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みのりの日記
栗村 智
栗村 智
 
diary
5月13日
湯呑
落語仲間、非情の勘定奉行・T経理部長に誘われて、
東京のど真ん中に新装なった「よみうり大手町ホール」」の開場記念
「至高の落語、初日興業」へと、ちと息抜きに落語鑑賞。
木目調のゆったりとくつろげる、素晴らしい空間。
東京の落語界若手二枚看板、一之輔・三三を、太刀持ち・露払いに
小三治師匠という文句のない顔付け。

開口一番が、さん坊「松竹梅」。
さすがさん喬門下、基本を忠実に、しっかりとした口調で、
開場祝いにふさわしい、おめでたいネタ。

続いては、おろしたてのおおど(大太鼓)の音も高らかに
「さつまさ」の出囃子で、一之輔「粗忽の釘」。
彼の持ちネタの中では、鉄板爆笑ネタ(真打昇進披露初日に選んだネタ)に、
収容501人・満員の客席が、どっと沸く。

そして中入り前が、「京鹿子娘道成寺」で飄々と三三の登場。
いかにも江戸前で、記念のネタ帳にすわりのいい「橋場の雪」。
当代では三三ひとりしか高座にかけない珍しいねた。
若旦那、お花、大旦那、小僧の定吉と、
それぞれの登場人物の描写の器用なこと。

身も心も江戸情緒にとっぷりつかった後は、
御中入り後、御大10代目柳家小三治師匠。
まずは、栗くり坊主の前座さんが、
うやうやしくおなじみの湯呑を大切そうに、
両手で高座右横に置いて、黒紋付きの
「よみうり大手町ホール・落語会」こけら落としのトリをつとめる、
当代ナンバーワンの実力の持ち主。

まくらで楽屋の差し入れの上品な最中が目に入り、
高座前につままれたそうだが、前座さんの持ってきたお茶が、
紙コップに入れられているのにがっくり・・・。
「お茶というものはねえ・・ちゃんとした湯呑で飲まなきゃ、
味わいも何もあったもんじゃないですよ。・・・」と一言。
新装なったばかりの近代的なホールだけに、
さすがに、落語界の初日の楽屋に湯呑の用意のなかったのは、
ちょいと間抜けでしたね。
師匠のおっしゃる通り。

かつて、高座の湯呑と言えば、
6代目圓生師匠にとどめをさしますが、
現在は、何と言っても小三治師匠。
圓生師匠の高座での湯呑の中身は、湯気がもやもやたつ、
白湯がはいっていたそうですが、
小三治師匠の湯のみの中味・・・興味ありませんか?
私が当時の寄席の立て前座さんに聞いたところによると、
7・8年前は、不二家のピーチネクターだったそうですよ。

そういえば、私もしゃべりのプロの端くれなので分かるのですが、
日によって、喉がカサカサしてる時、
ネクターって、喉に滑らかに絡んでいいんですよ。
出にくい時は、深沢大先輩は、コカコーラかキリンレモン。
ちと炭酸の強いやつ・・・ま、しゃべり手、人さまざまですがね・・・。
でも、たまたま、その時期だけだったのかもしれませんが、
前座さんがうやうやしく両手に持った湯呑の中に、
不二家ピーチネクターが・・・ちょっと笑っちゃうでしょ。
5月 2日
野茂メジャーデビューから19年
野茂メジャーデビューから、今日でちょうど19年の歳月がたちました。
1995年の5月2日、日本時間の未明、
アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ、
キャンドルスティックパークの上空は快晴。
紺碧の空をセンターポールの星条旗が、
球場名物の強風にへんぽんと翻っていました。
パンチョ伊東さんも当時59歳とお元気で、
ニッポン放送も現地からライヴで、共に大興奮のうちに実況したのが、
昨日の事のように、鮮やかに思い出されます。
放送終了後、パンチョさん、堀江ディレクター(現スポーツ部長)と
放送スタッフ3人でフィッシャーマンズワーフでカンパ〜イ!!
名物のシーフードをたらふく?
とーんでもない!海のものが全く駄目なパンチョさんのご意向で
トーキョースキヤキというお店でスキヤキで
乾杯したのもいい思い出ですね。

先月上旬、不覚にも脳出血を患って療養中ですが、
幸い、軽度で麻痺もなく、来週にも職場に復帰出来ることになりました。
透析と血圧コントロールのハンデを背負って
気分も暗く重い毎日でしたが、
今朝の快晴の青空と、サンフランシスコの懐かしい思い出で、
心機一転の意欲がじわじわと滲み出てきましたよ!
3月26日
散髪
いよいよプロ野球開幕・・・。
身も心も清めて迎えるシーズンイン、まずは散髪屋さんへ。
さっぱりしてから、黙々と中継資料の作成に取り組んでいます。
ここ15年、同じ散髪屋さんで、おなじ髪型・・・というと
カッコいいですが、単なる短髪ですよ。
まあ、噺家さんに多い髪型に、長年やってるうちに、
落ち着いたわけでして・・・。

生まれつき髪の性がおでこに向かって(あたまの前の部分に)
流れているので、短くしてもすぐに毛が寝てしまい、
スポーツ刈り・職人刈りは似合いません。
むか〜し、大学時代下宿の近くの床屋さんに、
志ん朝師匠の高座写真を持って行って、
「この写真とおなじ髪型にしてください!」とお願いしたら、
マスターが渋い顔して
「この写真の人は、頭の形が実にきれいだからうまく刈れてるけど、
あんたのは形も歪だし、くせっ毛だから、どうやったって無理だよ」と、
あっさり断られた苦い思い出があります。

ほとんど自分の頭の形をあきらめていた時に
巡り合ったのが、今の散髪屋さん。
噺家の木久扇師匠の頭をかっているマスターに
頭をやってもらうようになってから、
このお店に行くのが楽しみになったんですよ。
柳家三三師匠もこのお店に通っていらっしゃいます。
ただ、髪を短く刈るので、少しでも伸びると気になってしまい、
3週から4週の間隔で通うようになりました。
そういえば、5代目の柳家小さん師匠は1週間に1回、
短い時は5日に1回、散髪屋さんに通っていたそうですよ。

頭をさっぱりさせて迎える、2014・ペナントレース。
素晴らしいシーズンでありますように!!!
3月 6日
東風ふかば・・・
もうそろそろ、暖かくなっても良さそうなものを・・・
ここ数日の寒さてえのは、つらいですねえ。

我が家の狭い庭に埋まっている梅の木にも、
先月の突然の暖かさに、ちょぼちょぼと白いつぼみが、
ほころんでいたのですが、すっかり縮こまってしまいました。
こいつが、その気になると、
そりゃーみごとな花をつけるんでやすがねえ・・・。
例年、この我が家自慢の梅の木が満開になると、
プロ野球実況の資料カード作成に入るんですが、
今年は、ちょっと遅れそうですねえ。

梅と言えば、天神様・菅原道真公。
「東風吹かば 匂い起こせよ梅の花 主なしとて 春な忘れそ」
の句でおなじみですよね。
毎晩、枕元で聞く落語もこの季節に合わせて、
昨日は、圓生師匠の「質屋庫(しちやぐら)」。
いやぁ、心地の良い口調に「あーまた流されそうじゃ・・・」のサゲまで
しっかりと聴いていました。
現役の噺家さんでも大好きな鯉昇師匠が、
この時期、盛んに高座にかけられます。
梅の木は、この寒さで首をすくめていますが、
趣味の落語で季節を満喫・・・。
今年も鯉昇師匠の「質屋庫」を聴くと同時に、
プロ野球の資料つけの準備に取りかかるとしますか・・・。
1月30日
紙切りと2月
東京の寄席で欠かせない芸に「紙切り」があります。
その第一人者と言えば、三代目林家正楽師匠。
私、栗村が大好きな師匠です。
お客さんの注文に応えて、一枚の紙を器用に切り分ける、
それは見事な技、芸ですよね。
寄席の虜になってからの、私の大好きな色物ですが、
先代の正楽師匠、当代の師匠(当時、一楽から小正楽)と、
ずう〜っと、客席で見守ってきました。

正月の寄席では、競争相手が多くて、
とても紙切りの注文なんて不可能ですが、
寄席の客足がガクンと落ちる2月が、
紙切りを楽しむ旬の時期だと、私一人で思いこんでおります。
そう!その2月が近づいてきましたよ。
出来れば夜席・・・お客さんがまばらな時こそ、
客席で前のめりになる私がいるのです。
これまで師匠方に切っていただいた「紙切り」は、
丁寧に色紙に張ったり、額に入れて置いてあるんですが、
よ〜くそれぞれの作品を見て思い出すのは、
切っていただいた作品は、2月の寒〜い時期か、
8月の暑〜い時期に限られていますね。

今でも懐かしいのは、40年前の2月、
以前の池袋演芸場の昼下がり、
先代の正楽師匠が高座に上がった時、客席には私と、
後ろの席で、酔いつぶれて寝ているおじさんのたった、ふたぁり・・・。
正楽師匠、高座に出るなり、ふ〜っとため息をつかれたのは、
座椅子の上に正座して、いざ注文をしようとしている私にも、
微かにわかりました。
その時、先代の師匠、少しも動ぜず、いつものように佐渡おけさを、
はさみ試しで切って見せて、切った作品と、
切り抜いたB面ってやつもいただいて、
あとは、藤娘・勧進帳の弁慶・目白の小さん師匠と、
正楽師匠を独り占めしたことですね。

最近は、これほどの閑古鳥がなくような客席風景には、
お目にかかれませんが、2月は、紙切りの注文のチャンスなんです。
まるで御金持が、御座敷に師匠を招いたような状態になるのですからね。
今の三代目の正楽師匠には、やはり閑散としていた池袋演芸場で、
歌舞伎の白浪五人男、稲瀬川の勢揃いを注文したら、
鮮やかに五人男(日本駄衛門・弁天小僧・忠信利平・赤星十三郎・南郷力丸)を、
切り分けての勢揃いを切ってくれました。
今も家宝にしています。
普段、大入りの寄席では、とても注文には答えられない
たくさんの登場人物ですが、
それこそ、少ない客席の時こそ、切ってもらえる特別な時期ですよ。
折しも2月の歌舞伎座夜は「青砥稿花紅彩画・白浪五人男」がかかります。
地下鉄のホームの広告を見て思いだして、
つい、我が家の家宝自慢をしてしまいました。

今年も正楽師匠から頂戴した年賀状には、
2013年紙切り注文ベストテンが・・・。

①スカイツリー
②富士山
③藤娘
④土俵入り
⑤東京オリンピック
⑥辰(竜)
⑦宝船
⑧お花見・月見
⑨鯉のぼり
⑩正楽高座姿・・・だそうです。

さあ、お客さんの少なくなる2月こそ、寄席にいきましょう!
 
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