目の不自由な人も読書を楽しめる録音図書~ミュージックソンの募金はこんなところにも使われています~

みなさんは普段、どれくらい本を読みますか?週に1冊?月に1冊?それとも年に1冊?とある調査によると、日本人の平均読書冊数は年間20冊ちょっととも言われ、月に換算すると2冊程度に過ぎません。そんな中、年に数百冊の本を楽しむ、目の不自由な方がいらっしゃいます。目の不自由な人が本を楽しむ?どうやって?その不思議に、迫りました。

 

■ 目の不自由な人の読書方法の録音図書とは?

目の不自由な人の読書方法は、大きく分けて2つあります。一つは、”点字に変換された図書”を「手で読む」方法。そしてもう一つは、”朗読された録音図書”を「耳で聞く」方法です。特に録音図書は、データ技術の発展やインターネットの普及によって、家にいながら手軽に読書を楽しめる手段だとして、急速な広がりをみせています。

録音図書は多くの場合、ボランティアが一般図書を一冊一冊丁寧に朗読して作っています。朗読といっても、紙芝居の読み聞かせのようにただテキストを声に出して読み、録音すればよいわけではありません。録音図書は必ずしも小説やエッセイのように文字だけで構成された本ばかりではないからです。実用書や解説書、歴史書やガイドブックのような、写真やイラストが豊富な本までが、「声だけ」で構成される録音図書となっているのです。

このように多くの本はもともと、“視覚的に”情報を読み解くことを前提として作られているため、書かれた文字を読み上げるだけでは、意味が通じないことがあるからです。

一つの例ですが、災害や社会福祉にまつわる本ですと、「公助」と「控除」といった、同じ「コウジョ」と発音する意味の違う言葉が出てきたりします。本を「目で読む」場合、私たちは漢字の綴りや前後の文脈から、知らない、あるいは読めない単語でも、その意味をある程度推測できます。

しかし本を「耳で聞く」場合、そうはいきません。しかも、目で見ても「公助」などはなかなか普段使わない言葉ですから、私たちでもわかりにくいと思います。「コウジョ」と言葉で言われても、それが公助なのか控除なのかはたまた公序なのか、すぐには判断がつかないでしょう。

そのため録音図書を作る際には、難しい語は意味を解説しながら、同音異義語の存在する単語はその綴りを注釈しながら、読み進めていくそうです。「公助、 公的支援のこと。公園の公、救助の助」と言われれば、耳で聞きながらも、その言葉の意味が分かりますよね。

綴りの解説にも、ルールがあります。それは、喩えで使う単語は「音の読みが同じ単語」を使うこと。公助を「コウジョ、オオヤケのコウに、タスけるという漢字」と説明されても、耳から聴く言葉だけではどれを指して説明しているのか、一瞬、わからなくなりませんか?

また、テキストとテキストの間に挿絵や写真の解説が行われることも、特徴の一つです。写真ならば写真の描写が、図表ならば図表の構造が、全て“ことば”で、解説されていきます。何を示した図表で、どのようなことを説明しているのか、また、写真ならば何が写っていて、どのように見えるのか、簡潔に説明します。

こうして録音図書は、本を「目で読む」時と同じ情報量を持つよう、多くの注釈や解説を交えながら作成されています。テキストの合間にそうした情報が入るのですから、聞き慣れていない人にとっては、少し違和感があるかもしれません。しかし聞き慣れた人は、晴眼者が“速読”や“ななめ読み”をするように、倍速や3倍速、あるいはそれ以上のスピードで、いわば“ななめ聞き”をするそうです。そうすることで、年間数百冊という驚異の読書量に到達できるのでしょう。

 

■録音図書の作り方

さて、録音図書の多くはボランティアの手によって朗読されているわけですが、どんなところで、どのように作られているのでしょうか?

国内における録音図書制作の代表格とされるのが、東京都・高田馬場にある『日本点字図書館』です。日本点字図書館では、点字図書・録音図書の制作及び全国の視覚障害者への図書の無料貸出を行っており、日本最大の点字図書館とされています。

ここに協力を申し出たボランティアの方々は、まず録音図書制作に必要なレクチャーを受け、その後、館内にある録音ブースや自宅にて、図書の音声化作業を行います。

j96a2919_edit_r

つまり、その本に書かれている文字の情報を声で言葉に置き換えていく、という作業。1冊の本は同じ人が1人で全てを読み、1日数時間ずつ通って、読み終えるだけで平均で1か月程度かかるそうです。

録音図書にする本を渡されたらまず本を下読みし、一語一句、読み方やイントネーションをチェックするところから始めます。難義語など、解説が必要だと思う箇所には辞書等で調べた注釈をつけ、併せて挿絵や写真などの解説文も書き加えます。その裁量はすべて、それを声に出して読むボランティアの皆さん自身に委ねられているというから、責任の大きな仕事ですね。

j96a2920_edit_r

下調べが終わったら、あとはひたすらに朗読、録音していく作業。段落や章ごとに区切りながら、一冊を読み切ります。読み間違いがあれば、また最初からやり直し。聞き手に話がより良く伝わるよう、読み方を工夫しながら朗読を進める姿は、ボランティアとはいえ、アナウンサーとはまた違ったプロフェッショナルであると思わされます。

こうしてボランティアによって朗読された音源は、次に録音図書の校正・編集者の手に渡ります。近年、録音図書は『DAISY (=Digital Accessible Information System)/デイジー』と呼ばれる国際標準規格に則って作られており、デイジー図書では朗読を聞きながら、目次より任意の章や節、ページに自由に飛ぶことができるようになっています。そのため、編集者が朗読をチェックしながら、本のページ数や章立て、図や写真などの挿入場所を、朗読の音源に改めて一緒に記録していきます。

j96a2922_edit_r

このデイジー図書は専用の機械や専用ソフトをインストールしたパソコンで再生可能で、CD-ROMに記録されたものやインターネット配信という形で貸し出されています。

 

■録音図書の現状

朗読はボランティアにお願いしているのですが、このデイジー化の作業というのは専門的かつ技術的な作業であるため、どうしても費用がかかってしまいます。

このようにして、これまでに日本点字図書館で製作された録音図書は約2万数千タイトルにも上ります。それでも、国内で1年間に出版される活字図書、約7万数千タイトルと比べると、その蔵書はほんのわずか。「視覚障害者が自由に読書できる」環境には、ほど遠いのが現状です。

目の不自由な方は、全員が点字を自由に読めるわけではありません。それでも録音図書があれば、目の不自由な人も読書を楽しめますし、新しい知識や情報を得ることが出来ます。しかし、その録音図書の製作には、膨大な手間と時間がかかります。

ラジオ・チャリティ・ミュージックソンでは、みなさんのご協力の下、この、録音図書の制作(=朗読音源のデイジー化)も応援しています。

【取材レポート】カテゴリの記事一覧へ

この記事をシェア!

同じカテゴリの記事

トップへ戻るボタン