ニッポン放送からフジテレビへの大量移籍が、
業界の小さな話題になっています。
わたくしも当事者の一人ですから、
マスコミ関係者の集まりやパーティーでは、
必ず、「ねぇねぇ、どうなの?」などと寄って来られます。
「どうもこうもねぇよ」と返したら喧嘩になるし、
丁寧に応えていたら朝になっちゃうし、
何か分かりやすい例はないものか、いい本がありました。
移籍にあたって、あちこちから励ましの手紙、メールが届き、
目頭を熱くしたり、尾頭付きで一杯、飲ったり、
人の情のありがたさをしみじみ感じます。
中に一冊の本が添えられてありました。
ニッポン放送開局一期生のアナウンサー、
坂正夫大先輩からでした。
因みに私は、二十期生で、古い人も新しい人も知る立場。
毎度、OB、現役大集合の会の司会をしていますが、
アナウンサーだらけの会、こんなやりにくいことはありません。
昔とった杵柄、先輩方は、衰えを知らず喋る喋る。
でも、叱咤と激励が心地よく響きます。
三期生の半数近くが、フジテレビへと移籍したとのことで、
バレーボール中継などで活躍した山田祐嗣さん、
穏やかにニュースを伝えた今井彬さんがアナウンサー出身。
プロデューサーでは、これが本で知ってびっくり、
夏目雅子の「鬼龍院花子の生涯」などの監督五社英雄さん。
テレビ出身の映画監督第一号はラジオの出だった。
名作「三匹の侍」、人斬りの効果音は、
豚肉を白菜で巻いて、これを真剣で切った。
ラジオ屋ならではの凝りようだったと、
わくわくするような話がいっぱいのこの本は、
村上七郎著「ロングラン」(扶桑社刊)。
村上さんは、私は遠くから眺めたことがあるだけで直接、
話したこともありませんが、その伝説は耳にしていました。
大正八年の生まれで、戦後、共同通信の記者を振り出しに、
ニッポン放送開局でラジオに移り、
「婦人専門局」を打ち出し成功。
フジテレビ開局で転出、編成局長、常務、専務を経て、
テレビ新広島へ。
低視聴率番組改革のため再びフジテレビ専務となって
「オレたちひょうきん族」、「北の国から」などで
ヒットを飛ばし、視聴率三冠王を達成。
略歴だけで、その凄まじいマスコミ人生が伺えますが、
通読すると常に若々しい柔軟な発想と行動力、
そして、人と人のつながり、情が溢れていて
温かい気持ちになります。
今、フジテレビの社内には、中途入社組の紹介が
あちこちにでかでか貼られていて、活気を生んでいます。
人をだいじに、うまく乗せる、明るい社風というのが、
転出十日の私の印象です。
テレビもやっと五十年経った。
取り巻く環境も一段と厳しくなっている。
今後さらにこの優れたメディアを伸ばすためには、
人育てに思い切って投資しなければならない。
「われわれと一緒にやったリハーサルの時代は終わった。
いよいよ君たちだけの本番だよ」と村上さんは結んでいます。
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