1242 ニッポン放送
つかちゃんコラム
塚越孝
塚越孝
column
4月15日

ニッポン放送からフジテレビへの大量移籍が、
業界の小さな話題になっています。
わたくしも当事者の一人ですから、
マスコミ関係者の集まりやパーティーでは、
必ず、「ねぇねぇ、どうなの?」などと寄って来られます。
「どうもこうもねぇよ」と返したら喧嘩になるし、
丁寧に応えていたら朝になっちゃうし、
何か分かりやすい例はないものか、いい本がありました。

移籍にあたって、あちこちから励ましの手紙、メールが届き、
目頭を熱くしたり、尾頭付きで一杯、飲ったり、
人の情のありがたさをしみじみ感じます。
中に一冊の本が添えられてありました。
ニッポン放送開局一期生のアナウンサー、
坂正夫大先輩からでした。

因みに私は、二十期生で、古い人も新しい人も知る立場。
毎度、OB、現役大集合の会の司会をしていますが、
アナウンサーだらけの会、こんなやりにくいことはありません。
昔とった杵柄、先輩方は、衰えを知らず喋る喋る。
でも、叱咤と激励が心地よく響きます。

三期生の半数近くが、フジテレビへと移籍したとのことで、
バレーボール中継などで活躍した山田祐嗣さん、
穏やかにニュースを伝えた今井彬さんがアナウンサー出身。
プロデューサーでは、これが本で知ってびっくり、
夏目雅子の「鬼龍院花子の生涯」などの監督五社英雄さん。
テレビ出身の映画監督第一号はラジオの出だった。
名作「三匹の侍」、人斬りの効果音は、
豚肉を白菜で巻いて、これを真剣で切った。
ラジオ屋ならではの凝りようだったと、
わくわくするような話がいっぱいのこの本は、
村上七郎著「ロングラン」(扶桑社刊)。

村上さんは、私は遠くから眺めたことがあるだけで直接、
話したこともありませんが、その伝説は耳にしていました。

大正八年の生まれで、戦後、共同通信の記者を振り出しに、
ニッポン放送開局でラジオに移り、
「婦人専門局」を打ち出し成功。
フジテレビ開局で転出、編成局長、常務、専務を経て、
テレビ新広島へ。
低視聴率番組改革のため再びフジテレビ専務となって
「オレたちひょうきん族」、「北の国から」などで
ヒットを飛ばし、視聴率三冠王を達成。
略歴だけで、その凄まじいマスコミ人生が伺えますが、
通読すると常に若々しい柔軟な発想と行動力、
そして、人と人のつながり、情が溢れていて
温かい気持ちになります。

今、フジテレビの社内には、中途入社組の紹介が
あちこちにでかでか貼られていて、活気を生んでいます。
人をだいじに、うまく乗せる、明るい社風というのが、
転出十日の私の印象です。

テレビもやっと五十年経った。
取り巻く環境も一段と厳しくなっている。
今後さらにこの優れたメディアを伸ばすためには、
人育てに思い切って投資しなければならない。
「われわれと一緒にやったリハーサルの時代は終わった。
いよいよ君たちだけの本番だよ」と村上さんは結んでいます。



 
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