連日報道されている、千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(10歳)が自宅で死亡し、両親が傷害容疑で逮捕された事件。逮捕された両親、特に父親の行動や児童相談所の対応、さらに沖縄から千葉への転居に際して児童相談所同士のコミュニケーションに不備があったのではないかなど様々な角度から報道され、その都度報道が過熱しています。私も子どもを持つ親として、自分では躾の範囲と思いながらも大きな声を出すこともあり、報道を見るたびに本当に他人事か?と身につまされる思いになるとともに、義憤に駆られて感情が泡立ってしまいます。そして、学校や児童相談所も関わりながらどうして悲劇を防ぐことが出来なかったのかという問いから、児童相談所の権限強化が叫ばれるようになりました。
<児童虐待の防止に向けて、厚生労働省は児童相談所(児相)が子どもを保護する「介入」の機能を強化する方針を固めた。現在は子どもと家庭をともに支える「支援」と同じ部署が担っていることが多いが、子どもの死亡を防げなかった事件が相次いでいることを受けて機能を分化し、介入を最重視する。3月中にも、関連法の改正案を通常国会に提出する。>
今回の事件を見れば当然の流れだと思います。また、去年、東京都目黒区で起きた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)の死亡事件での児童相談所の不手際の件もあり、積極的に家庭へも介入しないことには防ぐのは難しいとなるのは頷けるところです。
が、権限強化だけで終わる問題とも思えません。現行法の中でも児童相談所の権限として両親からの一時引き離しは行われています。子どもの保護を第一に考えるので、一時保護所に入った子どもは親と自由に会うことはできません。今回の事件のような場合には有効に機能するこの仕組みが、別のケースでは逆に両親と子どもの間を引き裂いてしまうこともあるようです。
この事例では、アルコール依存症の母親と子どもの関係を例にとっています。児童相談所からすれば劣悪な養育環境となるかもしれませんが、子どもは母親と一緒に居たいと思っている。行政としては、その後何か問題が起きたとき、たとえば子どもがけがをした、生命の危機にさらされたなどの際に、保護できたのにしなかったと責任を取らされるのは避けたいところ。児童福祉法33条の規定で親の同意がなくとも「一時保護」することが出来ますから、リスクを背負ってそのままの環境に留め置くよりも、権限を行使して引き離しを行うことを選ぶでしょう。
また、発達障害の子どもが日夜大声を出しているのを近隣住民が虐待と思い通報し、児相判断で一時引き離しとなり両親が判断の取り消しを訴え出た例や、公園で遊んでいて負ったあざを虐待と疑った医師が両親に聞き取りをせずに児相に通報、一時引き離しとなってしまった例などの報告もあります。いずれにせよ、そこで置き去りにされるのは、何よりも子ども本人の気持ちです。
さて、この「一時保護」の権限は一応2か月と期限が切られていますが、何度でも延長することができます。これも、今回の千葉県野田市の事件に当てはめれば、まだ問題が解決していない中で期限が来たからと言って家に帰せば悲劇を生んでしまう可能性がありますから、この必要があれば何度でも延長できるというのは一概に批判できるものではありません。平成29年の法改正で、親権者等の同意なく延長する場合には家庭裁判所の承認を得なければならないと改められました。多くの人の目を経ることで、両親と子どもの間を引き裂いてしまうような措置の逆効果を防止する仕組みがある程度整いつつあるのかもしれませんが、児童相談所も行政機関の一つですから前例踏襲は組織のDNA。依然として一番最初に一時保護するかどうかの判断が全体を左右することには変わりありません。
その判断をするのが、児童福祉司。
今回付与しようとする新たな権限も、この人たちが実際に行使することになるわけです。では、どれだけの人数がいるかというと、全国で3225人(2018年4月1日現在)。そして、一口に児童福祉司といっても経験は様々であることはあまり知られていません。厚生労働省の資料には、こういった説明があります。
<児童福祉司の確認用区分の説明
児童福祉法第13条第3項...児童福祉司は、都道府県知事の補助機関である職員とし、次の各号のいずれかに該当する者のうちから、任用しなければならない。
1号 都道府県知事の指定する児童福祉司若しくは児童福祉施設の職員を養成する学校その他の施設を卒業し、又は都道府県知事の指定する講習会の課程を修了した者
2号 学校教育法に基づく大学又は旧大学令に基づく大学において、心理学、教育学若しくは社会学を専修する学科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者であって、厚生労働省令で定める施設(※1)において1年以上児童その他の者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う業務に従事したもの
3号 医師
4号 社会福祉士
5号 社会福祉主事として、2年以上児童福祉事業に従事した者であって、厚生労働大臣が定める講習会の課程を修了したもの
6号 前各号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者であって、厚生労働省令(※2)で定めるもの>
こうして行政用語で書かれると難しそうに見えますが、1号は養成学校などを卒業したという資格で、これは実は児童福祉事業経験などがなくても、一年間の通信課程などで取得が可能なんだそうです。また、5号は逆に専門的な知見を座学で学んだわけではなく、児童福祉事業経験のみで講習会に参加した人です。6号は実はこの中で大雑把に2つのグループに分けることが出来、一つは大卒や社会福祉士、精神保健福祉士、教員免許取得者などの有資格者のグループと、児童相談所等での現場経験が一定期間以上(だいたい2,3年)の人たちのグループです。資料590ページには児童福祉司の1号から6号の内訳が都道府県と政令市、中核市で児相設置市ごとに出ていますが、多数を占めるのが2号の大卒資格と4号の社会福祉士。この2つでだいたい7割を占めています。一方で、残りの3割は現場経験のみの5号、6号か、経験なしの1号が占めています。
そして、この経験も知識もバラバラな方々が、同じ児童福祉司の肩書を持って家庭への介入を判断するわけです。当然、判断にはバラつきが出ますよね。まずは、資格の統一と知見の平準化をし、判断のバラつきを是正することが必要なのではないかと思います。そのためには、専門資格の創設と資格を持った専門職採用の実施、有資格者の一定数の常駐義務付けなどが必要なのではないでしょうか。さもなくば、より強い権限を付与した場合に、今度はその権限の濫用が問題になりそうです。