1242 ニッポン放送
つかちゃんコラム
塚越孝
塚越孝
column
4月14日

糠漬けは、土曜日に移って来た当番組でも
続々、美味しい情報が寄せられています。
先日、プロの八百屋さんが「今は新物の人参だ」と
メ−ルをくれました。
今の人参はうまい、甘い。
それからセロリも、私の糠床に常に入ってます。
シャキッとして美味。酒によく合う。
去年の秋に始めた糠漬け、挫折しなかったのは、
この本との出逢いでした。
産経新聞の書評欄にも書きました。
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「夏目家の糠みそ」(半藤未利子著/PHP文庫)
海を描いた絵はがきも、かもめーるも今年は決まって、
残暑とお見舞いの間に、猛暑とか酷暑あるいは炎暑などと
添えられていて、私は頷きながらもっと何かないかと、
炎暑の前に吹き出しで「三遊亭」なんて書いてました。
もちろん、誰でもというわけではなく、
解ってくれる人にだけですが…。

この記録的な暑さのおかげで野菜は成長著しくバカうま。
ところが私は、数年続けていた畑を借りての野菜作りを
昨年、夏の暑さと草取りとの闘いに敗れ、やめたばかり。
野菜に対して申し訳ないような空虚な日々を
過ごしていたときに現れたのが本書です。

著書は漱石の孫で、母は漱石が五高教授の時に
熊本で生まれた第一子。
おばさんの皮肉を利かせたといっては失礼ですが、
旦那も作家、父親も漱石の弟子で
母親を同門の久米正雄と争った作家、
祖父も作家という特殊な環境で育った女性の視点が、
やんわりと男を打つのです。

打ちゃく(ちょうちゃく)なんてもんじゃなく殴打、
今時ならDVと非難を浴びただろう漱石の驚くべき様子を、
なんと本書は夫婦愛を基準に筆を運ぶ。
うまく年を重ねた女性の奥深さ、懐の深さ、味わいの深さを
しみじみと感じます。
まさに糠みその味です。

「男子厨房に入る」も「男の漬物」もブームになりつつありますが、
常に「女」を意識しながらやらなくて意味がないと、
読み進むうちにわかってきました。
初心者はもとより、糠床を守って何百年という家で仕込まれた
ベテランにも具体的でわかりやすく、何より生活感があふれていて
楽しい書です。

駆け出しの私がやってみて既に成功したのは、
寛永通宝を五枚ほど入れたら、ナスの色が実に鮮やかになったこと、
肉や魚の煮汁なんかも入れろとあるので、やってみたら、うーん、
味がまろやかに。
こんなことしてたら捨てるのがもったいなくなり、
私はこれまで新聞紙に包んで大量のゴミとなっていた
スイカの残骸を減らすことに成功しました。
スイカの皮の糠漬けは、どんないい料理屋でも粋な居酒屋でも
出てこない我が家の味なんです。

読み通すと漱石もお孫さんも
相当食い意地が張っているのがよく分かります。
意地を通せば窮屈で、食い意地を通せばどうなるか。
夏野菜の色々を見ながら考える。
「セロリでも入れてみるか、こいつぁ新しいセロリ新左衛門」なんて、
落語好きだった漱石に思いを馳せて…。





 
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