2018年5月

  • 2018年05月29日

    将来への"ツケ"とは?

     来年10月の消費税増税に向けて、大規模な景気対策を打つようです。

    <政府は28日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の骨子案を示し、2019年10月に予定される消費税率8%から10%への引き上げに備え、大規模な景気対策に踏み切る方針を決めた。>

     消費税増税で景気が冷え込むので、その前に財政出動して勢いをつける。そして、増税後にも財政出動して景気を後押しする。なるほど、消費税増税を必ずしなければならないという前提に立てば、こうした対策が合理的ということになるのでしょう。消費税を増税することによって政府の税収が増え、それによって財政が健全化するというのが基本的なロジックです。財政健全化こそが最終的な目標であり、消費税増税はその一つの手段に過ぎないはずです。
     ところが、財務省も大手メディアも消費税増税が目的化のように、これが出来ないと財政健全化などできず、国家財政は危機的状況になる!としきりに説いて回っています。何度も何度も聞いた増税→財政健全化のロジックですが、これにはいくつもの矛盾点があります。

     まず、財政健全化が目的なら、頼みにする税目は消費税で果たして適切か。所得税や法人税などほかにも税目はあるはずです。その上、財政健全化を言い募る割に、税収が割り引かれる軽減税率に関しては一切の異論がないのはどういうことなのか?さらに、財政健全化が出来ないと将来にツケを残すと言いますが、果たして本当にそうなるのか?

     これらの疑問について、私も何度もこの欄で書いてきました。景気を良くすることで物価が上がれば、その分実質の債務が軽くなりますから増税なしでも財政健全化を果たせるのではないか?第二次世界大戦後、イギリスやフランスが調達した膨大な戦費を緩やかなインフレと経済成長によって返済していったということは、一時期日本でも非常に持て囃されたフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が指摘していた通りです。
     さらに、今のように金融緩和をして景気を刺激している中で物価が上がる局面とは、経済成長を伴ってる可能性があります。そうなれば、当然所得税や法人税といった直接税も増収になっているはずですから、ダブルで財政健全化に向かっていくはずです。この一点だけを見ても、増税以外にも選択肢はあるはずですね。

     軽減税率に関しては、財務大臣の国会答弁で減収額の統一見解を示しています。

    <麻生太郎財務相は19日午前の参院予算委員会で、消費増税に伴う軽減税率導入による減収額は従来通り1兆円程度とする統一見解を公表した。>

     1兆円というと、消費税の0.5%分。その上、軽減税率は本来救うべき低所得者層のみならず消費税の発生する支出にはあまねくかかりますから、高所得者層にも恩恵が行くことになります。1兆円というコストを払った割に格差是正、再分配につながらないと専門家からは指摘されていますが、大手メディアはあまり取り上げず、したがって議論も盛り上がりませんでした。

     そしてもう一つ、この消費税増税をめぐって、財政健全化をめぐってよく言われるのが「将来にツケを残すな!」という議論です。
     家計のお財布をイメージすると、借金を残したまま親が亡くなったりリタイアしたりすると、そのツケが子や孫に降りかかります。それと同じというイメージを使って、国家財政も語る向きが非常に多いのですが、国家と家計の大きな違いを指摘すれば、個人は死にますが、国家は死なないという前提で物事を考えます。
     人は死にますが、国は死にません。
     税収がいきなりゼロに途絶えることは、天変地異や戦争などの別の危機が迫らない限りほとんどあり得ないことです。したがって、少しでも債務が縮小する方向であれば十分なのです。それは、増税ではなく増収でもいいし、物価上昇による実質的な負担軽減でもいいわけですね。

     それよりも考えなくてはならないのが、増税することで将来へのツケがより深刻に回されるのではないかという危惧です。このところ日本経済新聞の真ん中あたりにいつも掲載されている経済教室欄の「やさしい経済学」で、専修大学経済学部教授の野口旭さんが詳しく解説してくれていますが、増税によって財政健全化してくれればいいですが、増税によって所得が減少してしまうことでデフレが深刻化することのリスクの方が大きいのではないかということです。


     1997年に消費税が3%から5%に増税されました。そこから、この国は泥沼の20年デフレに突入したわけですが、その影響をもろに受けたのが当時の若年層、ロストジェネレーション世代です。
     まだまだ終身雇用が主流だったこの時代、企業は新卒の正社員採用を絞ることでコスト抑制を図りました。新卒者を非正規で採用するか、あるいはもう採用そのものを止めてしまうか。当時のデフレという経済状況を考えれば、各企業としては最適な意思決定をしたのでしょう。ところが、それが国全体というマクロの視点で見れば非常にまずい決定でした。
     社会人としての入り口で躓いたロスジェネ世代は、それまでであれば企業の中で受けられるはずだった職業訓練を受けるチャンスを失います。そのままスキルを伸ばすことなく今や40代となったロスジェネ世代、今はそれでも雇用があり収入があるのでいいですが、一度病気になったりケガをしたりして職を離れた途端困窮してしまいます。元気に働き続けたとしても、60歳を超え70歳を超え、年齢的に今と同じ仕事が出来なくならないとも限りません。その時、生活できるだけの年金を受給できるのか?様々な試算が出ていますが、数十万から百万人単位の生活保護予備軍とも言われているわけです。
     生活保護は福祉の一環ですから、半分仕送り形式の年金財政と違い、ほぼすべて税金が原資です。年金が破綻するとか言っていますが、こちらの財政負担の方がよほど深刻ではないかと私は考えます。
     このリスクを回避するにはどうしたらいいのか?消費増税でせっかくデフレではない状態にまで来た景気の腰を折ることではなく、好景気を呼び込んで40代ロスジェネ世代に限定的であっても正規雇用をもたらすことだと思います。それにより少しでも稼いで、将来にも備えていただく。増税は、将来へより大きなツケを残す恐れがあると思いますが、いかがでしょうか?
  • 2018年05月21日

    平和で安全な海を守るために

     この週末の土曜・日曜、東京湾を舞台にして海上保安庁の観閲式と総合訓練が行われました。私も土曜日に同行することができ、海上保安庁の巡視船「やしま」に乗って羽田沖での一連の行事を取材しました。土曜日は高円宮妃久子殿下、三女の絢子女王殿下のご臨席のもと、石井国土交通大臣、中島海上保安庁長官の観閲を受けましたが、翌日は特別観閲官として安倍総理が乗船、視察しました。

    <安倍晋三首相は20日、海上保安庁が羽田空港沖の東京湾で行った観閲式と総合訓練を視察した。>

     海上保安庁や海上自衛隊、警察、税関などの船舶36隻、航空機16機が参加し(土曜は船舶37隻、航空機15機)、船舶・航空機のパレードの他、国際テロ組織メンバーが乗船した船舶を制圧する訓練や人命救助訓練が行われました。こんなに沢山の海保の船舶が集まって果たしていいのか?とも思ったのですが、そうした日本を取り巻く海の周辺状況の緊迫化からこの観閲式は近年開催が見送られていたとのことで、今回は現行の海上保安制度発足70周年という節目ということもあり、開催にこぎつけたようです。

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    海上保安制度創設70周年記念観閲式で受閲する巡視艇「あきつしま」

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    テロ容疑船捕捉・制圧訓練

     しかしながらというか、やはりというか、尖閣周辺海域ではここを狙ったのか、まさに観閲式が行われる直前のタイミングで中国の公船による領海侵入が発生しています。

    <沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で18日、中国海警局の「海警」4隻が日本の領海に侵入し、約1時間半航行した。尖閣諸島沖での中国公船の領海侵入は4月23日以来で、今年9回目。>

     今回の観閲式には、石垣海上保安部と宮古島海上保安部から1隻ずつの巡視船、那覇航空基地からも1機航空機が参加しています。現場はやり繰りしながら影響が出ないように運用しているはずで、それゆえ中国公船も我が国領海内に長期間留まることなく、今までと同様におよそ1時間半の航行で領海を出ていったのでしょう。観閲式自体の開催は前々から告知されていたものですから、ローテーションが乱れた時にどう出るか、すかさず海保側の反応を見に来たのかもしれません。

     尖閣といえば、中国は海からのみならず空からのプレッシャーも強化してきています。

    <中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)から約380キロに位置する福建省霞浦県の水門空軍基地の機能を大幅に拡充させていることが、米軍事情報誌「ディフェンス・ニュース」の分析で明らかになった。>

     この空軍基地から尖閣までがおよそ380キロですが、尖閣周辺空域にスクランブル発進をかける那覇空港からは尖閣までおよそ420キロあります。距離がある分対応にも時間がかかりますから、このままでは徐々に押され続けることになるわけです。中国の自国領域での行動に影響を及ぼすことはできませんから、日本が出来るのは日本国内でどう備えるかということ。空に関しては、より近い位置に航空機を配備することで対応することが可能です。たとえば、かつてジャンボジェットの訓練に使用し、今は定期便のない下地島などは広い滑走路があり、かつ尖閣まで200キロを切る近さという地の利を得ることが可能です。

     一方、海上に関しては、当面は海上保安庁に頼ることにならざるを得ません。いたずらに海上自衛隊を前面に立たせると、日本側が事態をエスカレートさせた!と、中国側に軍事行動を促す口実になりかねません。対峙する海保への負担が大きくなりますから、それ相応の予算を割いてケアする必要があります。
     総理も昨日の演説の中で、
    <海における脅威に対し、真っ先に駆け付け、最前線に立ち続ける海上保安庁。白く輝く船体は、力に屈せず、法にのっとり、事を平和裏に解決する我が国の意思を示すものです。海上における法の支配を率先するその姿は、世界中から注目されています。>
    と、その重要性を指摘しています。国際法上は"白い船"で対処することが重要で、これが"灰色の船"(=軍艦)に代わると危機の度合いの局面が大きく転換してしまうわけですね。

     また、四方を海に囲まれた我が国は、尖閣に接近する中国公船だけに関わっていればいいわけではありません。
     総理も昨日の演説の中で、
    <海上犯罪の取り締まり、領海警備、海難救助、海上交通の安全確保、海洋捜査、法の支配に基づく自由で開かれた海の堅守の為に、どれ一つとして欠かすことはできません。
    海上保安官諸君には、国内外からの大きな期待に応え、これに対応するために精励していただきたい。
     海上保安庁なくして海洋立国日本の将来はありません。諸君の70年の歴史に裏打ちされた現場力をちからに、これまで以上に重要な使命を果たしていくことを期待しています。>
    と語りました。領海警備は海保の多くの任務の中の一つでしかないのです。海保の方に話を聞くと、
    「船に乗って領海を警備するのは仕事の一部で、他にも日本各地にある灯台のメンテナンスも仕事だし、全国にまたがる航路の海図を作るのも仕事だし、もちろん海難救助だって仕事。灯台や海図だって、怠ったら日本経済にとって大変なことになる」
    と話してくれました。
     たしかに、輸出入を合わせた日本の貿易量およそ9億トンのうち、実に99.7%が船によって運ばれています。この経済を支える海運が円滑に進むよう、さらに縁の下の力持ちとして地道に仕事をしているのもまた、海上保安庁なわけですね。
     逆に言えば、海保の予算の増強といっても、総額では相当な額だと報道されても各職掌に割り振れば果たして十分なのか?という額になってしまうことも容易に想像されます。平和で安全な海を守るために、総理は"現場力"に期待しましたが、現場力を引き出すだけの"資金力"、すなわち兵站がしっかりしているのかどうか。兵站の軽視が幾多の悲劇を生んだというのは、先の大戦の大きな教訓であるはずです。とすれば、「歴史は繰り返す」としないためにも、兵站の重視、必要なところにきちんと予算を割くことが重要なのではないでしょうか?
  • 2018年05月16日

    教育は国の礎

     今年1~3月期のGDP速報値が発表されました。厳しい数字が並んだようです。

    <内閣府が16日発表した2018年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.2%減、同じペースの下落が1年続くと仮定した年率換算では0.6%減となった。マイナス成長は9四半期ぶりで、景気回復の足踏みが鮮明となった。>

     もともと、冬の天候不順などであまりいい数字は期待できないというのが大方の予想でしたが、それでもプラス圏はギリギリ維持するだろうというのがコンセンサスでした。ところが、フタを開けてみれば4半期でも年率換算でもマイナス...。茂木経済財政担当大臣は、年度の数字を見れば実質プラス1.5%、名目プラス1.4%だったことを根拠に、「景気は緩やかに回復している」と認識を据え置いていますが、2017年度も四半期ごとの数字で見ればだんだんと下降してついにマイナス圏に沈んだというのが明らかです。


     見るべきポイントは様々あるのですが、まずは1ページ目にあるGDPの内外需別寄与度。残念ながら内需が不振で、実質GDPにおける内需の寄与度はマイナス0.2%。外需がプラス0.1%でしたから外需でもカバーしきれず全体の数字でマイナスに沈んでしまったわけです。細かくその中身を見ていくと、このところずっと下がり続けているのが民間住宅。1~3月期は実質でマイナス2.1%、名目でマイナス1.7%でした。一方で、今まで民間住宅の減速を補ってきた民間企業投資がそれまでのように伸びず、実質マイナス0.1%、名目マイナス0.0%となっています。

     一つ一つの要素を見ても冴えないなぁと思うのですが、それ以上に心配になるのがGDPデフレーター。これがマイナス0.2%と4四半期ぶりにマイナス圏に沈んでいます。グラフを見ると、2017年度は4~6月のプラス0.4%から0.1%→-0.0%→-0.2%と右肩下がりのグラフになってしまっています。デフレ脱却どころか、徐々にデフレに近づいてきているといっても過言ではありません。
     そして、ここが最も問題の大きいところなんですが、徐々にデフレに近づいて行っているのに政策的な手当がほとんど行われていないわけです。公的固定資本形成を見ると、4~6月期、当初予算で手当された分で伸びますが、その後が続きません。補正予算が極小粒だったので当然です。そして、公的支出が続かない分だけGDPの伸びも鈍化してしまっているというのが読み取れるわけです。

     家計も企業も冴えない中で、政府が需要を喚起することが必要だとこのブログでも何度も書いてきました。どんな形であれ、需要の創出ができれば当座の目的を果たすことができますが、出来ることなら有効な使い方をしたい。そこで、去年非常に盛り上がっていたのが教育国債を使っての教育無償化でした。同じ教育無償化でも他の予算を削って予算をねん出するのはただの予算の付け替えであって、需要の上乗せになりません。
     そして、この教育に対する投資は安全保障にも役に立つということを意外なところから聞きました。ある中東の専門家と話した時のこと。かつては世俗的で穏健だったアジアのイスラム教国でどうして過激派が伸長し、テロが頻発し出したかに話題が及び、こう言われたのです。

    「これらの国々は教育に対しては必要最低限の支出しかできなかった。そこに目を付けたサウジアラビアなどの中東産油国が経費丸抱えで若者を留学させたのです。ここで原理主義的教えに感化された若者が帰国し、そうした教えを地元に広めました。こうして徐々に世俗・穏健から原理的・過激な思想が浸透していったのです」
     こうした留学スキームはここ最近始まったものではありません。従って、アジアでの過激派の伸長やテロ頻発も今に始まったものではないのです。「タダより高いものはない」というわけで、日本も他人事と思わず他山の石としなくてはいけません。
     研究費の不足や短期で成果を出すことを求められる中で基礎研究などに割かれる予算は心許ないものがあります。そこへ海外からの莫大な資金提供があった場合にどうなるか?研究成果としての知的財産が流失してしまう恐れがないとはいえません。あるいは、日本国内の知的階層に協力者が増えれば世論工作がより容易になるかもしれません。

     まさに、「タダより高いものはない」。

     目先のプライマリーバランスを綺麗にするために、この国の将来を切り売りすることになってしまうかもしれません。短期的には赤字になっても、必要な投資はしっかりとすべきではないでしょうか。
  • 2018年05月14日

    防人たちに尊敬を

     放送でも扱いましたが、北朝鮮情勢が緊迫している裏で中国が対外影響力向上に向け着実に歩を進めつつあります。

    <中国が建造している初の国産空母が13日、中国遼寧省大連市を出港し、最初の試験航海を始めた。昨年4月に進水し、航海に必要な装備の設置を進めていた。2020年の就役とみられていたが、中国メディアは19年に早まるとの見方を伝えている。>

     これも放送で触れましたが、空母そのものでは防御力も弱く、空母打撃群と呼ばれるイージス艦や潜水艦などを引き連れた艦艇のセットを作らない限り単独では意味をなさないという指摘もあります。さらに、この空母打撃群は定期的にドック入りして検査・整備をしたり、訓練につかったりするので1セットや2セットあってもサイクルを回せず、最低でも作戦行動・訓練・ドック入りの3セットないと使い物にならないと指摘する向きもあります。また、この先無人機やAI戦闘の時代になれば、空母のように人員も燃料も喰う装備は割に合わなくなるので、中国がこうした時代遅れになりそうな兵器にカネを浪費するのはむしろ好都合だという指摘もあるのは確かです。

     ただし、この毎日の記事にある通り、前者の指摘に関しては中国は急ピッチで艦艇の整備を進めていて、早晩空母4隻体制になるでしょう。仮に太平洋で中国海軍と対峙するとすると相手は米海軍、あるいは日米同盟ということになりますが、まだ彼我の差はあれど着実に詰められていることは事実として認識しておくべきでしょう。
     また、この先無人機やAI戦闘の時代になるとはいえ、現時点ではそうなっていないわけです。まだまだ空母打撃群や戦略原潜が抑止力になるからこそ、米海軍も運用を続けているわけですから、将来の需要はそれとしても決して侮ってはいけません。適切に恐れ、適切に備えることが重要です。

     と思いながら新聞をめくっていると、日本の備えについてはちょっと心配なニュースが伝えられました。
    <自衛隊の主力隊員になる「自衛官候補生」の入隊が4年連続で採用計画人数を下回ったことが13日、分かった。2017年度の採用では計画8624人に対し、試験を経て入隊の意思を示したのは6852人(18年3月31日現在)だった。少子化などが背景。防衛省幹部は「任務はきついかもしれないが、国防を担う人員確保は喫緊の課題だ」と不安感を強めている。>

     自衛隊の募集を担当する方に取材すると、
    「世の中の景気が良くなると自衛隊の募集は厳しくなり、景気が悪くなるとラクになる」
    と話していました。ある意味、雇用の調整弁としての機能もあるわけですね。上記共同通信の記事にも<少子化などが背景>と書いてありますが、もしそうなら少子化自体はすでにこ20年以上も続いているわけで、その間ずっと計画割れしていなくてはおかしいはず。となれば、実は少子化は理由ではなく、待遇面などの見直しが必要なのではないでしょうか?駐屯地ではトイレットペーパーが不足することもあるそうですし、そうなると日々の給料も推して知るべし。財務省の敷く緊縮路線の中、装備品へ割く予算が増えれば増えるほど現場の福利厚生が後回しになっていくという実態があります。

     そしてもう一つ、一連の"日報問題"では、10年以上前に現場が戦闘状態だったのかどうかでいまだに国会審議が止まる始末です。PKOや国際協力で海外に出るときには、日本国内にいる時とは違う緊張感の中で仕事をしなくてはいけません。
     災害救助もそうですが、出動の際には一般人とは違ったリスクを覚悟のうえで出ていきます。ある幹部自衛官は、憲法前文にある、
    「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」
    という精神を体現するのは我々を措いて他にないのだという自負心と職業意識が我々を動かしているのだと語ってくれました。ところが、今回の騒動。現場を歩いて取材をすると、「我々の覚悟は何だったのか?」という声が聞こえてきます。

     四方を海に囲まれた我が国は、海の守りを固めなくてはいけません。中国の空母打撃群と対峙することを余儀なくされるであろうこの情勢ではなおさらのことです。ただでさえ、長期間洋上で外部との連絡も遮断される"艦隊勤務"は若い人たちからは敬遠されて、特に海上自衛官の募集は非常に厳しいといわれています。そこへ来て待遇面の不満や、上に書いたような世間一般の冷たい接し方、報じられ方があっては、いかに我慢強く士気高い自衛官にも限度というものがあるでしょう。誰がこの平和を守ってきたのか?その献身への尊敬と、そのしるしとしての待遇改善が急務なのではないでしょうか?
  • 2018年05月03日

    増税のためなら手段は問わない?

     2019年の消費税増税に向けて、これを後押しするような動きが目立ってきました。

    <経済同友会の小林喜光代表幹事は26日、産経新聞などのインタビューに応じ、消費税率を来年10月に10%へ引き上げると同時に、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を平成37年に黒字化させるためには、「消費税率を14%まで引き上げるべきだ」と語った。>

    <日本銀行は1日までに、政府が2019年10月に予定している消費増税に伴う家計の負担増が、約2・2兆円になるとの試算を発表した。
     税率が8%から10%へと引き上げられるが、食品などへの軽減税率の適用や教育無償化などの政策効果で、14年4月の前回増税時と比べて約4分の1の負担増で済むとみている。>

     消費税増税そのものは2019年の10月に予定されていますから、まだまだ1年半後。にもかかわらず、どうしてこの時期にこんなに動きがあるのか。関係者に聞くと、スケジュールを考えれば当然なんだそうです。
    「2019年10月に増税するためには、2019年度の税制改正や予算に織り込む必要がある。その編成作業は今年、2018年の秋ごろから本格化するのだが、その時のたたき台になるのが、6月ごろに出されるいわゆる"骨太の方針"(経済財政運営と改革の基本方針)。この"骨太"の中身を詰めるのがまさに今この時期。今、増税の方向を確定させれば、あとは自動運転で増税に行きつくから、分かっている人間は今動くのだ」
    と解説してくれました。まさに今正念場ということなので、いろいろな記事も出て世論を動かそうとしているわけですね。
     しかし、中にはちょっと眉に唾して見ないといけない記事も見られます。水曜日のCozy Up!でも6時台にお話ししましたが、上に挙げた2つ目の読売の記事がそうです。実は、まったく同じ内容で各紙書いていたのですが、読売はたまたまこの日の1面の肩の記事にまで上げていたので取り上げたというわけです。いろいろ不自然な点があるのですが、まずはこの記事のソース、日銀の展望レポート(経済・物価情勢の展望)を見てみましょう。


     このレポートの表紙を見ると、<公表時間 4月28日(土)14時00分>となっています。土曜の昼にリリースされていますから、遅くとも翌日曜日の朝刊の締め切りには十分間に合います。ところが、記事が紙面に載ったのは5月2日水曜日。一社の抜けがけもなく、各社火曜の紙面に載せていました。ネットでは土曜日にはもう見ることができたのに、このタイムラグは何なのでしょうか?土・日・月とお休みで、火曜日に記者クラブに出社したらレポートが出ていたから記事にしたのか?と勘ぐってしまいます。

     そしてもう一つ、これは放送でもお話しましたが、読売はじめ各紙の記事にある消費増税時の家計全体の負担額が次回増税時は軽減されると予想されるという点も疑ってかからなければいけません。展望レポートの36ページのコラムに詳しい根拠が書いてあります。
     消費税が導入された1989年に関してはデータがないので割愛したようですが、3%から5%に上がった1997年、5%から8%に上がった2014年と比べて2019年はどうなるかを予想しています。レポート曰く、過去2回は負担を軽減する措置があまりとられていなかったのでショックが大きかったが、今回は軽減税率や支援給付金、教育無償化などの効果もあり、4分の1程度まで負担が和らぐとしています。
     たしかに、2014年の増税時はさしたる負担軽減策がなく、頼みの綱は当時成功を収めつつあったアベノミクスの勢いのみ。増税の負担8.2兆のほぼすべてが家計に覆いかぶさってきました。一方で、1997年の増税時は負担軽減政策を講じていたと記憶していたのに、記憶違いだったのかな?と、見出しを見た時にまず気になりました。
     そこで調べてみますと、なるほど日銀が言う通り、1997年度で見れば間違いではないことがわかりました。あくまでも"1997年度で見れば"です。単年で見ればそうかもしれませんが、経済は1年でリセットするものではなく継続していくもの。前後数年で見ると大間違いであることがわかりました。


     この中の4ページの表を見てください。たしかに1997年度は消費税増税で負担が増える一方、負担軽減策は行われませんでしたから負担純増です。が、この負担増が予想されていましたから、増税の3年前の1994年から所得税・住民税の定率減税などの負担軽減措置が行われていました。特に、1995年の抜本的税制改革では税率構造の累進緩和や課税最低額の引き上げなどの負担軽減策が恒久的措置として盛り込まれましたから、この効果は翌々年の消費増税のタイミングでも効き続けていたはず。なぜ、その政策効果を97年度にスタートしていないということだけで無視するのでしょうか?

     また、これだけ年度をまたいで対策を打ったにも関わらず、1997年の消費税増税後は景気が落ち込んでしまいました。アジア通貨危機などの影響も否定はしませんが、であれば通貨危機の影響を受けた諸外国と同等か少し遅れて景気が回復してもおかしくなかったのに、日本の経済だけがそうはいきませんでした。消費税増税の影響も大きかったことが推定されます。もちろん、時の政権もそこで手をこまねいていたわけではなく、翌年の特別減税、さらに翌々年の恒久減税と負担軽減策を追加していきます。こうした施策も1997年の増税に対する負担軽減策として行われたものですが、やはり97年当時は存在しなかった政策ということで無視されています。
     次回増税の影響は軽微であるという結論から逆算して、都合のいいデータだけを持ってくる。典型的なチェリーピッキングでしょう。

     そもそも、2014年の消費税増税当時もメディアでは「影響は軽微!」の大合唱でした。が、結果はどうなったか。4年経ってようやく増税前の水準まで経済が回復した程度ですね。「影響は軽微!」にまた踊らされるのか。受け手側の我々国民が問われています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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