【飛び込み 玉井陸斗選手】
 先月18歳になったばかりの玉井選手は、3歳から水泳を始め、小学1年生の時に飛び込みを始めます。小学校の卒業文集で将来の夢を『オリンピックでメダル』と書いた玉井選手は、2019年4月、日本室内選手権を12歳7カ月の大会最年少で優勝。14歳で出場した東京オリンピックで7位に入賞。日本選手の入賞は、同じスイミングクラブの先輩でシドニーオリンピックで5位に入賞した寺内健選手以来、21年ぶりの快挙でした。しかし日本の飛び込み勢は、104年前の1920年にアントワープ大会でオリンピックに初出場して以来、過去にメダルを獲った選手は皆無。それだけにオリンピックのメダルは、日本の飛び込み界の悲願でもありました。
 東京オリンピックの後、2022年の世界選手権で銀メダルを獲得するなど、着実に実績を積み上げてきた玉井選手。オリンピックでのメダル獲得へ向けて課題としてきたのが、それまで苦手にしていた、後ろ向きに踏み切って3回転半回る、難度の高い技「207B」でした。滞空時間を長くするための踏み切りの改善や、空中感覚を養うトランポリンを使ったトレーニングを取り入れ、次第に「207B」の成功率を上げていった玉井選手。迎えたパリオリンピック本番で決勝に進んだ玉井選手は、2本目の演技で「207B」を披露します。キレのある回転からきれいに入水を決め、95.40の高得点をマーク。これで勢いに乗った玉井選手は、3・4本目の飛び込みもミスなく高得点をマークし、トップと僅差の2位につけました。しかし5本目の演技で、3位に順位を落としてしまいます。気持ちを切り替えた玉井選手は、最後の6本目の演技で、後ろ向きに踏み切り、2回転半ひねりながら2回転半回転する得意技「5255B」を成功させ、99.00の高得点。ここぞという場面で大技を決めて、銀メダルに輝いた玉井選手は、日本飛び込み界初の快挙を成し遂げました。

 

【近代五種 佐藤大宗選手】
 馬術・フェンシング・水泳に、ランニングと射撃を組み合わせたレーザーランを1人ですべて行い、総合得点を競う競技・近代五種は、近代オリンピックの父と呼ばれるクーベルタン男爵が古代オリンピックで行われていた五種競技をヒントに考案。1912年のストックホルム大会から実施され、キングオブスポーツと呼ばれている伝統ある競技です。この近代五種にパリオリンピック日本代表として出場した佐藤選手は、青森市出身の30歳。子どもの頃から取り組んでいた水泳を生かせる仕事に就きたいと、高校卒業後は海上自衛隊に入隊。近代五種と出会ったのは、入隊1年目のことでした。
 フェンシングと馬術が含まれていることもあって、ヨーロッパの選手が強い近代五種。日本の選手は1960年のローマ大会で初めて出場して以降、個人では男女を通じてメダルはおろか、8位以内に入賞を果たした選手もいませんでした。フェンシングは東京オリンピックで金メダルに輝いた男子エペ団体メンバーと一緒に練習を重ね、馬術は馬について深く知るため、北海道の競走馬生産牧場にいる専門家に動画を送り、特徴を研究した佐藤選手。その努力が実ってパリ行きの切符をつかみ、本番では総合得点2位の1542点をマーク。日本選手ではこの競技史上初となる銀メダルを獲得したのです。

 

来週のスポーツ伝説もお楽しみに!!

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    パーソナリティ
    • 滝本沙奈
      滝本沙奈
      滝本沙奈

      滝本沙奈

      生年月日:1984年6月6日
      出身地:東京
      学歴:青山学院大学文学部英米文学科卒
      趣味:マリンスポーツ(ダイビング、サーフィン、釣り)
      資格:PADIオープンウォーターダイバー、おさかなマイスターアドバイザー

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