#14 ミスターロッテ・初芝清 野茂英雄からサヨナラHR

◎1994年5月10日 千葉マリンスタジアム
近鉄 0 0 0 0 0 0 0 0 0 = 0
ロッテ 0 0 0 0 0 0 0 0 1X = 1
HR(ロッテ)初芝3号
「あれ以上のホームランは思い出せませんね」
そう語るのは「ミスターロッテ」と呼ばれた初芝清。1988年、東芝府中からドラフト4位で「ロッテオリオンズ」に入団。当時のホームグラウンドは川崎球場だった。1992年、本拠地が千葉マリンスタジアム(現・ZOZOマリンスタジアム)に移転し、球団名が「千葉ロッテマリーンズ」に変わってからは「幕張のファンタジスタ」の異名を取り、17年間、ロッテひと筋でプレーして引退。とにかくファンに愛された選手だ。
初芝は現役時代、通算232本のホームランを打っている。中でも本人が「忘れられない」という一発が、プロ6年目、1994年に千葉マリンスタジアムで放ったサヨナラ弾だ。打った相手が、近鉄バファローズのエース・野茂英雄である。
野茂は独特のトルネード投法から繰り出される剛速球と、落差のあるフォークを武器に入団から4年連続で最多勝に輝いた。しかし、5年目の1994年に右肩痛を発症。この年8勝に終わった野茂は、鈴木啓示監督および球団フロントとの対立から、オフに任意引退の形をとって近鉄を退団。ロサンゼルス・ドジャースに移籍した。1994年は結果的に、野茂が日本のプロ野球で投げたラストイヤーとなった。
初芝は、野茂の伝家の宝刀・フォークについて「低めに落ちるボール球のフォークを振らないように目付けを高くしていても、いざ振ったらワンバウンドしていた」と語っている。1994年5月10日、野茂と対戦した初芝。この日の野茂は初回からすばらしい出来で、ロッテ打線を8回までわずか1安打、無失点と完璧に抑えていた。
だが、ロッテ先発・小宮山悟も負けじと好投。近鉄打線を9回まで3安打、無失点に抑えてみせる。試合は0-0のまま9回裏に突入。野茂は4番のメル・ホールからこの日10個目の三振を奪い、1死無走者で5番の初芝に打席が回ってきた。「ここは“一発”で決めるしかない。初めからストレート狙いで、フォークが来たら三振するつもりだった」という初芝。初球はファール。野茂はそのスイングを見て、初芝が直球一本に的を絞っていることに気づいた。しかし、それをわかっていながら「真っ直ぐでいける」とあえて直球勝負を選んだところが、いかにも野茂らしい。
ところでマリンスタジアムといえば、スコアボードに風速計が表示されているように、気まぐれな「風」が名物だ。この初芝の打席のときは、ホームに向かって逆風が吹いていた。普通に考えてホームランが出にくくなるように思うが、必ずしもそうならないのがこの球場の特異なところ。実は、バックスクリーン側とバックネット側の球場壁に高低差があり、バックネット側のほうが6メートルほど高いので、ライナー性の打球だと、ホーム方向に吹く風が球場壁に当たって一転、外野方向への“追い風”になることがあるのだ。初芝はもちろん、そのことを知っていた。
カウント1-1からの3球目、この日123球目のストレートを初芝は振り抜いた。本人いわく「完璧な当たり。打った瞬間は感触がなくて、空振りしたんじゃないかっていう感じだった」。つまりそれだけ真芯に当たったということだ。「逆風だったが、ライナーなので伸びるかなと思った」という初芝の読み通り、打球はセンター方向にぐんぐん伸びて、バックスクリーンを直撃。まさに「幕張のファンタジスタ」らしい劇的なサヨナラ弾で試合は決し、初芝はホームで待ち構えるロッテナインにもみくちゃにされた。この一発で、小宮山の完封勝利も決まった。
一方、野茂はうなだれるでもなく、堂々とマウンドを降り、ベンチに帰っていった。報道陣には「納得のいくボールだったから、力負けです」とコメント。とはいえ、許したのはわずか2安打である。初芝は言う。「こっちが真っ直ぐ狙いだとわかっているんだから、フォークを投げておけば打たれないものを、野茂投手は力と力の勝負を挑んでくれた。凄いピッチャーでしたね」
<チャッピー加藤>
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