2月 8日
■熟練のメカニック、そしてアーティスト〜サッカー日本代表・中村俊輔■
ワールドカップを目指すサッカー日本代表の10番・中村俊輔。

神奈川・桐光学園のMFとして高校選手権をわかせた頃から
そのテクニックは目を見張るものがあったが、どこかひ弱なイメージもあった。
30歳になった今、俊輔は日本代表の、グラスゴー・セルティックの中心選手として
強く逞しく、賢い選手になった。

二宮氏は3−4年前、スコットランドを訪れて、2日間にわたって食事をしながら
俊輔に話を聞いた。サッカーの話ばかりだった。
そのとき、フリーキックの蹴り方について聞いた。
「足にボールを乗せて」「こすりあげるように」、難しい話が多かったが、
そのとき二宮氏は「俊輔は技術者だ」と思った。
中村俊輔の肉体をマシーンとして、俊輔自らがメカニックとして、
各パーツ(足)に改良を加えながら、キックの精度を上げていく。
だからあのフリーキックが蹴れるのだと。
天性のものもあるが、それに卓越した理論と研究・技術開発が加わっている。

2シーズン前のチャンピオンズリーグ、マンチェスターU対セルティック。
オールドトラフォードで俊輔は30mの直接FKを決め、チームを勝利に導いた。
海外の目の肥えたファンをもうならせたあのキックは、
セルティックの歴史に残るスーパーゴールとして記憶された。
グラスゴーのショップでも、俊輔のグッズは一番人気である。
日本語で「俊」と書かれたものが飛ぶように売れている。

俊輔がイタリアからスコットランドへの移籍を決めたとき、
スコットランドは技術よりも体力というイメージから「俊輔にはあわない」
という声も少なからずあった。ところが、俊輔はスコットランド・プレミアリーグの
MVPを獲得するほどの活躍をした。
スコットランドの冬は驚くほど日照時間が短い。従って、夜は長い。
街には娯楽も少ない。この環境は、逆に俊輔にとってはプラスに働いたのではないか。
四六時中サッカーのことだけ考えるような、求道者タイプの俊輔にはうってつけの。

グラスゴー出身の著名人には、「国富論」の経済学者アダム・スミス、
電話を発明したグラハム・ベル、そして多くのミュージシャンがいる。
長い夜に、家の中で研究や音楽作りに明け暮れたスコットランド人と
サッカーの追究にいそしんだ俊輔の姿が重なる。

俊輔はコーナーキックのとき、「ここ一番で点を取るぞ」という場面では、
コーナーに向かって走っていく。彼に理由を聞いたら「ピクシーがそうしていた」
というのだ。コーナーに向かって走ると、「ここで点を取るぞ」というシグナルが
味方に伝わる。チームを鼓舞する意味があるのだそうだ。

2010年ワールドカップ出場権獲得はもちろん、その先の本大会でも
中村俊輔は日本代表のゆるぎなき大黒柱になる選手だ。
かつて、俊輔を代表からはずしたフィリップ・トルシエ(元日本代表監督)は、
「止まっているボールを蹴るのはうまい」と俊輔を酷評した。
しかし、俊輔は動いているボールでも世界に通用する選手であることはイタリアと
スコットランドで証明した。そして、接触プレーなしに1点を取れる「飛び道具」は
日本の最大の武器でもある。
二宮氏は「俊輔のフリーキックを見るとき時間が止まる」という。
息をひそめて鑑賞したい気分になる。まさに芸術。
「技術者」中村俊輔がピッチの上でアーティストになる瞬間である。









 
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