おススメの最新映画をご紹介している“サンデー早起キネマ”
12/4は、国もジャンルも全く違う3本をご紹介。
1本目は、第78回ヴェネチア国際映画祭で、審査員全員の絶賛を浴びて最高賞の金獅子賞を受賞。フランスから届いた衝撃作
『あのこと』
原作は、今年のノーベル文学賞に輝いたアニー・エルノーが体験を元に書き上げた小説「事件」。
舞台は1960年代のフランス。主人公は小さなカフェを営む貧しい労働者階級に生まれながらも、とびぬけた知性と努力で大学に進学し、教授からも一目置かれているアンヌ。
学位を取って教師になる夢に近づいていましたが、大切な試験を前に、妊娠していることがわかります。
当時のフランスでは人工妊娠中絶は法律で禁止され、何らかの処置を受けた女性、処置を施した医師や助産婦、さらに助言やあっせんをした者にまで、懲役と罰金が科せられていたのです。
このままでは、アンヌは教師になる夢を捨てるしかありません。医師や友達、周りに助けを求めても、当然誰も力になってはくれず、日に日に大きくなっていく不安に押しつぶされそうになるアンヌ。
時間切れが迫る中、アンヌは夢と学位のために、たった一人で命を懸けた未知の闘いに挑むのです。
この作品をみて一番驚いたのが、自分がアンヌと同じ経験をしているような気分になることです。カメラがアンヌに密着、カメラワークのお陰で、彼女の孤独・不安・怒り・悲しみ・恐怖といった精神的な苦しみも、痛みという身体的な苦しみも、気づけば自分のことのように感じているのです。
メガホンをとったのはこれが長編2作目の女性監督オードレイ・ディヴァン。自分の体験を元に原作を書いたアニー・エルノーが、目に涙を浮かべ当時のことを話す様子をみて、80歳を過ぎた今でも彼女の痛みと深い悲しみが癒えていないことに動揺したそうです。
「中絶」という言葉すら発することができず「あのこと」と表現していた当時、アンヌのような苦しみを味わった女性がどれほどいたことでしょう。
あれから50年以上が経った今でも、意図しない妊娠をしたケースでも中絶の判断が政治的に利用されている国があったり、日本でも中絶できない壁があることは問題になっています。
アニー・エルノーは、ノーベル文学賞のインタビューで、「私たち女性は自由と権力において男性と対等に
なったとは思えません」と述べ、中絶の権利を確保しようとする活動を支援する考えを示しています。
全ての問題に賛否両論があるのは当然ですが、この問題は老若男女誰もが、他人事ではなく“自分の問題”として考えなくてはならないと、この作品を観て改めて思いました。
アンヌを演じた期待の若手女優アナマリア・ヴァルトロメイの澄んだ強い瞳が、そのことを問いかけているようです。
『あのこと』
12月2日(金) Bunkamuraル・シネマ他 全国順次ロードショー
公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/
監督:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ『ヴィオレッタ』、サンドリーヌ・ボネール『仕立て屋の恋』
原作:アニー・エルノー「事件」
配給:ギャガ
2021/フランス映画/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/100分/翻訳:丸山垂穂
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – WILD BUNCH – SRAB FILMS
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