古美術永澤 presents ミッツ・ザ・コレクション

2022.06.06

2022年6月5日放送『え?これってどっち?』

音楽への造詣が深いミッツ・マングローブが、毎週様々なテーマと共に70年代・80年代・90年代の音楽をミッツ・マングローブ自身の解釈でお届けしていく番組『ミッツ・ザ・コレクション』。

第29回目のテーマは『え?これってどっち?』。

この世に数多あるラブソングを始め、

歌詞世界で描かれる「あなたと私」「君と僕」の関係性というのは、

基本的に「男と女の話」であるのが基本です。

しかし、中には「僕(男)わたし(女)に対する

「君・あなた・あの人・あの子」の描かれ方が、

聴き様によっては「同性」なんじゃないか?と取れる曲が稀にあります。

今回はそんな「これってどっちなの?」な楽曲をいくつか紹介していきました。

 

まず1曲目は、佐良直美さんで「いいじゃないの幸せならば」

ミッツさんがこの曲を初めてちゃんと聴いたのは中学生の頃だったそうです。

歌詞に出てくる主人公の一人称は「私」であり、

「悪い女だと人は言うけれど」とあるように、この「私」は女性であることは明白です。

そして、この「私」が歌の中で関係を持つ相手は、

「あなた」と「あの子」のふたりなのですが、

どうしても「あなた」の方は男性で、「あの子」の方は女性のような気がしてならない、と語るミッツさん。

別に相手が男だろうと女だろうと、

それこそ「いいじゃないの幸せならば」なのですが、

69年という時代的にも、こんなにも自由で妖しげな曲が大ヒットをしたわけで、

そんな曖昧模糊とした世相も含めて、大変惹きつけられる一曲です。

皆さんには、この「あなた」と「あの子」の輪郭がどのように浮かぶか、聴いてみて頂ければと思います。

 

続いて2曲目は、山本リンダさんで「どうにもとまらない」

今もあらゆる世代に親しまれているまさに「国民的アンセム」ですが、

実はこの曲は、以前から「日本におけるジェンダーフリーを歌った最初の曲」

とも言われており、この曲に関する解析や論文なども数多く存在します。

皆さんもよくご存知の「ああ蝶になる ああ花になる 恋した夜はあなた次第なの」という一節。

花に対峙する場合の「蝶(バタフライ)」とは、

「能動」の象徴であり、ざっくり言うところの「男」を意味しており、

「花」は「受動=女」を意味しています。

相手(あなた)次第で男にも女にもなるというのは、

言わば「主人公のバイセクシャルリティ」を表しているのです。

さらには、「今夜は真っ赤なバラを抱き器量のいい子と踊ろうか 

それともやさしいあの人に熱い心をあげようか」という歌詞。

ここでも「あの子」と「あの人」というふたつの選択肢が出てきますが、

時代背景的にも、若い女性から見て「あの人」というのは男性であり、「あの子」は女性だと推察できます。

「真っ赤なバラを抱く」というシチュエーションも、

リードする男性的な要素を描写するためのものです。

そして「(見た目という意味においての)器量のいい子」というのも、

元来「女性」を形容する表現であるところもポイントです。

語学的センスに溢れ、なおかつこの上なくキャッチーなフレーズとメロディで、

サラッと「性の境界線」を飛び超えた1972年の名曲。

 

お別れの曲は、平井堅さんで「even if」でした。

ミッツさん曰く「リリース当時、ゲイの人たちの間でも、

その解釈を巡って様々な議論が湧き上がった」とのこと。

この曲に出てくる登場人物は「僕」「君」そして「君」の恋人である「彼」の3人です。

「君」のことを好きな「僕」の気持ちに気付かずに、

その場にはいない「彼」とのノロケ話ばかりする「君」。

このまま終電を逃せば、「君」は「彼」のところへ帰れなくなるのになぁと、悶々とする「僕」。

そして「僕」と「君」は、それぞれ「バーボン」と「カシスソーダ」を飲んでいます。

このふたつのお酒が、この曲を聴く上でとても重要なアイテムであり、

「僕」と「君」の性別や関係性を表す唯一のヒントでもあります。

普通に考えて「僕(男)」が「バーボン」、

「君(女)」が「カシスソーダ」という組み合わせが妥当でしょう。

しかし、どちらが何を飲んでいるのかは、ずっと曖昧なまま曲は進んでいきます。

そして最後の最後に、「終電の時間を気にする君」が飲み干したのは、

なんと「カシスソーダ」ではなく、まさかの「バーボン」の方あることが分かります。

この「バーボン・カシスソーダ論争」は、

未だに全国のゲイタウンで恋愛模様を繰り広げる人たちの、とめどない想像と共感を掻き立て、

「これって自分たちのことだよね?」と切なくも、どこか心強い気持ちにさせてくれる1曲です。

番組に関する感想・ご意見・ご要望などありましたら、

mco@1242.com までお寄せください。

お葉書は、

〒100ー8439 ニッポン放送「ミッツ・ザ ・コレクション」まで。

次回の放送は、2022年6月12日(日)17:30〜です。

どんなテーマでどんなセレクト楽曲が繰り出されるのか、お楽しみに!

 

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パーソナリティ
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    ドラァグ・クィーン・歌手・タレント。総じて「女装家」。
    1975年 4月10日 神奈川県横浜市生まれ
    10代中盤ををロンドンで過ごす。 慶應義塾大学法学部を卒業後、 英国ウエス卜ミンスター大学に入学。商業音楽全般を学ぶ。帰国後2000年ドラァグ・クイーンとして東京でデビュー。以降、各地のクラブを中心に様々な活動やイベントの主催をする傍ら、05年に星屑スキャットを結成。07年スナック「来夢来人」にて丸の内初の女装ママに。
    09年頃からテレビでも活躍。
    2011年「若いってすばらしい」で歌手デビュー。2012年3人組コーラスグループ“星屑スキャット”のメンバーとして「マグネット・ジョーに気をつけろ」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2018年星屑スキャット1stアルバム「化粧室」をリリース。野外フェスティバルへの出演含め精力的に活動中。
    2019年星屑スキャット初の全国ツアー「あ々喉仏」開催。
    2021年4月中野サンプラザを含む星屑スキャット全国ツアー「色、色々」開催。