番組でご紹介した作品をブログでも味わって頂く「サンデー早起キネマ」
今週ご紹介するのは、今月1日から公開されているドキュメンタリー映画
『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』
「ん?見たことがあるタイトルだ」「このお話、見たことがあります」という方もいらっしゃるかもしれませんね。
このドキュメンタリーは、NHKで2002年から7回に渡って放送されたシリーズで、ついに映画化されたのです。
監督・撮影は、ムツさんに魅了されて2001年から18年間に渡り取材を続けてきたNHKのカメラマン・百崎満晴さん。
埼玉県秩父山地の北の端にある小さな集落・太田部楢尾に通い続けました。
昔は、養蚕や炭焼きが盛んで、100人以上が暮らしていましたが、取材が始まった2001年には、戸数5戸・9人しか住んでいませんでした。平均年齢は73歳。
その一人、小林ムツさんは、夫の公一さんと二人で暮らしています。
山深い村はほとんど平地がなく、山の斜面に丹精込めて段々畑を作っていましたが、二人は、平成に入った頃から、畑を一つずつ閉じてそこに花を植えてきました。
「長い間お世話になった畑が、荒れ果てていくのは申し訳ない。せめて花を咲かせて山に返したい」という思いを込めて…その数は1万本以上になりました。
新春には福寿草の黄色から始まり、春になるとレンギョウ、ハナモモ、ヤマツツジと花盛り。ピンクに白に赤…そして今時分はアジサイのブルーや紫に彩られます。
「いつか人が山に戻ってきた時、花が咲いていたらどんなにうれしかろう」スクリーンの中で優しい笑顔で話すムツさん。
でも、やがて辛い出来事が起きてしまいます…。
観終わった後、ジーンと涙があふれ、「なんていい時間だったのだろう」と心の底から思いました。
深い緑の山の中ある太田部楢尾は、赤やピンクの花の間にポツンポツンとお家の屋根が並ぶ、昔話に出てくるような村なのです。
その花の木を植え続けたのがムツさん夫婦。
あどけないほど可愛い笑顔とあの小さな体のどこに、そんな力と気力があるのか、不思議です。
無欲に一途に人のために自然のために…一生懸命に生きた人の包み込むようなおおらかな温かさにあふれています。
私もムツさんに“幸せのおすそ分け”を頂いたのだと思いました。
美しい山里の四季の中、ムツさんが歩いた道を、一緒に歩いてみませんか?
『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』
シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
公式HP:hana-ato.jp
語り:長谷川勝彦
監督・撮影:百崎満晴 プロデューサー:伊藤純
出演:小林ムツ、小林公一 他
2020年/日本/112分/16:9/カラー/ドキュメンタリー
配給:NHKエンタープライズ、新日本映画社
©NHK