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パリの記憶 by 河原れん

「パリの記憶」


私がはじめてパリへ行ったのは19歳のとき。幼い頃から憧れていた街へ念願かなっての初渡航。

そしてたどり着いたその街―--は、想像以上の美しさ。ここに住まうひとに言わせれば「暗いし寒い」「人が多い」......などとネガティブ意見もあるものの、やっぱりそこは「花の街」。どこを見ても物語のような世界が広がっている。さぁ、今日はどこへ行こうか。ガイドブックをじっくり読み込み、優先順位を頭に描く。

パリの_carte_musse.jpg

「花の街」と言えど、当時の私はまだ学生身分。アルバイトで貯めたわずかばかりのお金があるのみ。おのずと行ける場所は限られてくる。
まずはミュージアムパスを買って、美術館めぐり。地下鉄の乗り放題チケットも、もちろん購入。山手線内とほぼ同じと言われるパリの街を全部見るつもりで歩き尽くす。

翌日は、かの凱旋門に上り、マリー・アントワネットが最期を迎えたコンコルド広場まで、シャンゼリゼ通りを。セーヌ川から市内を眺める遊覧船「バトームッシュ」にも乗り、夕暮れ時にはライトアップを狙ってエッフェル塔へ。

パリの_eiffel.jpg

そして次の日は、ちょっと足を伸ばしてヴェルサイユ宮殿へ―--。

案の定、このあたりでお財布の中身が心細くなった。贅沢とはほど遠い旅をしていたのに、やっぱり手持ち資金は目減りしていく。だいいち、パリは物価が高い。

帰国までには、あと一週間。まだまだ見たい場所はたくさんある。ノートルダム大聖堂、植物園、モンマルトルの丘......。

しばし考え、食費をさらに切り詰めることにした。フランスといえば、フランスパン――「バゲット」と呼ばれるフランスパンがそこら中のパン屋で売っている。しかも、日本のものよりかなり長い!名前は忘れてしまったが、ホテルの近くでやたら長いバゲットを売る店を見つけた。50cmは軽く超えていたように思う。値段は確か15フランくらい(約350円)か。それを朝昼晩と三つに分けて食べることにした。

パリの_pont_de_lalma.jpg

食事の場所は「バトームッシュ」の船着場があるアルマ橋。そこそこ人の流れもあって安全で、開けているので邪魔にもならない。エッフェル塔がばっちり見えるし、かわいい野良猫もいる。
毎日のように出没し、船着場の人とも顔見知りになったので、一度「変じゃないか?」と尋ねてみた。が、無表情で"Non"とひと言。フランスでは、道端でものを食べるのはよくあることなのだそうだ。だいいち他人の行動なんて気にもしない。あぁ、いいなと思った。


それから一週間。ほぼ毎日、アルマ橋のたもとを特等席のように使わせてもらった。だから、今でもパリというと、まず一番にこの橋を思い出す。そしてあのパン。硬くて、噛めば噛むほど味が出るかわりに口が痛くなる、あの味。あの空腹感......。

2002年、フランはユーロに変わった。フィルムで撮った現像写真というのも、今ではほとんど見なくなった。
けれどアルバムを取り出して、当時の写真を見てみると、やっぱりこの時のパリが一番記憶に残っているように思う。そして、もちろん、あのバゲットの味も、やっぱり忘れられない。

  

2013年01月30日

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