トルコ総選挙の行方~陰りの見えるエルドアン大統領

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6/7 FM93 AM1242ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』今日の聴きどころ!⑤

トルコ総選挙~野党結束で勢い
7:43~ココだけニュース スクープUP!:コメンテーター高橋和夫(国際政治学者)

ドブ板政治で貧困層から支持を集めてきたエルドアン大統領

6月24日に行われるトルコの大統領選と国会の総選挙へ向け、エルドアン大統領は宗教的保守派の盤石な支持基盤を抱えているが、ここへ来て野党が勢いを増し、有力な候補者を擁立している。

飯田)ロンドンエコノミスト新聞の翻訳記事が日経に掲載されていました。エルドアンさん、選挙は強かったですよね?

高橋)そうですね。トルコの有権者半分はいつもエルドアンさんが獲得していました。なので、2003年から負け知らず。危ないと言われたこともありましたが、選挙のたびに動員力で勝ってきた。
エルドアンさんの前のトルコは、本当に滅茶苦茶でした。インフレが酷く、トルコのお金は計算もできなかった。店で買い物をしても、「お釣りがないからあめ玉でいい?」とか。

飯田)そんなに貨幣価値が酷かったんですか。

高橋)国民が政府を信用していませんでした。エルドアンが来てから、しっかりやってきたし、道路は舗装されたしインフレも改善したし……貧しい人のためにどんどん住宅造ったり、貧しい人たちが都心に通えるようにバスレーンを造ったり。日本風に言えばドブ板政治をとことんやっていた。「あの人のおかげでアパートに住める。電気も水道もあるし、下水道整備されたし、エルドアン様々だ」と、トルコの人口半分くらいの貧しい人は思っているのです。

経済悪化により厳しい状況のエルドアン大統領

高橋)ですが、エリートは「ダサいおじさんだな」と。エルドアンさんはイスラム色を強く出しているのも嫌がられている。ただ、経済がよくなったから、財界や金持ちも「いろいろあるけど、エルドアンはよくやっている」というのがあり、選挙をやるとエルドアンに勝てない状況が続いていた。この間の選挙も「エルドアンが危ない」と言われていましたが、寝たきりの老人をベッドのまま投票所まで引っ張り出したり、スゴい動員力で、最後は逆転しました。老人たちも「エルドアンのために1票入れてから死にたい」みたいな人がたくさんいて。だから、ある意味トルコの社会が、エルドアン支持か否かで2分されているところがある。
エルドアンが勝ち続けたのは経済がよかったからですが、いま経済が悪いのですよね。リラの下落や、シリア戦争介入の費用、ヨーロッパと上手くいっていない……それで初めて、エルドアンの鉄壁の鎧に隙間が見えて、「あそこに当てれば倒せるかも」みたいな雰囲気が出てきたところという感じですね。

飯田)エルドアンさんが、貧者対策みたいなことを初めてに近いくらいやったとか。昔の日本の田中角栄さんに似ているのかなあと思っていましたが。

高橋)金丸信さんとか、ああいう感じで。インテリから見ると「ちょっとダサいな」と感じるけど、貧しい人のためにやっていて。私はエルドアンが出てくる前にトルコのインテリと話していたのですが、「トルコの将来どうなると思う?」と聞かれて、「エルドアンさんが勝つ」と言ったら、みんなスゴく不満そうな顔をしたので、「だって貧乏人の面倒を見るの、あなたたちじゃないでしょう。庶民の気持ちが分かって政治しているの、エルドアンだけでしょう」と言ったら、インテリ全員、イヤな顔をしていましたね。でも、そういうおじさんが勝っている。エルドアンを批判する部分はたくさんありますが、何故エルドアンが勝ってきたのかも、日本のみなさんに分かって欲しい。

エルドアン反対派はイスラム化を恐れている

飯田)そういう意味では、トルコは「1人1票」の民主主義が徹底している部分がある。

高橋)そうですね。民主主義があるから、「エルドアンが今度負けるかも」と雰囲気があるわけです。普通ではプーチンや習近平が負けるとは、誰も思わないじゃないですか。そういう意味では、トルコも100%民主主義や言論が自由なわけではないし、刑務所に入っているジャーナリストもいます。ですが、エルドアンが成し遂げてきたことを評価した上で議論して欲しいとは思います。

飯田)「イスラム化が進んで、宗教国家になる」みたいにエルドアン政権を批判する人もいます。一方で、世俗を徹底したケマル主義時代のトルコは、それこそスカーフを公共の場で被るのも禁止とか、けっこう厳しいものもあったそうですよね。

高橋)我々専門家は世俗原理主義と言っていました。「スカーフを被らないといけない」も問題ですけどね。どうしてもスカーフを被りたい女性は、大学に行けなかったのです。なので、みんなアメリカの大学へ留学しました。アメリカは自由ですからスカーフ被ることができる。本当に勉強したい女性は渡米するような、不思議な状況だった。だから、エルドアンさんが少しイスラム的によりを戻したところはありますが、そんなに異常とは思いません。でも、「これは始まりで、どんどんイスラム化していく」という懸念が、エルドアン反対派に強いのでしょう。

クルド人をめぐり、外交と現場でぶつかり合いが起きている

飯田)一方、エルドアンさんというか、現トルコはシリア情勢に介入したりしていますが、報道を見ていると、NATOでありながら、イランの方とも仲良くしている気がしますが、どうですか?

高橋)最も近づいているのはロシア。ロシアから最新式地対空ミサイルを入れようとしていて、それが「NATO基準と合わないじゃないか」というのがある。
もう1つは、アメリカと対立しているので。アメリカがシリアでクルド人を支援している。トルコはクルド人口が多いので、「それは困る。アメリカさん、止めて!」というところです。このクルド問題が、アメリカとトルコの最大の問題です。トランプさんは例によって日替わりで発言が変わるから、どうなるのかトルコも迷っていて。このクルド問題で、トルコが納得するようなハッキリした政策をアメリカが打ち出してこない限り、トルコとアメリカ間の関係は揺れ続けざるを得ません。

飯田)シリア問題がロシア主導の形で落ち着いてしまうと、アメリカはすっと手を引きますよね。そうなれば、トルコと上手く行くかもしれない?

高橋)そうするとクルド人が見捨てられ、「あれだけアメリカのため血を流したのに見捨てるの?」となる。一緒に戦ったアメリカ軍は「戦友を見捨てるわけにはいかない」という感情が強いのです。冷静な冷たい外交的計算と、現場の血を流した人たちの熱い思いがぶつかっている。難しい問題です。

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