関東地方に時ならぬ大雪が降る中、通常国会がスタートしました。冷え込む首都圏と同じように有権者の心が冷え込むような水掛け論に終始するのか、それともこの雪を溶かさんばかりの熱い論戦が行われるのか。北朝鮮の脅威を前に、あるいは中国の膨張を前にどう議論するのか?あるいは来年10月に行われるとされる消費税増税を前に、足元の経済をどうテコ入れしていくのか?はたまた憲法改正にどう向き合うのか?議論すべきだろうと思うトピックは様々ありますが、これらは野党間で一本化するのが難しいのも確かです。結局、政権反対で一致できるテーマを選ばざるを得ず、結果としてそれは有権者の心を冷え込ませるような水掛け論になってしまいそうです。
<昨年衆院選での民進党分裂に伴う混乱を引きずる野党は、22日召集の通常国会で協力できるテーマごとに共闘をめざす。主張に溝がある安全保障や憲法改正での各論の一致は棚上げし、政府の働き方改革への反対や森友学園・加計学園を巡る問題などスキャンダルで政権を揺さぶる作戦だ。「多弱野党」を克服し、巨大与党にどう対峙するか。野党の手探りが続く。>
相変わらずの森友・加計、それにスパ(スーパーコンピューター開発会社を巡る助成金詐欺事件で助成金採択をめぐる政権の関与が?)、リニア(大手ゼネコンの談合疑惑に政権の関与?)と、今国会もスキャンダルを煽って空転させようというのでしょうか...?
そして、もう一つ野党が共闘しやすそうだから政権追及の目玉に挙がっているのが、働き方改革です。野党はこれを「残業代ゼロ法案」と名付けて政権を揺さぶっています。
<安倍晋三首相の施政方針演説など政府4演説に対する各党の代表質問が24日午後、衆院本会議で行われ、国会論戦がスタートした。最初に質問に立った立憲民主党の枝野幸男代表は、安倍政権が今国会の目玉に掲げる働き方改革関連法案のうち、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を「残業代ゼロ法案」と批判した。
枝野氏は「みなし労働時間」の適用を認める「裁量労働制」の拡大にも反発している。繁忙期は残業規制を100時間未満としたことには「過労死ラインを大きく超え、過労死容認法案になりかねない」と語った。>
この高度プロフェッショナル制度ですが、紆余曲折あって年収1075万人以上の高度専門職とされています。2016年の国税庁・民間給与実態調査によれば、そもそも給与所得が1000万円以上の人数は183万人。調査対象の給与所得者数に占める割合はわずか5.3%に過ぎません。さらに、年収1000万円を超えるような人はそもそも管理職でしょうから、そもそも対象者はさほど多くありません。その上、「専門職」と限定しているのですから、対象者は限りなく限られるわけです。
しかし、「残業代ゼロ法案!」と法案そのもののイメージを悪くしてしまえば、議論の中身を見せずに入り口で批判することができます。「俺の残業代もゼロになっちゃうのか!?」というイメージを喚起することができますから、世論を味方につけることができるかもしれません。そうして、ここ何年かと同じように法案を葬り去ることができれば野党にとっては共闘の成果ということができますし、今の労働環境で文句のない高齢・高収入の正社員の方々にとっては現状維持で大満足でしょう。
では、こうした変わらない日本の労働慣行の中で最も割を喰うのは誰なのか?それは、私と同じ世代、ロストジェネレーションの非正規雇用者たちではないでしょうか。
私は1981年生まれの36歳。ロスジェネ世代・就職氷河期世代のお尻付近に位置しています。就職活動をしたのは2003年、ニッポン放送に入社したのは2004年です。文部科学省の学校基本調査によると、このころの学部卒の就職率は地を這うように50%台半ばをウロウロし、翌年からグンと上がり始めました。リーマンショックでガクっと落ち込みますが、それでも60%を割ることはなく、直近2017年3月では76.1%に達しています。
ロスジェネ世代はすでに半数以上が40代に突入。社会人生活のスタートでほぼ半数が躓き、大多数が非正規雇用に甘んじてから15年余りが経とうとしています。当時から日本の労働慣行は、スタートで正社員になれないとその後厳しいという現実が認識されていました。しかしながら、今に至るまで改革は避けられ続けてきたわけです。
「改革をすれば残業代がゼロになる!際限なく残業しなくてはならなくなる!それよりも社会保障の改革だ!将来が安心出来れば、今の労働慣行のままでも成長できる!」
こうした声に押されて後回しになっていった労働改革の裏で、今正社員でいる人たちの既得権を守るために、ロスジェネは犠牲になり続けたのです。いい加減、レッテル張りを続けて議論の入り口で立ち止まるのはやめにしませんか?
私だって、働き方改革のすべてをもろ手を挙げて賛成できるわけではありません。製造業派遣の解禁など、規制を緩くしすぎたことで苦しんだのもまた、我々世代。この働き方改革に対しても、半分は懐疑的な目で見ています。しかし、これに真剣に取り組む官僚を取材すると、彼らもまたロスジェネ世代。
「このチャンスを逃したら、取り返しがつかない。そのまま年金受給年齢に入ったら、大量の生活保護受給者を生み出し、福祉財政はそっちで破綻しかねない」
と、危機感をあらわにしていました。私もその危機感を共有しています。
「市民とともに」とことあるごとに言っている野党の皆さん、その「市民」の中にロスジェネ世代はいませんか?ちゃんと、声を聞いてくれていますか?十年一日のレッテル張りはそろそろ卒業しませんか?タイムリミットは迫りつつあります。