<バイオ サイコ ソーシャルとは?>
自見)「日本の小児科医は救急対応を含めて、
世界トップクラスと言われていますが、
その反面、いくつかの課題もあると言われています。
そのひとつが“バイオ サイコ ソーシャル”。
五十嵐先生は、最近、講演でも触れられていますが
どういったものでしょうか?」
五十嵐「日本の小児科医は病気に対しては
一生懸命に対応してきました。
しかしながら、現実には現在の多くの子どもが心理(psyco)や
社会的(social)な問題を抱えて困っています。
最近、日本小児科学会が行ったアンケートによると、
小児科医が思春期の子どもに医療的対応が必要だった
心理社会的課題は不登校、肥満、発達障害、月経異常、虐待、
性感染・避妊・中絶などの性関連課題の順に多いということが
わかりました。
また親子の間で話し合う思春期に関連する課題は、
二次性徴、喫煙・飲酒・薬物などの依存、出産、育児、
性関連課題の順に多かったことが報告されています。
歴史的に見ても、
わが国の小児科医はこれまで、子どもを心理・社会的に把握し
支援することを十分にはしてきませんでした。
日本では、乳幼児健診や学校検診がすべての地域で実施され、
子どもの健康管理に大きな貢献をしてきました。
しかし欧米に比べると乳幼児期の健診回数は少なく、
学校検診では一人あたりに使われる時間が
極めて短い状況です。
心理面や社会性の観点から子どもを捉え、
支援してゆく仕組みが、
日本ではとても弱いことが大きな問題と考えます」
<なかなか減少しない10代の自殺>
自見)「小児科医は、子供をまるごと診る課なんですね。
その子が成長していく、発達、発育の過程も診るという
五十嵐先生ならではのご指摘だと思います。
そういった心理面や社会面の観点から子供を
とられていくということでは、
10代の自殺がなかなか減少しないと言う事が
課題としてあります。そこはいかがお考えですか?」
五十嵐「2001年~2014年にかけて、
“第一次、健やか親子21国民運動計画”が実施されました。
その結果、十代の自殺死亡率が
悪化していることが明らかになりました。
10代の子どもにとって、生活習慣、親子関係、学校生活など
の問題を相談する仕組みができていないことが希薄です。
家族、先生、スクールカウンセラーなどに、
悩みを相談できないときに、
簡単に相談できる仕組みがあると良いと思います。
アメリカでは3歳から21歳までの子どもは、
かかりつけ医のところで年1回の個別健康相談を受けることが
義務になっています。受けないと、学校に通学できません。
この様な場があると、子どもにとって、
小さな頃からのかかりつけ医である小児科医に
自分の悩みを相談する気になることも予想されます」