2016年11月

  • 2016年11月21日

    ミュージックソン・アシスタントを仰せつかって

     このブログでのご報告が遅れましたが、私、今年の第42回ラジオチャリティミュージックソンのアシスタントを仰せつかることになりました。番組では何度もお知らせしていますので、『ザ・ボイス』をお聞きの方はご存じかもしれませんが、今年のパーソナリティは女優の斉藤由貴さん。ニッポン放送では、月曜~木曜夜10時から放送中、『オールナイトニッポン MUSIC10』の木曜パーソナリティとしてもお馴染みです。
     私自身は、ミュージックソンのアシスタントを担当するのは2度目。1度目は2009年、メインパーソナリティは俳優の高橋克実さんでした。なぜ私?というのは私自身も感じているところですが、『ザ・ボイス』を担当しているということもあって、ここ数年音の出る信号機やホームドアなどを取材しレポートしてきた集大成と思って頑張ろうと思います。24時間全てを聞けとは申しませんので、一部分であってもお聞きいただき、目の不自由な方の日常に思いを馳せていただければ幸いです。12月24日の正午から翌25日の正午まで、どうぞよろしくお願いいたします。

     その上で、現時点での考えを幾つか備忘録的に書き留めておこうと思います。
     今年は、8月15日に地下鉄銀座線、青山一丁目駅で目の不自由な方が盲導犬の誘導にも関わらずホームから線路へ転落し、進入してきた電車にはねられるという非常に痛ましい事故が起こりました。前述の通り、ここ数年ホームドアや音の出る信号機、天井ブロックなど、目の不自由な方を守るべく整備されたインフラを取材して報告してきた身としては、まさに痛恨の極み。どうしてこのような事故が起こってしまったのか?しかもそれが周りに人も沢山いたであろう都会のど真ん中で起こってしまったのか。暫く呆然としていた私にも、様々な問題意識が沸き上がってきました。

     そもそも、目の不自由な方に対する日本のインフラというのもは、驚くことに世界最先端をいっているそうです。これは、音の出る信号機や点状ブロックを研究され、その分野の第一人者でいらっしゃる、岡山県立大学の田内特認教授にインタビューしたときにもお話しいただきました。また、目の不自由な方の立場からも、たとえば日盲連(日本盲人会連合)の鈴木孝幸副会長(当時)や、ホームドア整備に関して目の不自由な方と健常者、そして鉄道事業者を繋ごうと活動しているNPO法人『鉄道ホーム改善推進協会』の今井会長にも同じようにお話をいただきました。
     要するに、この問題に関して専門で取り組んでいる方々が立場の違いを越えて異口同音に仰っているのが「日本はインフラなどのハード面は非常に進んでいる」ということ。では、何が足りないかといえば、ソフト面での対応。すなわち、我々健常者が、あるいは社会全体として目の不自由な方をどう包摂して行くかという部分です。本来であれば、社会的な包摂、多様性を重んじる、どちらかと言えばリベラルな論調のメディアこそハード面よりもソフト面の充実を言わなければいけないんですが、その最右翼(というか、最左翼?)の東京新聞ですらこの記事が一面トップです。

    『ホームドア設置前倒し 東京メトロ 銀座線など最大1年』(11月4日 東京新聞)https://goo.gl/x2UtSt
    <駅での視覚障害者の転落やベビーカーの引きずり事故が相次いだことを受け、東京メトロは四日、銀座線、東西線、半蔵門線でホームドア設置を当初計画より最大一年前倒しすると発表した。八月に盲導犬を連れた男性がホームから転落して死亡した銀座線青山一丁目駅をはじめ、障害者の利用が多い駅を優先する。>

     ホームドアがなかったから事故が起こったということが前提にあって、ホームドアがその唯一の解決策であるというような書きぶりに私は驚きました。夏休みのど真ん中であったとはいえ、青山一丁目の事故があった時に周りにまったく誰もいなかったわけではないでしょう。あんなにホームの端を歩いていたら危ないな。そういった想像を抱いた人もいたかもしれません。でも、誰一人、それを行動に移せなかった...。ことの本質はそこにこそあるのではないでしょうか?ちなみに、東京新聞は目の不自由な方の声のかけ方について、こんな優れた記事も書いています。

    『視覚障害者の事故防止 声のかけ方に「こつ」』(10月6日 東京新聞)https://goo.gl/GjooUg

     先日、ある鉄道会社の幹部に取材したところ、
    「会社としても安全第一がモットーだし、ホームドアの整備を急ぐというのは全社で共通していると思う。ただ、一方で大多数のお客さんは定時運行も非常に重視している。それに、一つの駅にホームドアを設置するだけでも億単位のカネがかかる。営利企業としては非常に大きな出費」
    と、苦しい胸のうちを明かしてくれました。
     言外には、我々事業者がハード面を強化するのも大事だが、一方でメディアや公的機関が率先して、ソフト面の啓発を担ってくれないと厳しい。という思いをにじませて語っていました。鉄道事業各社は「声かけ・サポート運動」を今週末から始めます。

    『「声かけ・サポート」運動強化キャンペーンを11月25日(金)から実施します。』(東京都交通局HP)https://goo.gl/brwEHk

     私も微力ながら、募金と平行してそうしたソフト面も訴えていきたいと思っています。第42回ラジオチャリティミュージックソン、どうぞよろしくお願いいたします!

  • 2016年11月14日

    GDP3期連続プラスだが...

     今年7月~9月のGDP速報値が今日発表されました。今日の夕刊では各紙大きく扱っていて、どちらかと言えば好意的な評価が多いようです。

    『GDP実質2.2%増 7~9月年率、輸出・住宅伸びる』(11月14日 日本経済新聞)https://goo.gl/h3SEHw
    <内閣府が14日発表した2016年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.54%増、年率換算で2.2%増となった。プラスは3四半期連続。アジア向けを中心に輸出が伸び、国内でも住宅投資が堅調だった。一方、内需の2本柱である個人消費と設備投資はゼロ近傍で停滞した。>

    『7-9月GDP 年率+2.2% 3期連続プラス』(11月14日 NHK)https://goo.gl/W5TPrg
    <ことし7月から9月までのGDP=国内総生産は、個人消費の伸び悩みが続く中、輸出の増加に支えられて、前の3か月と比べた伸び率はプラス0.5%、年率に換算してプラス2.2%となり、3期連続でプラスとなりました。>

     各社、3期連続プラスを強調し、その要因として輸出が伸びたことをしきりに報じています。3か月での伸びは季節調整済みの実質で前の期と比べて0.5%のプラス。この伸びが一年間持続すると仮定した年率換算では、2.2%のプラス成長としています。日経が見出しに取った2.2%プラスというのはそういう数字であって、3か月で2.2%伸びたわけではありません。
     それにしても、この見出し2つを見ても実感とだいぶ離れていることに何となく居心地が悪くなります。プラスだプラスだと言われますが、本当にそうなのか?賃金もさほど伸びないし、ん~、なんだかなぁというモヤモヤが募っていませんか?発表されたGDPの数字を見ると、その訳が何となく分かります。

    『2016(平成28)年7~9月期四半期別GDP速報 (1次速報値)』(11月14日 内閣府HP)https://goo.gl/LUEz8g

     まず、7月~9月期の季節調整済みGDP成長率を名目と実質で比べると、名目0.2%、実質0.5%。GDPの計算はまず名目値を出して、そこから物価の動向を織り込んで実質値を算出します。たとえば、名目4%成長で、物価上昇が2%だとすれば実質成長率は2%となるわけです。
     今回は、名目が0.2%で、実質が0.5%。ということは、物価上昇がマイナス0.3%ということ。先のことは分からないので7月~9月に限ったことかもしれませんが、ついにデフレに逆戻りしてしまった可能性が高いわけです。
     本来ならば、これは大問題。デフレ脱却は安倍政権の一丁目一番地のはずですから、事ここに至れば大規模なてこ入れをしなくてはいけません。内閣府側は冷夏や天候不順があったうえ、円高基調、原油安があったので物価が押し下がった旨の説明をしていて、一部の記事ではそのことに少し触れているものもありましたが、記事の後ろの方でちょこっと。個人消費や設備投資の足踏みなどに紙幅を割いています。
     確かに、個人消費や設備投資は季節調整済みの実質で見ても寄与率0.0がずらっと並んでします。明るいのは民間住宅(寄与率0.1)ですが、これはマイナス金利に踏み込んだ日銀の金融緩和の効果でしょう。
     また、公的需要の部分では政府最終消費支出はプラスだったんですが、問題は公的固定資本形成が前期比0.7%のマイナス。これは、政権が景気下支えのため予算の前倒し執行を続けてきましたが、少し息切れしてきたことが原因でしょう。
     さらに、輸出が全体を引っ張った旨メディアは報じていますが、これもどうなのか?実質値では確かに輸出が伸びていますが、実際の取引の数字である名目値では輸出もマイナス。さらに、国内需要の冷え込みで輸入が4期連続でマイナスですから、『輸出-輸入』で表される純輸出ではプラスに作用します。輸出が増えたというよりも、輸入が減ったのでプラスになっているわけで、決して好感できる数字ではありません。
     数字だけ見れば「緩やかな回復基調が続いている」(石原経済再生担当大臣)わけですが、内実は思いの外グラグラしているのではないでしょうか?

     今回、前倒し執行の反作用で政府公的資本形成がマイナスに転じました。今後、第2次補正予算の早期執行しなくては、予算ショートで景気は息切れしてしまいます。さらに第3次補正予算の編成も視野に入れなくては、10月~12月期、1月~3月期の半年が心許なくなります。本来はまさに景気にとって正念場のはずですが、メディアがそうした報道をせず、表面を撫でるような見出しばかり。非常に心配です。杞憂であれば、それに越したことはないんですが...。
  • 2016年11月07日

    服喪のタイ・バンコク訪問記

     先週ほぼ一週間、休暇でタイ・バンコクに行ってきました。タイは先月13日にプミポン国王陛下が崩御され、国全体が喪に服しているさなか。国民こぞって黒い服を着ていて、一部では黒い服が店頭から消えるような事態になっていると日本国内でも報道されています。在タイ日本大使館も、タイに訪問する日本人に対し服装の注意喚起をしていました。

    『タイ在住の皆様及びタイを訪問される皆様へ』(11月2日 在タイ日本大使館HP)https://goo.gl/MZG1PM
    <(1) タイを訪問する者は、公共の場では、地味で敬意のある服装を着用することが推奨されます(但し、特に旅行者にとってこれは義務ではありません)。タイ人は、黒又は白の服装を着用します。
    (2) 訪問者は、不適切な、又は礼を失する行動を差し控えてください。>

    ということで、私も慌てて家じゅうから黒い服をかき集め、パッキングをしました。日本国内の一部報道で、黒い服を着ていない人がバッシングを受ける事態になっている旨言われていましたが、行ってみての感想はそんなことはなさそうだというもの。もちろん、一部で行われているかもしれませんし、ネット上ではそうした議論が白熱しているようですが、見た限りはそこまで厳格なものではありませんでした。電車に乗っていると黒いTシャツを着ている人は多いんですが、そのシャツにデカデカとドクロが描かれ、その上に"Dead or Alive"と書かれていても、特に誰も何も言わない...。私は内心、「国王陛下が崩御しているのに、Deadはないだろう...」と思っていたんですが。

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    バンコク市内の至るところにこうした追悼設備がある(市中心部のセントラルワールド)

     先月13日に崩御され、その後宮中での一連の葬送の儀式を行いました。ご遺体は王室の菩提寺たるワット・プラケオに安置されています。そして、私がタイに着いた先月28日、一般のタイ国民による弔問が始まりました。
     このワット・プラケオという名前、一度でもバンコクに行かれた方ならご存知だと思います。チャオプラヤ川近くの観光名所、王宮の中にある寺院で、別名エメラルド寺院とも言われています。
     28日から一般弔問が開始されると発表されるや、タイ全土から弔問客がバンコクへ殺到。王宮前の広場には人があふれ、徹夜組が何百人という単位で出たと現地メディアは伝えています。想定では、一日1万人を見込んでいた人出が見込み甘く、初日の28日には一日2万人を超える人が来訪。このため、朝8時の開門を朝4時まで前倒しし、終了も夕方の予定を後ろに送り、夜9時まで延長。それでもギリギリさばき切れるか切れないかという人出でした。

     現地地上波テレビは娯楽番組等を一切休止。プミポン国王陛下の生前のご活躍の様子を放送するとともに、28日以降はこの王宮周辺に特設スタジオを設営して生中継。混雑の様子、高齢者や障がいを持った人への特別案内等の細かな情報を流して、混乱の収拾を図っていました。

     ところで、この王宮周辺というのは少し交通の便が悪いところ。エクスプレスボートというチャオプラヤ川の水上バスで行くか、バス・タクシーなどの交通機関を使うことになるんですが、国王崩御の後は周辺1キロ以上を交通封鎖。一部のバスなどを除き、王宮周辺は進入禁止になりました。多くの国民が自家用車で乗り入れることによる混乱、大渋滞を避けるのが狙いでしたが、そのため何キロも前から徒歩で王宮へ向かわざるを得なくなりました。そこで、バイクを持っている一般市民が無料で王宮周辺まで乗せていくバイクタクシーのボランティアも組織されました。普段は許可された人しかバイクタクシーは出来ませんが、こうした時は行政も柔軟で、写真のようなプラカードを掲げていればOK。規制線を管理している警察官も、この手のバイクタクシーはスルーしていました。後ろに乗る人はヘルメットもしていないのはこの際ご愛嬌ってことで。

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     ということで、10月一杯は観光客は王宮に入れませんでしたが、11月に入って観光客にも開放されました。私は11月3日に訪れましたが、折り悪く、この月末をターゲットに自動車爆弾テロの情報があり、王宮周辺はピリピリした雰囲気に包まれていました。

    『テロ計画発覚で拠点捜索 タイ・バンコク』(10月12日 日本テレビ)https://goo.gl/GaXsyP
    <タイ警察は11日、イスラム系の武装グループが爆弾テロを計画しているという情報をもとに、潜伏先とみられるバンコクのアパートなど9か所を捜索した。タイ警察によると武装グループは、今月25日から30日の間にバンコクやその周辺で車に爆弾を仕掛ける方法でテロを計画していて、警察は捜索先にいた数人を拘束してテロ計画との関連を調べている。>

     王宮の1キロほど手前にチェックポイントが設けられ、ここで空港と同じように手荷物検査、ボディチェック。私は子供の食事用に食べ物を切るための小さなハサミを持っていたんですが、これを探し出し「これはダメ。この先は持って行けない」と。子ども用であって、何もこれでテロを行うわけではないと夫婦して力説するも応じてもらえず...。やはり、かなり厳しいチェックがされていました。
     しかし、これも考えてみれば当たり前の対応。人心が不安に思っている国王陛下崩御のタイミングでテロが起これば、さらに社会不安が増大し、テロリストの思うつぼとなります。タイのように観光収入がGDPの1割を占めるほどの観光立国であれば、服喪期間中で観光客の足が鈍るタイミングでテロとなればさらに打撃となり、これもテロリストの目論見通り。警戒を厳しくするのが内政的にも経済的にも理にかなった行為なのですね。

     翻って我が国ではどうか?一つ災害が起こるとそれに集中するあまり、他への警戒が手薄になっていはしないか?たとえば、熊本地震の時に自衛隊を集中的に投入するまでは良かったのですが、もともと人員が足りていない自衛隊。そのしわ寄せで残留部隊に無理は生じていなかったのか?その時何もなかったのは僥倖としか言いようがないのではないか?微笑みの国の厳しい一面を見た時、平和を守る厳しさを見た思いがしました。

     ちなみに、私は「崩御」と書いていますが、これは海外であっても君主など特別な地位にあられた方が亡くなった場合の尊称なので使っています。先ほど引いた在タイ日本大使館の記事にも「崩御」とあります。日本のメディアはだいたい「死去」と書いていますが、どうなんでしょうか?現地でタイの人々の敬愛ぶりを目の当たりにすると、やはり「崩御」なのではないかと思ったのですが...。一応、間違いだと指摘される前に釈明しておきますね。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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