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2018年12月25日
車いすバスケットボール男子日本代表・及川晋平HC (1)

今回のゲストは、車いすバスケットボール男子日本代表の及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)です。

“ベリーハードワーク”という言葉がすっかり定着した車いすバスケットボール男子日本代表。

今年も、8月の世界選手権や『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2018』を始めとする国際大会、
海外遠征、強化合宿など、ベリーハードスケジュールな一年を過ごしました。

今回は、そんな車いすバスケットボール男子日本代表、2018年の戦いを振り返りました。

 

2020年の東京パラリンピックを見据え、今年、チームが掲げたテーマは“試す”。

「チームも選手も、ピークに持っていくためのいろんな調整を試した一年」となりました。

 

6月に東京で開催された国際親善大会『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2018』。

オーストラリア、カナダ、ドイツ、そして日本の4か国が出場して行われました。

会場は、東京2020パラリンピック本番で車いすバスケットボール競技が行われる、武蔵野の森総合スポーツプラザ。

日本代表は「東京パラリンピック2年前のリハーサル」と位置づけ臨みました。

 

初戦となったドイツ戦で日本は65対60で勝ち一気に勢いに乗ると、大会2日目、昨年の大会では1点差で敗れたオーストラリアに52対44と雪辱を果たし、続くカナダ戦も64対53で勝利。

再びオーストラリアとの対戦となった、決勝戦では、65対56と勝利をおさめ、見事、全勝優勝を果たしました。

及川HCは「2020年の東京パラリンピックの会場で行われた貴重な大会で、戦略的にもチームのピークもすべてそこに合わせることができたというのは、我々にとっていい経験になり“自信”になった」と大会を振り返りました。

 

今年のテーマである“試す”の方向性を確かめるうえでも重要な場となった大会で、全勝優勝という結果を残した男子日本代表。

その“試す”を遂行するための土台は、昨年一年間かけてみっちり築き上げたものでした。

「リオ2016パラリンピックまでの戦い方を踏まえて、本当に東京でメダルを獲るために何をしなければいけないのかをずっと考えたのが2017年でした」

そう語る及川HCが、チームに提示したのは“壊す”ということ。

リオでの戦いを終えて一度チームを解体して、メンタルも戦略もすべてにおいて徹底的に“壊す”ということにフォーカスして強化を行いました。

選手だけではなく、及川HCご自身も“壊す”ということに向き合ったと話します。

「コーチって、自分の哲学や自分のやり方があったりするんですけど、それが世界に対してちゃんとフィットするかどうかを考えた時に、意外と自分のやり方ばっかり追求してしまうんです。だから、2017年は“壊す”年として、自分の考え方も哲学もバスケットのやり方も全部壊して、いろんなものを勉強したり、いろんな競技を見たり、アシスタントコーチとよく話したり…ちゃんと壊して本当にいいと思うものを作っていった年でした」

 

一年間かけて“壊す”ことで培ったものが、本当に通用するものになっているかどうか。

それを最初に試す大会となったのが、この『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2018』でした。

それが「日本代表の歴史上初めて、国際大会で全勝して優勝する」という形で現れたことで、今年取り組んでいる“試す”ということが、非常にいい方向に行っているという手応えを得ることができ、この優勝によって獲得した「自信」は、2020年に向かううえで大きな大きな財産になったといいます。

 

大会を実際に会場で観戦した、鈴木亮平さん。

他の国のチームが、ほぼ、スターティングメンバーで戦うなか、日本は全員でプレーしている感じがあり、チームとしての“一体感”を感じたそうです。

及川HCによると、この大会では、まさにその“一体感”というものが、ひとつのテーマとして挙がっていたと言い、こう続けました。

「ベリーハードワークと競争力というのは昨年からのテーマですが、今年はそこに、闘争心と団結力を加えて、いかに闘争心を持って、みんなが一体になっていくかというところをずっと突き詰めていくチームビルディングをしました。例えば、ベンチもコートも一体になるにはどうしたらいいのか、会場の人たちと一緒に一体感を作るにはどうしたらいいのか、そういったところにもちゃんと視野を向けて、みんなで一体感づくりをしつつ、自分たちの戦略をやっていくということに挑戦した大会でした」

 

 

『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2018』の勢いを持って、車いすバスケットボール男子日本代表は、イギリス遠征とドイツでの国際試合に臨み、8月の世界選手権を迎えました。

日本は“ベスト4以上”を目標に掲げ、パラリンピック前の、最後の世界大会となるこの大会に挑みました。

予選プールでイタリア、トルコ、ブラジルと同じ組となった日本は、初戦のイタリア戦で勝ち好発進すると、ヨーロッパチャンピオンのトルコを67対62で敗る歴史的勝利を挙げ、“日本が番狂わせを起こした!”と世界を驚かせます。

予選リーグを2勝1敗で終え、迎えた決勝トーナメント1回戦ではスペインと対戦。

第4Qで連続17得点を挙げる怒涛の追い上げをみせますが、あと一歩及ばず50対52でこの試合を落とし、オランダとの順位決定戦により9位で大会を終えました。

 

この9位という結果について及川HCは、「いろいろと捉え方があると思いますが、僕はものすごくポジティブに捉えています」と述べました。

その理由として挙げたのが、予選リーグでのトルコとの試合。

トルコは、(世界選手権で優勝した)イギリスを倒して予選を勝ち上がり、ヨーロッパチャンピオンとして世界選手権に臨みました。その強豪チームを日本が倒したというのは、「(15人制)ラグビー日本代表でいうと、2015年のワールドカップで南アフリカに勝ったような、ああいう感覚」だったと話します。

トルコは試合後、「日本に負けるなんてあり得ない」というような感じで、握手もせずに会場を後にしたそうです。それほど大きな出来事だったのです。

そんな“番狂わせ”を起こすことができたのは、1年半かけて着実に行ってきた強化と、『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP2018』で得た自信というものがあったからでした。

 

そして、今まではいい試合をしながらも最後は負けていくということも多く経験してきましたが、今回のスペイン戦に象徴されるように、後半に追い上げて、接戦に持ち込み、逆転していけるチームになってきたというのは、「それまでとは全く違うチームが出来上がってきた証拠」だと語ります。

世界選手権の結果を見ると、日本が『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP2018』で2連勝したオーストラリアが銅メダルを獲得。そう考えると、「日本は世界のベスト3やベスト4に入る力は十分にあって、あとは、東京に向かって、メダルに向けて、やることをしっかりやるだけ」だと思えた大会だったと締めくくりました。

 

 

10月にインドネシアで開催された『アジアパラ競技大会』決勝では、宿敵・イランに66対68と惜しくも敗れ、銀メダルに終わりましたが、世界選手権で4位となったイランを追い込むような戦いをしたことからも、今年取り組んだ“試す”ことでの着実な進化と、来年に向けての期待が感じられました。

 

次回も、車いすバスケットボール男子日本代表・及川HCをゲストにお迎えしてお送りします。

どうぞお楽しみに!

 

 

及川晋平HCのリクエスト曲:田園 / 玉置浩二

及川HCが、今年一番聴いた曲。ヘッドコーチとして、こういう風にしたいとか、ああいう風にしたいと考えていても、例えば、選手の体調不良などがあってプラン通りにいかず、うまくいかなくてイライラしたことがあったと言います。そんな時に、たまたま流れてきたのがこの曲だったそうです。曲を聴きながら「みんながいるし、今、自分ができることだけやりなさい、それがきっとうまくつながっていく」というように思えて、それからは何かあったらこの曲を聴くようになったということです。

2018年12月20日
フォトグラファー・越智貴雄さん (2)

フォトグラファーの越智貴雄さんをお迎えしてお送りした後編。

 

今回は、今年のパラスポーツシーンを振り返りました。

3月には、平昌2018冬季パラリンピックがあり、夏には、ウィルチェアーラグビー、車バスケットボール、ボッチャなど、多くの競技で世界選手権が行われた一年でした。

越智さんは8月だけでも、南半球のオーストラリアに始まり、ポルトガル、イギリス、ドイツ、オーストラリアなど7都市を飛び回り、様々な大会の取材をされました。

 

その中でも、特に印象深かったのが、8月上旬にオーストラリアのシドニーで開催されたウィルチェアーラグビーの世界選手権だったと話します。

日本ウィルチェアーラグビー史上初の、世界一に輝いたこの大会。

決勝は、<日本 対 オーストラリア>

一進一退の攻防、ターンオーバーの連続で、最後の最後までどちらが勝つかわからないような息をのむ展開…

試合の撮影をしていた越智さんは、ずっと興奮状態にあったといいます。

日本は、1点差で歴史的勝利をつかみ、選手たちは抱き合いながらお互いを健闘を称え、泣いて喜び、会場は歓喜にあふれました。

しばらくは、優勝した実感がないくらい「アドレナリンが出っぱなしだった」そうです。

この優勝の瞬間をとらえた一枚が、ご本人が選ぶ2018年の『ベスト・ショット・オブ・ザ・イヤー』となりました。

 

ちなみに、観客が試合を見て「ワー!」っと盛り上がり、拍手を送るような時にも、カメラマンは撮影をしなければいけません。

そんな時は、「シャッターに思いを込める」のだそうです。

試合や競技によっても違いますが、越智さんの場合、チームスポーツに関しては、だいたい多い時で(1試合)3千~5千枚の写真を撮るそうです。

自分自身が手に持ち、ファインダーで覗いているカメラはもちろん、実は、それ以外にも、定点のカメラ、例えば、天井に吊り下げているカメラや、スタジアムで横から撮っているカメラなどがあり、(持っているカメラの)シャッターを押すと、他のカメラも連動して写真が撮れます。

その中から、1枚を選ぶのも大変な作業ですね…

今度、試合の観戦に行くときには、ぜひカメラマンの動きもチェックしてみてくださいね。

 

世界中で行われる様々なスポーツを取材されている越智さんが、いま注目しているスポーツは?

気になる答えは、『サイバスロン』。

サイバスロンとは、「サイバー(機械工学)」と「アスロン(競技)」を掛け合わせて造られた言葉です。

パラリンピックの競技ではありませんが、今、“熱い”障がい者スポーツだそうです。

2年前、リオ2016パラリンピックが閉幕して3週間後の10月にスイスのチューリッヒで行われたサイバスロンの大会。

日本を含めて25ヵ国から66チームが参加して、全6種目が行われました。

パラリンピックスポーツとの大きな違いは、最先端の技術や機械の力も利用することができるということ。

パラリンピックでは動力を使うことができませんが、サイバスロンは、電気を使って、例えば、歩くことができない方が脚力を補助するパワードスーツみたいなものを使って階段を上り下りしたり、ソファーに座ったり立ったりを数回繰り返したり、腕を切断した方が電動義手を使って洗濯物を干したり・・・

競技を行うのは選手ひとりですが、大会に向けて、大学や企業の研究者もチーム一丸となって準備に取り組んできたため、ゴールしたあとにみんなで抱き合う様子は「奇跡が起きたんじゃないかなと思うくらい」心を動かされるそうです。

日本でも、来年、サテライト大会として行われる予定だそうなので、もし、近くで『サイバスロン』の大会が行われるようでしたら、ぜひ足を運んで、実際にご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

最後に、上をめざして進もうとする方に伝えたい“Going Up”な一言を伺いました。

『楽しむ』


「東京パラリンピックを日本中の人、世界中の人と一緒に楽しみたい」という思いが込められています。

 

越智貴雄さんのリクエスト曲:ミュージカル「マンマミーア」からマンマミーア

ミュージカルが大好きだという越智さん。ロンドンやニューヨークに行くと、必ず一日だけはミュージカルにどっぷりつかる日を作って楽しむそうです。その中でもマンマミーアは必ずといっていいほど行く、お気に入りの作品だということです。

 

次回は、車いすバスケットボール男子日本代表・及川晋平ヘッドコーチをゲストにお迎えしてお送りします。

どうぞお楽しみに!

2018年12月13日
フォトグラファー・越智貴雄さん (1)

今回のゲストは、フォトグラファーの越智貴雄(おち・たかお)さんです。

越智さんは、パラスポーツの現場で、パラリンピックをはじめとする数々の大会やたくさんのパラアスリートを撮影されています。

 

越智さんは大阪芸術大学に進学し、写真の勉強をしていました。

担当の先生は、昔、オリンピックの撮影をしたことがある方で、毎週のように「オリンピックはすごいんだ。世の中を変える力があるんだ」という話を聞く中で、いつしか越智さんもオリンピックの撮影をしたい!と思うようになりました。

オリンピックを撮影する前に、まずは英語の勉強をしようということで留学をして、それから、オリンピックの撮影をさせてもらいたいと、売り込みを始めました。

そうして、ある新聞社から声をかけられ、念願のオリンピック(2000年のシドニーオリンピック)を撮影するチャンスが訪れました。

オリンピックが始まると、連日連夜、街はお祭り騒ぎ。

2000年のシドニーといえば、柔道の井上康生さんや女子マラソンの高橋尚子さんのシーンが思い浮かびますが、実際に現地で取材をした越智さんにとっては、「街が動いている」「街が一体になっている」という印象が強く残りました。

 

オリンピックの撮影の仕事を終えて、帰国の準備をしていると、別の新聞社の方から「パラリンピックの取材もしない?」と言われ、喜んで引き受けました。

しかし、パラリンピックについて知っていることといえば、「障害のある人が行うスポーツ」ということくらい。

当時の越智さんは、「障害」というと、「がんばっている人」「かわいそうな人」といったネガティブなイメージを自分の中で勝手に作っていて、(障害を持つ人にカメラを向けてもいいのかな…)などと、大会が迫るにつれて不安が大きくなっていったそうです。

ところが、パラリンピックの開会式で誇らしげに笑顔で行進する選手たちをみて、その考えが一気に変わります。

(あれ、今まで自分が持っていた感覚って何だったんだろう)

越智さんは夢中になって、シャッターをきりました。

競技が始まると、義足の選手が100mを11秒台で走ったり、車いすバスケットボールでは激しいぶつかり合いがあったり、いろんなことを知ることで、自分の世界も広がっていきました。

そして、そのことがきっかけとなり、パラアスリートを撮り始めます。

 

2013年には、「お・も・て・な・し」のフレーズで記憶している方も多いと思いますが、東京オリンピック・パラリンピック招致の最終プレゼンテーションで、越智さんの写真が使われました。

谷(旧姓:佐藤)真海選手のスピーチ中に使用された「北海道で撮影した跳躍写真」。

この写真が“五輪を呼んだ一枚”と言われ、話題となりました。

 

これまで、夏冬合わせて、パラリンピックを10大会取材された越智さん。

パラリンピックという大会はアスリートにとって“特別中の特別”、「選手それぞれが、自身を表現できる最高の舞台」だと話します。

そのパラリンピック、しかも、日本で開催されるパラリンピックまで2年を切りました。

もうすぐやってくるその日が待ち遠しいですね。

 

そんな越智さんの写真展が、東京・虎ノ門ヒルズで開催されています!(12月16日まで)

これまで越智さんが撮影したパラアスリートや「切断ヴィーナス」の写真、約40点をご覧いただけます。

「切断ヴィーナス」は、義肢装具士の臼井二美男さんと2013年に立ち上げたプロジェクトです。

「まだまだ義足を隠さなければいけないと思っている人が多い。しかも家族がそう思うケースもある。特に女性はそうなんだよ」

臼井さんからそんな話をきいた越智さん。

それならば、臆さずに堂々と、まるでファッションアイテムの一つとして義足を見せているような女性たちを撮っていこうということで始まったのが、この「切断ヴィーナス」です。

個性的な義足を履いて、それぞれの方法で表現する女性たちの姿。

ぜひ、会場に足を運んで、越智さんの作品たちをご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

次回も、越智さんをゲストにお迎えしてお送りします。

どうぞお楽しみに!

 

越智貴雄さんのリクエスト曲:ステキなタイミング / 坂本九

小学生の頃から坂本九さんの大大大ファンだという越智さん。今でも、大事な大会、大事な試合の前に聞いている曲だそうです。