2020年04月20日

「コロナ後の世界」に希望を見出そう

 2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を受けて日本政府は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言を発令しました。16日には対象を全国に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。

 7日の緊急事態宣言から10日ほどが経過した、ニッポン放送のある日比谷・有楽町。店舗や施設の休業、イベントや集会の中止、在宅勤務により、平日でも人が少なく閑散としています。日本のみならず世界の経済は停滞し、IMFは今年の世界経済が大恐慌以降で最悪の景気後退に陥る可能性が高いとの見通しを示しています。

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 私はニッポン放送のラジオ番組「飯田浩司のOK!Cozy up!」の中で、新型肺炎について1月2日から警鐘を鳴らしてきました。が、初期段階からここまでの事態になることを予測できるはずはなく、報じるタイミングでの事実をベースに、その後起きうる可能性を含めて解説してきたつもりですが、そのほとんどにおいて、楽観的な可能性は症例が増えていく中で医学的に否定され、悲観的な可能性が現実のものとなっていくことが繰り返されています。

 本稿では、新型コロナウィルスについてこれまでの経緯を改めて振り返り、「コロナ後の世界」に向けて今我々は何をすべきか、考えていきたいと思います。

 2019年12月31日。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏がレバノンに逃亡したというニュースが日本を騒がせた日、「中国・武漢で原因不明の肺炎」という不気味なニュースが報じられました。「中国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎の発症が相次いでいる。同市当局の発表によると、これまでに27人の症例が確認され、うち7人が重体という。中国政府が専門チームを現地に派遣し、感染経路などを調べている」(朝日新聞)。実はこの前日、武漢市の眼科医・李文亮氏がグループチャットに「武漢市の華南海鮮市場でSARSが発生している」と発信。李医師は虚偽情報を流したと警察から処分を受けた後、自身も新型コロナウィルスに感染、2月7日に亡くなりました。(後に中国当局は李医師への処分を撤回)

 2020年1月7日には肺炎の原因が新型のコロナウィルスであることが判明。16日には日本国内でも武漢市から帰国した30代中国人男性の感染が確認されました。23日、武漢市が都市封鎖を宣言しますが、WHOは24日、緊急事態宣言を「時期尚早」と見送り。この頃、中国では春節の連休が始まります。29日、日本政府は武漢から邦人を帰国させるためのチャーター機を派遣。そして31日、中国以外の国々での感染者数増加を受け、WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。

 2月5日、集団感染が発生し横浜沖で停泊していたダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客に14日間の隔離措置を開始。8日、武漢在住の日本人男性が死亡。日本人初の死者となります。11日、WHOが一連の疾患を「COVID-19」と命名。13日には神奈川県在住の80代女性が死亡。国内初の死者となりました。24日、日本政府の専門家会議が「この1〜2週間が感染拡大に進むか、終息するかの瀬戸際」との認識を発表。27日、日本政府が全国の学校休校を要請します。

 3月5日、日本政府が中国の習国家主席の来日延期を発表。中国と韓国全土からの入国制限も実施します。11日、WHOが「パンデミックに相当」との見解を発表。13日、日本の国会で新型インフルエンザ特別措置法が可決。アメリカではトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。19日、政府の専門家会議が「オーバーシュート」による医療崩壊と、「ロックダウン」措置の可能性を懸念。20~22日は全国で花見や大型格闘技イベントが開催され、いわゆる"自粛が緩んだ"と言われた3連休です。24日、東京オリンピック・パラリンピック開催の1年延期が決定。27日にはイギリスのボリス・ジョンソン首相の感染が確認され、29日にはタレントの志村けんさんが新型コロナウィルスによって亡くなりました。

 そして4月7日、止まらない感染拡大を受けて日本政府は7都府県を対象に緊急事態宣言を発令します。16日には緊急事態宣言の対象を全都道府県に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。16日の時点で、全世界の感染者数は約205万人、回復者は約51万人、死者約13万人。日本では感染者数8,582人、回復者901人、死者136人となっています。

 こうして振り返ってみると、改めて感染拡大の早さに驚かされます。新型コロナウィルスの感染力の強さを示す基本再生産数(R0)は、WHOで1.4~2.5と推定されており、季節性インフルエンザの2~3やSARSの2~5を下回りますが、新型インフルエンザ(H1N1)の1.4~1.6、MERSの0.6よりも高いとみられています。新型コロナウィルスの感染の特徴として政府の専門家会議は、「症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大」させ、また「一定条件(いわゆる3密)を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染」させることでクラスターが発生、これが連鎖し、感染が急速に拡大していく可能性を指摘しています。なお、日本全国の実効再生産数(ある集団のある時刻における再生産数)は現在1前後、東京都では1.7(3/ 21~30)と、専門家会議は推計しています。

 また新型コロナウィルスの致死率(死亡者/感染者)は初期段階、WHO等により2~3%程度と推計されていましたが、欧州で流行してから高まってきており、現在世界平均で約6.4%。感染していても気付かないケースが多く実際の致死率はもう少し低いとみられており、現時点ではかなり変動的です。SARSの致死率約10%、MERSの約34%と比べると低いとはいえ、季節性インフルエンザの0.1%と比較すれば遥かに高く、WHOは2009年に流行した新型インフルエンザと比べても致死率が10倍高いとの見解を示しています。国別で見ると、日本は致死率約1.5%、アメリカは約4.4%、イタリアは約13%、ドイツは約2.5%、フランスは約12%、イギリスは約13%、中国は約4.1%、韓国は約2.1%。日々変動しますが、国によってかなり差があります。日本は"検査対象を絞っているから感染者数が少ない"と一部で批判(医療崩壊を防ぐためなのですが)されることがあるのですが、(感染者数が少なければ致死率は上がりやすいにも関わらず)世界の中でもかなり低い致死率にとどまっています。

 「若者は重篤化しない」「春になれば消えるさ」「アメリカのCDC(疾病対策センター)は最強」などの楽観的な見方が、症例を重ねるにつれてことごとく「そうじゃなかった」と分かっていく中で、日本の感染者数・致死率が比較的低く抑えられているのは、多少の好材料ではあります。ただその理由については「BCG接種の影響説」などあるものの、現状でははっきりと分かっていません。

 また「毎年流行する季節性インフルエンザのほうが被害が大きい」という意見があります。16日時点の新型コロナウィルスの感染者8,582人(回復者901人)、死亡者136人に対して、季節性インフルエンザは年間感染者数が約1000万人、直接的及び間接的な年間死亡者数は約1万人と厚労省は推計しています。確かに現状の数字では、例年の季節性インフルエンザの方が被害が大きいのは事実です。しかし東北大学の押谷仁教授は新型コロナウィルスについて、『重症化した人ではウイルスそのものが肺の中で増えるウイルス性肺炎を起こす』、『感染連鎖が非常に見えにくい』、『対抗するワクチンや治療薬、有効なツールがない』ことを指摘し、季節性インフルエンザと同列に見ることに警鐘を鳴らしています。

 新型コロナウィルスは新たな世界的脅威です。まだ分かっていないこともたくさんあります。それぞれのフェーズで、暫定的な結果から導き出された「仮説」には、正しかったことも、結果的に間違っていたこともあります。事態が流動的である以上、受け取る側が常に情報を更新し、精度の高い状態に保つ必要がある、そんな状況なのだと思います。私は現在、ニッポン放送でニュース番組を担当しています。放送に至る過程で取材と事実確認を行い、精度を高めた情報を提供しているつもりです。先が見えないこの時代、流動的な状況に対応して事実に即した更新情報をお届けすることが、「コロナ後の世界」に意識を向ける『希望』へつながるのではないかと思うのです。

 「新型コロナウイルス禍」が本当の収束を迎えるのはワクチンが完成し、普及した時でしょう。それを含めて集団免疫を獲得した時とも言えるかもしれません。しかしそれは1年半~2年後くらいだろうと言われています。それまでどういう状態が続くのでしょうか。まず現状の「緊急事態宣言」状態が専門家会議の試算通りに運用されれば、感染拡大は抑えられるはずです。しかし経済活動に極めて強いブレーキがかけられているので、不況による死者が出ないように政府が巨大な財政出動を行なったとしても、社会全体への負荷は計り知れません。そこで、感染の状況を見て自粛のブレーキを緩めるタイミングがいずれ来るでしょう。その結果、再び感染が一気に拡大しては元も子もありません。極めて繊細な運転が求められます。地域ごとの状況に合わせた対応も必要でしょう。私も書きながら行政にとって非常に難易度の高い運用だろうと思います。有効な治療薬が見つかればその難易度が下がるかもしれません。また、中国のような独裁的で監視可能な統治方法であれば、ひょっとしたら比較的容易に実現できるのかもしれません。でも日本が民主的で自由な社会でありつつけるには、今の枠組みの中で団結し、乗り切る必要があるのです。

 「サピエンス全史」などで知られるイスラエルの歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は朝日新聞(4/15)のインタビューで、感染症の脅威にうまく対応できるのは、長い目で見れば独裁より民主主義であると指摘し、「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執します。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」と述べています。

 緊急事態宣言が発令されたあと、一部識者やメディアがこの宣言について「自粛"要請"でどこまで効果があるのか」と批判していました。そうした批判があること自体は、我が国に言論の自由がある以上何の問題もありません。が、以前は「私権を制限する権限を政府に与える緊急事態宣言は危険」と批判してきたのに、発令された途端に今までの言説と逆行し、私権を制限することを容認するような意見を平然と述べる姿に驚かされました。彼ら、彼女らにとっては「政権批判」で一貫しているのでしょうが、その言説は見事にねじ曲がっています。そして、政権批判のためには私権の制限すら主張してしまうというのは、私は危険な思想だと思います。民主主義国家にとって私権は大切にしなくてはならない普遍的な価値です。このような国難にあって一部制限せざるを得なくなっても最小限にしなくてはならないし、適切な権力行使であったかを事後にきちんと検証できなくてはいけません。そうした留保もなしに一足飛びに「要請ではヌルい」となれば、それは独裁と監視社会を自ら呼び込むことに他ならないと思うのです。

 今はまさに「コロナ後の世界」にふさわしい統治システムがどうあるべきか、試されている歴史的な転換点なのだと感じます。私達国民は政府に、国会に、徹底した政策議論を求めて民主主義の強さを発揮させ、自分たちも感染拡大防止に有効な行動をとり、団結してこの戦いに勝利しなければなりません。コロナへの恐怖で前を向くことを諦めたり、感情的な分断に陥れば、人類はウィルスに敗北し、「コロナ後の世界」は、私たちの祖国を含めて、独裁と監視が支配する偏狭なものとなってしまうでしょう。今こそ「知識」と「見識」を尊重し、冷静で多角的な視野をもって行動することが、『コロナ後の世界』に希望を見出すことにつながるのだと、私は強く思っています。共にこの国難を乗り切りましょう。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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